MSCAフェローシップ申請書の構成と評価方法、おすすめサイト

今回のnoteから申請書の具体的な書き方に入るつもりでしたが、その前にもう1回だけ、申請書の概要と評価方法の説明を入れることにしました。MSCAは申請書として用意すべき書類がいくつもあって見落としがち (実際、私は研究倫理レポートを見落としていました)なので、ご参考になれば幸いです。

1. 申請書の構成、フォーマット

初回のnoteでお伝えしたように、MSCAの申請はオンライン上でホスト機関(スーパーバイザー)が行います*。申請は以下でご説明するようにpart Aとpart Bに分かれており、前者はオンライン上で入力、後者はあらかじめwrodなどのテキストで準備しアップロードするというかたちになります。各パートの各項目で何を書くべきかは全てGuide for Applicantsで説明されています。

* 大きな声では言えませんが、私の場合はスーパーバイザーからログイン情報を教えてもらって、私自身が入力と申請を行いました。

[Part A]

主に事務的な情報。Guide for ApplicantsのAnnex3に沿って、オンライン上で以下を入力:

(1)研究内容

タイトルとアクロニム*、期間、応募区分、キーワード、アブストラクト(2000文字以内)、過去の申請経験の有無、申請書に関する宣誓

* アクロニムは、研究タイトルの頭文字などを使って作る研究名で、申請中も採択後もずっとこの名前で呼ばれることになるので意外に重要。

(2) ホスト機関情報

名前、分類(アカデミックかどうか等)、住所、部署/学部

(3) 研究者の情報

名前、国籍、タイトル、生年月日、性別、居住国、出生国、所属機関の名前と住所、メールアドレス、ORCIDとResearcher ID(任意)、博士号取得(見込)日、博士号取得に向けた研究を開始した日(課程博士の場合は入学年月日)、博士号の前の学位を取得した日、応募の5年前から居住している国と居住日数のリスト

(4) スーパーバイザーの情報

名前、タイトル、性別、メールアドレス、職位、部署/学部、(所属機関の)住所、電話番号

(5) 予算

家族手当を受ける資格の有無

* 予算は自動的に計算されます

(6) 研究倫理

研究倫理の質問事項にyes/noで答える。ここでyesの項目がある場合は、その内容と対処方法を申請書Part B2で研究倫理レポートにて述べる必要がある。

[Part B]

評価の対象になる、コアのパート。研究内容を述べるPartB1と、研究者のCV(履歴書)やホスト機関情報、研究倫理レポートなどから成るPartB2に分かれる。

<Part B1>

直接、採点の対象となる部分。以下の3つから構成される。

(1) Excellence

研究概要を述べる最も重要な部分。4項目に分かれており、1.1項目は一般的な研究申請書に書かれる内容 (研究目的、背景、最新動向、具体的な研究手法等)を述べる。1.2項目はMSCA-IF独特のものであり、研究者とホスト機関の間でお互いに受け渡す専門知識やスキルを述べる。1.3項はホスト機関とスーパーバイザーのクオリティ(如何にすごいか、本プロジェクトに適しているか)を、1.4項は研究者自身のポテンシャルおよびそれがMSCA-IFを通して如何に伸ばされるかを述べる。

(2) Impact

本研究がいかに学術的・社会的に良いインパクトを与えるか、そのために研究期間を通してどのような働きかけを行うかを具体的に述べる。さらに、本研究とMSCA-IFの経験が研究者自身にどのようなインパクトを与えるかも、将来像を具体的に示しつつ述べる。3項目から構成される。

(3) Quality and Efficiency of the Implementation (以下、Inplementation)

研究の具体的な計画と、それを遂行するためのキャパシティをホスト機関が持つことを述べる。前者では、全期間の月単位の作業計画を、WP (Work Package)という作業単位でGantt chartと共に説明する。また、潜在リスクととの対策などについても述べる。

