令和6年司法試験 憲法 再現答案

第1 規制①について

1. 犬猫販売業を営むことを免許制とする骨子第2の規定(規制①)は、既に犬猫の販売を行っている事業者の財産権(憲法29条1項)を侵害し、違憲ではないか。

2. 憲法29条1項は、「財産権は、これを侵してはならない」と規定する。同2項は、「財産権の内容は」「法律でこれを定める」としているから、財産権は法律に従属する権利とも言い得る。しかし、無制限に財産権の内容を法律で変更し得るとなると29条1項が無意味となるから、財産権は憲法上の権利として保障され、法律によってこれを変更するには「公共の福祉」(2項)による制限がある。

 そして、憲法29条1項は、私有財産制だけでなく、国民の既得の財産上の地位・利益をも保護するものであるから、既存の犬猫販売業者が、犬猫を販売業を営む地位は、「財産権」として、同項により保障される。

3. 骨子第2は、犬猫販売業を営むために都道府県知事から免許を受けなければならないとしているから、上記地位に対する制約がある。

4. 上記のように、財産権は憲法上保障されているものの、これに対する制約については、29条2項が明文で立法裁量を認めている。また、財産権は社会的相互関連性が強く、一定の制約を施す必要もある。

 そして、財産権を制約する目的は多種多様なものがあり得るから、財産権を制約する立法の「公共の福祉」適合性は、①制約の目的・必要性、②規制の対象となる財産権の内容・制約の態様等を総合的に考慮して判断する。(証券取引法事件参照)

5.(1) 規制の目的・必要性

ア 骨子第1は、立法目的として、「人と動物の共生する社会の実現を図る」ことを掲げる。これは、動物愛護管理法と目的を共有するものであり、動物に対する遺棄虐待等を防いで動物の生命尊重等の気風を養うことによってこれを実現するという目的自体は、「公共の福祉」に適合する合理的なものである。

イ 規制①は、犬猫販売業につき、動物愛護法に基づく規制よりも強い規制を設けるものである。
 我が国においては、飼育されているペットの頭数に占める犬猫の割合が相対的に高い。その中で、販売業者が、売れ残った犬猫を遺棄したり、安易に買取事業者に引渡すなどして、犬猫が殺され山野に大量廃棄されたことなどが社会問題となっていた。また、飼い主が、安易に犬猫を購入し、結果として犬猫を遺棄するといった問題も発生しており、各地方公共団体が飼育不能の犬猫を引き取り、一定時間経過後に殺処分とすることも問題視されていた。このことから、犬猫の遺棄等を防ぐために犬猫の販売について特に規制を設ける必要性については、立法事実による支持がある。また、各地方公共団体においては、飼い主が飼養できなくなった犬猫を終生保護する「犬猫シェルター」があったものの、犬猫シェルターの収容能力を大幅に超えることが懸念されており、犬猫の販売の段階で一定の規制を施す必要性も認められる。

(2) 規制の対象・程度

ア 規制①は、犬猫販売業を免許制とし、犬猫販売業を営む地位に対する制約を加えるものであり、既存業者の生活基盤を失わせ得るものであるから、その制約には慎重さが求められる。もっとも、免許制を設けること自体については、犬猫の受給均衡崩れるような過度の販売に起因する遺棄等を防ぐことができ、「人と動物の共生する社会の実現」のため合理的な態様の手段である。

イ 飼養施設要件

 骨子第2第1号は、免許を与えないことができる場合として、「犬猫飼養施設の状況」により「適当でないと認めるとき」を挙げる。これは、犬猫販売業者に、販売頭数に応じた犬猫飼養施設の設備を求めるもので、犬猫の体長に合わせたケージや運動スペース、照明・温度設定についての基準を満たすことを求める。

これは、現行の動物愛護法でも存在する規制を厳格にしたものにすぎず、販売業者によって犬猫の健康等が損なわれることを防ぐため合理的であり、その程度も、諸外国の制度や専門家の違憲を踏まえた、国際的に認められている範囲内にとどまる。したがって、当該要件は合理性があり、合憲である。

ウ 受給均衡要件

 骨子第2第2号は、都道府県ごとの人口に対する犬猫の飼育頭数の割合や取引量等を考慮して、受給均衡が崩れ得る場合に免許を与えないことができるとするものである。

 これに対しては、規制すべきは売れ残った犬猫を適切に扱わないことであり、売れ残るリスクに着目して販売免許を与えないとすることについては過度な規制であるとの反論が考えられる。

 もっとも、日本では、生後2,3ヶ月の子犬や子猫の人気が高く、生後6ヶ月を過ぎると値引きしても売れなくなることが多い。そうすると、犬猫については、時間の経過によって需要が大きく低下することが多く、しかも、一旦供給過剰になれば値下げ等の市場による調整力でもその状態が修正できない可能性が高いから、売れ残りが生じる前段階で犬猫の需給を調整することについては合理的な手段であるということができる。したがって、需給均衡要件についても合理的なものといえ、合憲である。

