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正しく怖れる

1 現代柔道とブラジリアン柔術(BJJ)の違いのひとつに、「足関節の有無」が挙げられる(注1)。

注1)昔の高専柔道では、「膝十字固め」に代表される足関節が存在したらしいから、「足関節の有無」が両者の本質的な違いとまでは言えないのだが。


 BJJに限らず組み技系格闘技の初心者の多くは、足関節に対して「(怪我が)怖い・・・」という印象を持っているだろう。

 私もそう思っていたし、実際に足関節で2度怪我をさせられて離脱を余儀なくされたので、今でも怖い。

 足関節の怖さの原因は、それが「どのような理合に基づいて、どこを極めているのか?」初心者には全く分からないという点に求められるだろう。

 コロナ禍で「正しく怖れる」というフレーズが流布したが、その危険性や原因がよく分からないモノに対して「怖れて、近づかない」ようにするというのは、自分の身を守るという観点からは賢明な振る舞いだと思う。

 だから、足関節の理合や怪我の危険性が分からないから、これを怖れるという態度も、「臆病」なのではなく、自分の知性がまっとうに働いている証拠だと考えていい。

 したがって、スパーリングや試合で、相手が足を捕ってきたら、すぐタップするというのは、怪我を防ぎ、身を守るという点からは正しい。
 むしろ、「どこがどう極まっているのか分からないのに、恐怖心に駆られて暴れて逃げようとする」のは、自分から(足関節が)極まる方向に動いて怪我をしてしまうリスクを高めるので、絶対に止めた方がいい。

 これとは正反対に、足関節の怖さに対して「無知である」がゆえに、稀に怖いモノ知らずとなって、絶対にタップしようとしない者がいる。

 腕十字や締めは、極まる部位が身体の枢要部に近いせいか、誰でもタップをしてくれる。
 これに対して、足は身体の枢要部からもっとも遠い位置にあるせいか、怖いモノ知らずの人々は極まっていても大したことがないと勘違いしてしまうのかもしれない。

 足関節が極まっているのにタップをしなければ、大怪我をして日常生活に著しい支障を来すだけではなく、最悪練習に復帰する事そのものが不可能になってしまう。

 「無知は罪」という言葉があるが、少なくとも足関節に関する限り、「無知は罪でもなければ恥でもない」。
 怖いと思ったら、怪我をしないためにも、即タップ。
 これに尽きる。

2 私がBJJの稽古を始めた際、先生から「足関節を覚えようとするとパスガードが上達しない」と言われた。
 
 私個人は、グレイシーの「ポジション・ビフォー・サブミッション」の考え方に則って稽古しているので、パスガードをしたら次はマウントやバックを取りに行く。
 だから、自分から足関節を極めに行く事がない(したがって、足関節は〔も〕下手くそである)。

 ただ、この半年程熱心な会員さんに頼まれて、一緒に足関節のドリルとレッグロックゲームに取り組んでいる。

 自分で足関節の習得に取り組んでみると、確かに「パスガード」と「足関節」は両立しないと感じる。
 
 「ゴードン・ライアンは、パスガードが巧くて足関節も出来るではないか!」という反論があるかもしれないが、彼は例外である。

 「パスガード」して、「マウント」や「バック」を取りに行くという一般的なBJJの組み立て方は、「上半身を抑え込む」事で成り立っている。
 これに対して、「足関節」で相手を極めるには、(ジョン・ダナハーの受け売りになるが)「下半身を抑え込」まなくてはならない。

 つまり、「パスガード」をすれば、相手の「上半身」を抑え込む事が必要になり、「足関節」を極めるには、相手の「下半身」を制しなくてはならない。

 したがって、「パスガード」と「足関節」では、それぞれ目標が異なるため、この二つを同時にマスターしようと思うならば、異なる2つのスタイルを習得しなければならないのである。

 ゴードン・ライアンのように一日3部練出来る人であれば話は別だが、標準的なBJJ実践者が2つのスタイルを同時に習得しようと思っても、それは練習時間との兼ね合いから極めて難しいと言わざるを得ないだろう。

 そうした現実を踏まえて、日本のBJJ界隈では「足関節を覚えようとするとパスガードが上達しない」と言われているのかもしれない。

3 「正しく怖れる」という事で、BJJ初心者は「怖いと思ったら即タップ」と書いたが、競技柔術の試合に出るのであれば、残念ながら「足関節」を無視する事は出来ない。

 サブミッションを覚える事を通してその理合を知り、同時にサブミッション・ディフェンスも習得するのであれば、サブミッションの手数を増やす事にも意味がある。

 まさにその具体例が「足関節」で、足関節の正しい掛け方を知る事が、正しい逃げ方を知る事に直結する。

 そのうえで、やはり「足関節」の危険性を考えると、その練習には(ドリルであれ、スパーリングであれ)パートナーとの信頼関係が絶対に必要である。

 初心者が「足関節」に対して、恐怖心に駆られて暴れて(自分から足が極まる方向に)逃げてしまう可能性を考えると、初心者を自分の「足関節」の実験台にするかのような真似は論外である。
 また、相手に「負けたくない」という一心で絶対にタップをしない人々とスパーリングをしても、結局は(相手を慮る余裕がある人は)キャッチ&リリースするしかなくなるので、レッグロックゲームの上達の役にはあまり立たないだろう。

 今一緒に「足関節」のドリルをやっている会員さんは、「足関節をやる前は、とにかく怪我が怖かったのですが、やってみると、案外怪我をしないものだと分かりました。
 ただ、そのためには、相互の信頼関係が不可欠ですが」と言っていた。

 そう考えると、これから「足関節」を覚えようという人は、まず道場内で信頼できる人間関係の構築から始めなければならないのかもしれない。

 組み技の上達には、良きパートナーの存在が不可欠であり、彼(ないし彼女)に対する感謝の念を忘れてはならない、という当たり前の事を彼が思い出させてくれた。

 ・・・

 最後に、「足関節」の打ち込みの参考になる動画を紹介しておこう。初心者向けの動画としては、この動画が(私の知る限り)最も出来が良い。


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