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テクノロジーと人類が共生する社会をSFプロトタイピングを使って妄想してみる

Fintertechストラテジーグループの川浪です。

弊社のブログはSFプロトタイピング強化期間(?)ということで、恥ずかしながら書かせていただきます。ブロックチェーン、機械学習をはじめ、テクノロジーの進歩と人間の共生、あたらしい社会のあり方が主題です。

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デジタルアート専門学校の入学式にて 

西暦204X年のとある島国では、デジタルアート専門学校の入学式が行われている。入学式といっても、昔のように一同に会することもない、当然ながらバーチャルな空間での入学式だ。えらく歳をとった画家兼物理学者(量子力学の権威、らしい)が新入生への言葉をぼそぼそと呟きだした。

「振り返ればこの10年、サービスのデジタル化競争は進み、国家、また公的なサービスのデジタル化に成功した一部の国とそれに失敗した多く国に別れました。そしてデジタル化に失敗した国々では未だに格差問題を解決できておらず、資本効率も低下の一途を....中間層は壊滅し...」

そう、確かにこのあたらしい国はあたらしいシステムを採用している。昔からの国とは違い、財産の独占問題に対する解決策として、財産の自己申告制度を採用している
富の独占を防ぎ、資本効率の上昇の施策として、財産に対して自らその資産額を決定する。そしてそれには固定の税率がかかる。国、及び他人は所有者が決定した資産額以上で年に一度その財産を購入することができる。
仮に市場価値よりも安く自己申告した場合には税金が低いが、他者により、申告額で買い取りされてしまう可能性がある。逆に市場価格よりも高い金額で自己申告した場合は、他の人よりも多く税金を払うこととなる。もちろんその財産の所有により、その税金が払われていれば良いのだ。(ちなみにこの自己申告額は、改竄ができないようパブリックなブロックチェーンに記載されている。個人情報は言うまでもなく暗号化されている)。
このある種、財産に対する所有権を社会と保有者で共有するシステムにより、資本効率が改善し、富裕層による富の独占という資本主義の課題を解決したことがこのあたらしい国のオッサンたちの誇りなのだ。この辺りのことに詳しいパパ曰く、Arnold Harbergerが提唱したハーバーガー税の進化系らしい。
確かに、ブロックチェーンという技術を監視国家の礎としたやつらと違って、真に競争的で、開かれた、自由な市場を創造したのは素晴らしい。そしてそれによって格差を減らすことに成功し、社会を分断しているイデオロギーと社会の対立も解消した。
でもそれはオッサン世代の自慢であって、これからを生きる僕には何の意味もない!なんてことを考えていると、やっと有難いお言葉も最後になったようだ。


競争的で、開かれた、自由な市場がある社会

例の画家兼量子力学者が最初のぼそぼそとした感じとは違って、勢いよく言い出した。

「この時代において、もう旧来のマーケティング戦略は重要ではありません!アーティストはただ純粋に”良いモノ”を作れば良いのです。昔のようにメディアに出て有名になる必要もない。本当にいいモノを創ることが、最も重要な世界なんです!」

そうその通り、真に競争的で、開かれた、自由な市場があるこの国では、作ったモノの価値が純粋に評価される。ほぼ全てのモノに対して正当な値段がつけられているのだ。また、値段をつけるのは人だけじゃない。価値算定をする機械もいる。実際のところ機械は未だにアート作品そのものを理解する能力が低いので、アート作品そのものを判定することよりも、誰がそのアート作品を保有して、応援しているかによって価値を算定している。そいつらが値段をつけて、買いたい人を見つけてくれる世界なのだ。そしてこの世界においては、無から有を生み出す僕のようなクリエイターこそが最も人間的な創造活動をしているのだ(たぶん)。

ちなみにデジタルアートのオリジナルデータは世界アート協会(非営利)がパブリックブロックチェーン上に登録してくれている。これで僕のようなクリエイターが作った作品はインターネットが完全に止まらない限り、未来永劫保存されるという仕組みだ。

また、作品の売り出し方も変わった。昔ながらのアート作品を所有するって概念とは違って、人数限定の共同所有っぽい概念だから、共同所有者数の制限設定が一つポイントになっている。成功するための正攻法は、デジタルアート好きなコミュニティの人たちに無料で共同所有権を配布、その中で好いてくれる人たちが自発的に宣伝し、値段をつけてくれるというものだ。この辺りも学校で教えてもらう一つの項目になっているので楽しみだ。
パパに言わせるとこの仕組みは10年以上前の仮想通貨・トークンエコノミーの設計に似ているらしい。ちなみにパパは有名な暗号学者で、デジタル化に後れを取り続け、税金の負担が重くなり続ける東の島国を離れて、このあたらしい国に移り住んだ人なのだ。なかなか先見の明があるところは僕に似いていると思っている。