<Part B2>

(1) CV

最大5ページで、論文リストなどを書く。最低限書くべき項目はGuide for Applicationに示されているが、他の項目を独自に加えてもOK。フォーマットは自由。

(2) ホスト機関、パートナー機関(Secondment先)情報

受け入れ担当者名や、機関の概要、所持する装置や設備、研究プログラムの参加実績など。あらかじめ指定されているフォーマットのリストを埋める。

(3) Ethical issues

Ethical issueについて、内容と対処方法、EU/ホスト国の関連法令、ホスト機関の規則などについて述べる。ホスト機関の協力が無ければ書けないので、How to complete your ethics self-assessment を読んで自分の研究のEthical issue 有無を確認しておく。実験系の研究は大体「issueあり」になるはずなので、自分には関係無いと思わず早めにチェックしておきましょう!


2.  MSCA-IFの評価方法

評価方法もGuide for Applicantsで詳しく述べられていますが、簡単に紹介します。

1つの申請書につき3人以上の評価者(専門家)が付き、それぞれ個別に評価を行った後、意見をすり合わせて評価レポートが作成されます。それがさらに上の段階のPanelに提出され、そこで各レポートと申請書が比較された後、最終評価が行われます。

全応募区分での専門家リストは公開されています。こちらのページのfilter by programでHorizon2020を選び、さらにExpert names (annual lists) -> Excellent science -> Marie Skłodowska-Curie Actions とたどっていくと、登録されている専門家の名前、専門分野のリストをダウンロードできます。

MSCA-IFの直接の評価点数は、Part B1の3項目 (Excellence, Impact, Implementation)に対して付けられます。もちろん、PartB2のCVなども読んだ上で、評価をB1に反映するわけです。B1の各項目が5点満点で評価され、その合計がトータルスコアとなるのですが、合計する際に項目ごとに重みづけがなされます:Excellenceは50%, Impactは30%, Implementationは20%です。つまりExcellenceが最も重要視されているわけです。このことは、もしトータルスコアが同じだった場合のランク付けの際に、Excellence, Impact, Implementationの順にその項目でのスコアが高い方が優先される、という評価方法にも反映されています。

ちなみに、私のスコアは Excellence: 4.9, Impact: 5, Implementation: 4.8 で、4.9 x 0.5 + 5 x 0.3 + 4.8 x 0.2 = 4.91 -> トータルスコア 98.2 % (100%が満点)でした。

応募区分ごとの合格者の最低スコアはこちらなどにも掲載されていますが、だいたい91%前後です。残念ながら不合格だったけれども85%以上の高スコアを獲得した申請には、Seal of Excellenceというquality labelが与えられ、別の申請の際に有利に働くことがあるようです。

3. 申請書執筆の際に参考になる資料

このページでも、どのように申請書を書くべきかを具体的に述べていくつもりですが、世界中の申請者が参考にしている(であろう)サイト/資料がありますので、ご紹介します:

1. Net4Mobility+ "MSCA-Individual Fellowship Handbook 2020"

MSCA-IF申請者に向けた、非公式ではあるものの非常に実践的な申請の手引き。B1の各項目について、合格者は何が強みになったか、不合格者は何が弱点だったかなどを詳しく説明している。

PDFのURLはこちら

2. Horizon2020 NCP Luxembourg "How to Write a Winning Proposal for Individual Fellowship"

実際の合格者/不合格者に対する評価レポートでの評価者のコメントを紹介しながら、PartB1の各項目に書くべきことを説明しています。

PDFのURLはこちら

3. Talk academia "Horizon 2020 (H2020) Research Funding"

主に申請者で構成される、非公式な掲示板です。掲示板なので内容に真偽はあるかもしれませんが ご参考までに。私は申請後に存在を知りました。

URLはこちら


のびのびになっていて申し訳ないですが、次回からPart B1 / B2の具体的な書き方に移ります!

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