令和6年司法試験 選択科目(倒産法)再現答案

第1問

設問1

1. 破産管財人D は、破産者であるA 社の代表取締役B の責任を追及するため、役員の責任査定申立て(破産法178条)の手続を用いるべきである。

2. A 社は株式会社であるから「法人」(178条1項)であり、A 社について破産手続開始決定がなされている。よって、破産管財人D による申立てがあり、裁判所が「必要と認めるとき」に役員責任査定決定がなされることとなる(179条)。

 破産管財人は、上記申立てをするときには、「その原因となる事実」を疎明しなければならない。

3.(1) B が負う責任としては、取締役の会社に対する任務懈怠責任(会社法423条1項)が考えられる。まず、B は、A 社の代表取締役であり、「役員等」(同項)である。

(2) そして、B が「その任務を怠った」といえるかにつき、まず、会社の取締役は、善管注意義務(会社法330条、民法644条)の一環として、会社の財産を適切に管理する義務を負うところ、B は、B の弟に対し、令和4年6月末日、独断でA 社から弟に対する1000万円の貸付けをしている。B の弟は個人で飲食店を経営しており、資金繰りに窮していた。このような者に対して1000万円という多額の貸付けをすることについて何ら経営上の必要性は認められず、善管注意義務違反が認められる。また、A 社は令和4年3月末日債務超過に陥っており、このような状況下では、A 社にとって、1000万円という金銭の貸付けは取締役会決議が必要となる「重要な財産の処分」(362条4項1号)にあたるというべきであり、にもかかわらずB はこれを独断で行っているから、取締役の法令遵守義務(355条)に違反する。したがって、B は「任務を怠った」といえる。

 また、B の弟は飲食店を閉店し、上記貸付金を回収することが不可能となっているから、上記任務懈怠によって、A 社に1000万円の「損害」が生じている。

(3) したがって、D は、上記事実を疎明して、査定の申立てをすべきである

設問2

1. まず、破産管財人D は、破産財団に属する一切の財産につき、破産手続開始のときにおける価額を評定する必要があり、破産者を評定に立ち会わせることができる(153条1項)。そして、破産管財人は、「破産財団に関する経過及び現状」(157条1項2号)等の事項を記載した報告書を裁判所に提出する。この際、裁判所は、破産財団に属する財産の管理及び処分の状況」等の報告を管財人に命じる事ができる(同条2項)。

2. 157条2項の報告を命じる場合としては、債権者委員会が、破産債権者全体の利益のために必要があるとき、同項の命令をするよう申出をしたとき(147条1項)、当該申出が相当であると認めたときなどがある(2項)。本件では、B がA 社の財産を隠匿したことやB が多額の遊興費を支出していることなどが報告されており、これらの事実が疑われることを裁判所に申し出ることになる。

3. この際、「破産者」であるD は、破産管財人、債権者集会等による請求があった場合には、破産に関し必要な説明をしなければならず(40条1項柱書、同1号)、裁判所が指定する財産の内容を記した書面を提出することになる(41条)。これを通じて、破産管財人及び裁判所は、B の財産状況について調査をすることとなる。

設問3

1. 本件事業譲渡①について

(1) 本件事業譲渡①は、A 社の財産である店舗4店舗を、E 社に譲渡したものであるところ、これを、相当対価を得た財産処分行為として、161条に基づき否認することが考えられる。

(2) まず、本件事業譲渡①の目的となったのは、各1000万円の店舗4店舗であり、これをE 社に譲渡する対価として4000万円が支払われているから、譲渡①は「相当の対価を取得」してなされた財産処分行為である(161条1項柱書)。

(3) そして、譲渡①は、店舗という、確実な金銭への換価が期待できる財産を、4000万円の現金という、破産者が私的に費消するなどのリスクが高い財産に変換するものであり、「隠匿等の処分…をするおそれをするおそれを現に生じさせるもの」(同項1号)にあたる。

(4) A 社は、譲渡①の対価を、A 社の取締役であるF からの借入金の弁済として支払っているところ、A 社に「隠匿等の処分をする意思」(同項2号)はあったか。

 破産手続は総債権者のためのもので、破産者が対価を私的に費消する場合と特定債権者に供与する場合とで異なる扱いをする必要はないから、「意思」とは、破産者が対価を私的に費消するような意思に限らず、密かに特定の債権者に対する債務の履行をする目的も含むと解する。

 そうすると、A 社は、債権者であるF に対して譲渡対価を弁済する目的を有していたのであるから、「意思」を有していた。

(5) 相手方であるE 社代表取締役B は、「破産者」であるA 社の代表取締役であり、「破産者が法人である場合のその取締役」(162条2項1号)であり、また、B はA 社株式を70%保有し、「議決権の過半数を有する者」(2号イ)であるから、隠匿意思悪意(同条1項3号)の推定がある。また、弁済を受けたF もまた、A 社の取締役であるから同様である。この推定を覆す事情もないから3号を満たす。

(6) したがってD は、161条に基づき、譲渡①を否認できる。

2. 譲渡②は、160条1項に基づき否認することとなる。

 まず、譲渡②は、令和5年3月末日、4000万円の価値を有する店舗を、G 社に、1000万円で譲渡するものである。A 社はすでに債務超過の状態にあり、その時点で事業を停止していたところ、そのようなA 社の財産を3000万円減少させる行為として詐害行為にあたる。そして、当該詐害性をA 社代表B は知っていた(1号)。また、本件譲渡を受けたG 社は、譲渡を受けた当時、A 社が債務超過の状態にあり資金繰りに窮していること及び事業を停止することを知っていた(2号)。したがって、1項1号の要件を満たす