エ 収容能力要件

(ア) 骨子第2第3号は、各地方公共団体に存在する「犬猫シェルター」の収容能力を考慮して、免許を与えないことができるとしている。

(イ) これに対しては、犬猫シェルターは、飼い主による犬猫の持ち込みに対応するものであるところ、犬猫の持ち込み数増加は飼い主側の事情であり、業者に対する免許交付の要件とするのは不当だとの反論が考えられる。

 この批判は正当なものであると考える。確かに、販売業者が売れ残りを解消しようとして無理な犬猫の販売をすることが、飼い主による持ち込み増加を招く可能性は否定できない。しかし、これは観念上の想定にすぎない。そもそも、犬猫のシェルターの収容能力を超えることが懸念されているとは言え、現在そうした収容限界に至っているという状況はなく、このような規制を設ける必要性は薄い。また、犬猫の無理な販売を抑制することについては、需給均衡要件を設けたことで十分達成可能である。このように必要性が薄いのに、収容シェルターの収容能力という事業者に何ら帰責性のない事由を免許不交付の要件とすることは、過度な規制であるというべきである。

(ウ) 再反論として、犬猫の販売免許を与えられなくても他のペットの販売が可能であるから規制の程度が小さいとの反論が考えられる。しかし、我が国においては、ペットを飼育している者のうち約50%もの人々が犬猫を飼っているし、また、その販売価額も高額な部類であると考えられるから、犬猫の販売が不可能となれば、既存のペットショップ等の事業者に与える影響は多大である。したがってかかる反論は失当である。

6. 以上より、規制①のうち収容能力を不交付事由とすることは、過度な制約を課すものとして、合理性を欠き、憲法29条1項に反するものとして、違法である。

第2 規制②

1. 犬猫販売業者が、犬猫のイラスト、写真及び動画を用いて犬猫販売の広告をすることを禁ずる骨子第4(規制②)は、犬猫販売業者が犬猫の写真等を用いて広告をする自由を侵害し、憲法22条1項に反し、違憲ではないか。

2. 憲法22条1項は、「職業選択の自由」を保障している。そして、選択した職業の遂行の態様についての自由も保障されないければ、職業選択の自由を保障した意味がないから、職業遂行の自由も同条により保障される。

 犬猫の販売に関する広告は、犬猫販売業の遂行態様の一つであるから、上記自由は、憲法22条1項により保障される。

3. 規制②によって、上記自由が制約されている

4.(1) 職業については社会的相互関連性が強く、一定の制約を加える必要があり、立法目的などに照らし、国会の専門的裁量を尊重すべき場合もあり得る。一方で職業は生活基盤及び自己実現の場としても重要であるから、国会の自由裁量があるわけではない。

 したがって、職業に対する制約を加える立法の合憲性判断基準は、立法目的と、制約の態様とを考慮し、国会の立法裁量を明らかにすることによって決する(薬事法判決参照)。

(2) 規制②の立法目的は、①と同じく、犬猫の遺棄等を防止することで「人と動物の共生する社会の実現」を図ることにあり、これは、積極目的に基づくものである。このような積極目的に基づく規制に関しては、社会状況・経済状況に通じた国会の立法裁量が原則として尊重される(小売市場判決参照)

 また、規制態様についても、規制②は、広告という職業遂行の内容に対する制約にすぎず、その程度も、広告の方法に一定の制約を課すというものにとどまる。

(3) したがって、規制②は、立法目的及びその実現手段が、著しく合理性を欠くことが明白でなければ、合憲となる。

5.(1) 上記の通り、我が国では犬猫の過度な販売や飼い主の安易な購入により犬猫の遺棄が多発していた。広告に一定の制約を課して、飼い主の安易な購入を防ぎ、「人と動物の共生する社会の実現」を図るという目的は合理性を欠くとはいえない。

(2) 手段について、犬猫の写真等を広告に用いること自体に遺棄を招く危険があるわけではないとの反論が考えられる。

 もっとも、広告において犬猫の愛らしい姿の写真等を用いることは、文字情報に比して飼い主の購買意欲を刺激する度合いが高く、十分な準備がないまま購入することを招くという可能性は想定できる。 

 さらに、規制②も文字情報を用いた広告は規制するものではなく、今後も広告を行うことはできる。そもそも、犬猫販売業者は、既に、動物愛護法において、購入の際に犬猫の現物を確認させることが義務付けられているから、広告に対する規制を課すことが現状に比して過度な制約となるともいえない。したがって、手段合理性も欠かない。

6. よって、規制②は、22条1項に反せず、合憲である。

 

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