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けめたんと隆也 共感と希望の夜

静かな病室


回復期リハビリ病院の病室で、夜の静寂が深まる。
53歳の隆也がベッドに横たわり、自分の状態について考え込んでいた。
右半身全体にマヒが残る彼の心は、混沌とした感情に揺れていた。
隣のベッドでは、右足の膝から下を切断した同い年の男性が静かに横になっている。

内省の時間


 隆也は、右手右足が動かない自分の状況を静かに受け入れようとしていた。彼は自分ができること、できないことを考え、心の中で葛藤していた。
立ち上がれるが歩けない、移動は車椅子。
右手右足はぶらりとしたままで無意識な反射で時折動く程度、発音はできるが顔面の動きに左右差がある。
右半身の体幹は弱く、座っていても左半身で右半身を背負ってるように疲れる。 動かない右腕は重りにしか思えない。

隣のベッドの男性は今は義足を使って歩くことを訓練している。
リハビリ後は大汗を掻く。リハビリ後はいつも義足を丁寧に拭いている。

二人とも移動の困難さと障害に向き合い、今の体に慣れ、克服するために毎日リハビリしている。



二人の会話


そこに、けめたんが現れて隆也を見つめている。
隆也はけめたんに話しかけた。「けめたん、今日はなんだか眠れないよ。他の人は、みんな寝てるんかね?」

それを聞くとけめたんは、カーテンで仕切られた隣のベッドの男性を起こした。
隆也は、あっと思ったが、けめたんは続けて隣の男性に話しかけ、
「起きてくださいな。ねえ、どっちがいいと思う?右足がないのと、右手右足が動かないの」と尋ねた。

隣の男性は目をこすりながら、思慮深く答えた。
「難しいなあ。足がないのは辛いけど、手が使えるのはありがたい。パソコン仕事はできるし。でも隆也さんみたいな脳卒中のマヒだと、今からリハビリで動く可能性もあるし。オレは動かなくても足が付いてる方が羨ましいよ。見栄えもいいじゃん」

隆也は深くうなずき、自分の状況を受け入れようとした。
「そりゃ、この病院にいる人は今までなかった負担はあるし、それぞれ違うわな。どっちがいいとか選べんし」と彼はつぶやいた。

隣のベッドの男性も、共感を示しながら言った。
「そうねえ、考えてもしゃあない。ただ、ないはずの右が痒いと感じることがあるんよ。足ないからかけないし、薬も塗るところもないし。これはどうしたもんかね」

隆也は「こないだ車椅子に右手が挟まってた。なんかタイヤが引っかかると思って気づいたんよ。感覚ないから痛みも痺れもない。擦れて血が出ていたよ」

隣の男性は「隆也さんにはイーロン・マスクの技術が、オレにはヒュー・ハーの技術が発展、実用化すれば楽になるよね。そういう技術に3兆円くらい投資する人がいて、光速で普及せんかな」

隆也と隣の男性は、会話に心が軽くなり、新たな希望を見出した。 隆也はけめたんに「ありがとう。これあげるよ」と個包装のクッキーをいくつか渡した。
けめたんは、隣の男性からはチョコをもらっていた。

夜が更けると、二人は穏やかな気持ちで眠りについた。
彼らの対話を静かに見守ったけめたんは「二人の言葉には深い意味があるね」と静かにつぶやいた。
そして、そっと部屋を後にした。
クッキーとチョコは忘れていった。

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