 もっとも、このように対価が1000万円とされたのは、G 社がA 社の借入金債務3000万円を引き受けたためである。そうすると、実質的に、3000万円の値引きについては債務引受の対価に対応し、その限りで破産財団の減少はないから、有害性を欠く。したがって、譲渡②を否認できない。


第2問
設問1

1. 小問(1)

 再生計画案の可決は、議決権者の過半数の同意(民事再生法172条の3第1号、頭数要件)と、議決権者の議決権の総額の過半数の同意(2号)のいずれもが必要と定められている。

2. 小問(2)

(1) 再生債務者に対する再生手続開始前の原因に基づいて生じた債権は再生債権となり(84条1項)、その議決権額は、原則として、債権額に応じて定められる(87条1項4号)。

(2) まず、B のA 社に対する売掛金債権500万円は再生手続開始前の原因に基づく。そして、再生手続開始の前日までの遅延損害金も、債務不履行による損害賠償請求権(民法415条1項)として、手続開始前に生じているから、共に再生債権となる。

 次に、再生手続開始後から支払済みまで年14.6%の割合による遅延損害金については、手続開始後に生じたものであるが、「再生手続開始後の不履行による損害賠償…請求権」(民再84条2項2号)として再生債権となる。もっとも、これは、「84条2項に掲げる請求権」として議決権がない(87条2項)。

 したがって、B は売掛金500万円及び前日までの遅延損害金10万円についてのみ議決権を有する。

3. 小問(3)

(1) C の債権はユーロ建ての200万ユーロの売掛金債権である。これは「金銭債権」であり、「その額を外国の通貨をもって定めたもの」(87条1項3号ニ)にあたり、再生手続開始の時における評価額が議決権額となる。そして、金銭債権は原則として債権者の住所が履行地となり(民法484条1項)、履行地における為替相場によって日本通貨で評価することとなる(民法403条)。
 そうすると、再生手続開始時の円ユーロ為替相場は1ユーロ140円であったから、これに従い2億8000万円が議決権額となる。再生手続開始後に円安が進行したことは議決権額に影響しない。(なお、外国法人であるC も再生手続に参加できる(民再3条))。

4. 小問(4)

(1) 決議での取扱い

 裁判所は、再生債権者表に記載されている再生債権者を議決権者と定めることができる(172条の2第1項)。そして、再生債権は、届出をするか、届出がされていない債権で債務者が自認する旨を認否書に記載したもの(101条3項)が、再生債権者表に記載される(99条1項)。本件では、A 社が、届出のなかった800人の各6万円の債権のうち、D のものを除く799人分の債権が認否書に記載され、これが再生債権者表に記載される。異議等がなければその内容が確定する(104条1項3項)。
 これら799人分の債権については決議議決権を行使することができるが、債権者集会に出席するか書面等投票をしなければ頭数要件の算定基礎にはならない(172条の3第1項1号かっこ書き)。

(2) 再生計画認可決定が確定したとき

 再生計画認可決定により、届出再生債権及び自認債権で認否書に記載されたものは、再生計画にしたがって変更されることになる(179条1項)。一方、D の債権については、届出もされておらず認否書に記載されていない。もっとも、A 社はD の債権も含む800人分の届出ない債権を自認しているのであり、D の債権が認否書に記載されなかったのは顧客リストの転記ミスがあったためにすぎない。そうすると、D の債権は、再生債務者が記載をしなかった自認債権(181条1項3号)として、再生計画にしたがって変更されることになる(同項柱書)。

設問2 

1. 小問(1)

 D の債権は、再生債権開始後に、A 社が本件売買契約を解除したことにより生じた1200万円の違約金の請求権であり、再生債権債権となる(84条2項2号)。これについてD は再生債権として者として届け出ているところ、A 社はこれを認めない旨を認否書に記載している。届出債権を再生債務者A 社が認めていないから、D は、再生債務者を相手方として、裁判所に査定の申し出をすべきである(105条1項)。これによって開始される査定の裁判につき、さらにD に不服がある場合には、これに対する異議の訴えを提起することとなる(106条1項)。D は以上の手続きを採るべきである。

2. 小問(2)

(1) 本件違約金債権は、A 社が本件売買契約を即時解除した場合は、1200万円の違約金を支払うとの合意に基づくものである。原則として、当事者間で契約の内容として違約金の定めを置くこと自体は自由である。もっとも、再生手続では、再生債務者が公平な手続追行、事業の再生のために必要な行為をする必要があり(38条2項)、違約金条項は再生債務者の権限行使を萎縮させうる。したがって、このような違約金の定めは、健全な事業再生のための必要性と、相手方に生じる不利益とを比較し、違約金条項に基づく請求が、民事再生法の上記趣旨を没却しない限りで有効である。

(2) A 社による本件売買契約の即時解除は、A 社が、事業再生方針に従い、監督委員(54条)の同意を得たうえで行ったものであり、A 社の健全な事業再生のためにこれをする必要が高かった。

 一方、本件売買契約は有機野菜の継続的売買だが、E の生産する有機野菜は容易に他の取引先に転売でき、即時解除されてもE に損害が生じることはなかったからE の不利益は小さい。

(3) そうすると、本件違約金の請求は、E の不利益に比して健全な事業再生追行を害する危険が高く、これを認めると民事再生法の法の趣旨を没却する。したがって、本件即時解除において本件違約金条項は適用されない。

 
第1問 2561字(4枚埋めた)
第2問 2234字(3.4枚ぐらい)
合計 4795字

 

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