デジタルアート ライブ作成&展覧会に行く

入学式がやっと終わり、簡単なガイダンスも終わって、やっと心待ちにしているタイミングが訪れた。今日は2か月前に予約したデジタルアートの展覧会に行く予定なのだ。しかも一緒に行くのは中学校時代の同級生で、学校のアイドルだった@潤羽Lokiaちゃん!
あのアイドルと一緒に展覧会に行けるとは!予約枠をパパに無理やり取ってもらって良かった!もうすぐ一緒に展覧会のVR空間に入れるなんて、頑張って話しかけて良かった。
一つ、まだ悩んでいることがある。約束の時間より先にwaiting 状態にして紳士に待つべきか。それとも、クリエイターっぽく少し遅れて行ったほうがカッコいいのか…


一時間後、自分の目の前ではVR空間上に描かれた風神が僕を見下ろしていた。
これを早々と描いたアーティストのお姉さんは今、少し離れた場所でもう雷神を描きはじめている。そこには多くの人だかりがあって、その制作過程を見つめている。@潤羽Lokiaちゃんもその中にいて、この会場を仕切ってるぽい男たちと楽しそうに話をしていた。
彼女はこの会場に入るなり、僕を置いてアーティストのお姉さんのところに走っていったのだ。どうやら、彼女はLive制作を楽しみにしていたらしい。たぶん、僕がクリエイターらしく少し遅れたことが彼女を苛立たせたみたいだ。
正直、彼女には僕がクリエイターとして何を目指しているか、なぜクリエイターになろうとしたのか、そういうことを聞いてほしかった。こういうこと両親以外に話すことほとんどなかったし…
多くの人が会話をしている。きっとこのアーティストが注目だとか、誰の共同所有権を手に入れたとか、楽しい話をしているのだ。誰とも話をしていないのが僕だけなんじゃないかって思えてくる。ぼっちは慣れている僕だけど、自分の好きなアートの世界でのぼっちは初体験だ。

もうこの空間から抜けたくなってきた…まだ展覧会の時間は2時間以上残っているから、今から僕が使っている入場券をオークションで売りに出せば多少なりともお金になるなと考え出した時に、あの人に話しかけられた。
後から思うことだけど、きっとあそこであの人と話さなければ僕の人生は違うものだっただろう。アートプロデューサーだと自己紹介してくれたあの人が教えてくれたのは、僕が住むこのあたらしい国とは違う考え方だ。

あの人に話しかけられて、小一時間、本当にいい時間が過ごせた。自分のやりたいことをこんなに他人に話せたこと自体が初めてだったし、肯定してもらったことも初めてだった。
自己肯定感満載な気分の中で、最後に言われた一言が心の中で軽く残っている。

「君の作品は恐らく、こんな共同所有権を分かち合うような展示会には相応しくない。もっとハイエンドで限られた人たちにだけ見せるべきだ。そこでなら君の作品は正当に評価される。人間が本当に愛しているものに対して独占したいと思うことは、自然な感情なんですよ。この国は個人の自然な感情を我慢させることで成り立っているんだ。少し不自然だと思いませんか?


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最後に

斉藤賢爾先生、HashHubの平野くん、LayerXの福島くんのSFブログ記事から触発されて書いてみた今回の記事ですが、自分なりの社会課題に対する将来の回答を書かせていただきました。
もっと多くのテーマについて書きたかったのですが、SFという世界感の都合上&文章力の無さから盛り込めませんでした。

盛り込みを断念したテーマは以下です。

・将来の資金募集のあり方
・将来のKYCのあり方
・将来の信頼のあり方
・働くということから価値を作るといことへの意識転換
・監視国家とあたらしい自由をもとめる人間の葛藤
・プライバシーと暗号 暗号の重要性が非常にました世界
・一個人の中の多面性をダイバーシティの一つとして許容する社会=一個人が複数の社会的アイデンティティを持ちそれに対して責任を持つ世界

また機会が貰えれば、次なるチャレンジとして書かせてもらいたいと思っています。
このSFを書くにあたって、自分が持つ将来に対する断片的なビューをある程度纏める必要がありました。その過程で自分が抱いているビュー同士が矛盾を抱えていることに気付くこともあり、思考実験としては一定の効果があったと考えています。
自らの意見を書くブログとは異なる技量が求められるため、費用対効果は芳しいとは言えませんでしたが、一つの思考整理手法としては試す価値があると思います。

素人の書いてみたSFにお付き合いいただきありがとうございました。