貧乏の神も断捨離できんかな
ここしばらく断捨離に勤しんでいました。10月は断捨離祭りで終わり、現在、取り残しを処理中。
そんなに物持ちじゃないのに随分と時間が掛かった。ゴミをいっぺんに収拾に出せなかったせいもあるが、とりあえず取っておくかとしまった物を後から「やっぱりあれも捨てるか」と捨てたくなり、また引きずり出して……というのを何回か繰り返したせいもある。
断捨離は、これまでも何度も折々にやっているのだが、そして、あまり物を買わないのだが、なぜかすっきりしない。
そんなこんなを繰り返していて気が付くと「捨てても捨てても、まだ捨てたりない」という《捨て欲》がどんどん湧いてきて、まるで断捨離の神に取り憑かれたようになってきた。
やがて、一体、自分は何を一番捨てたいんだろうと禅問答のような疑問が浮かんできた。
――本当はこの部屋を断捨離したいんだワ。
本当は引っ越したいのだ。捨てたいんだけど、この部屋の間取りが良くなくて仕方なく使っているおんぼろの棚などがあるのだが、それでも妙に中途半端で収納がうまくない。でも、この部屋に合わせて買い変えたら、確実に引っ越したら使えない。勿体ねぇ。だからこのまま歪な状態で中途半端なものに囲まれて暮らしている。引っ越したくなるわな。
でも、できない。だから代替行為のように物を捨てるのだ。……いや、本当にほこりも余計な物を捨ててほこりも払って、身軽になる必要もあったんだけどね。年齢的にも……。
さて、本当に断捨離したいものを断捨離(引っ越し)するにはどうしたらいいのか。そりゃ《先立つもの》だよ、君ぃ。
なぜ、それがないのか。
――もしかして取り憑かれてるのは断捨離神じゃなくて、貧乏神?
妄想なのか空想なのか、誰も責めない責任転嫁なのか、そんな発想が浮かぶ。
――貧乏神も断捨離できんもんかね。
できるものなら、燃えるゴミに出して、ファイヤー!と最新鋭清掃工場(ゴミ焼却場)の超高温の焼却炉でお焚き上げしていただきたい。
できるもんならね……。
私の主観なのだが、物を溜め込んでいる家ってどこかしら貧乏くさい絵面になっている気がする。ゴミ屋敷なんてその典型。
逆に金持ちっていうと、すっきりとしたお屋敷に住んで暮らしてるイメージがある。敷地も家も広いせいなのか物が溜め込まれていない感じ。
いや、案外、金持ちは物を溜め込まないのかも。金持ちは、金があるから「必要になったら、後でまた買えばいいわ」って思うから未練なく、そのときに不要な物はさっさとポイできるからかもしれない。
貧乏だと「必要になったときに買う金があるとは限らない」と、とりあえずキープしちゃう。中には、例え経年劣化でボロくなってきても「また使うことがあるかも」「また買う金がもったいない」「つうか、ない」と、使用不可となってもキープし続ける人もいる。
明らかに私も貧乏組の心理傾向があるワ。大汗。
《突発的に小話》
貧乏神と神無月
ある年の10月、貧乏な某という人物が思い立ってガラクタを溜め込んだ部屋の断捨離を始めた。
押し入れの物を掻きだして次々と使えない物、使いたくない物を捨てていく……と天袋の隅っこからじっと某を見つめる視線を感じた。
「えっ、な、何?」
「ワシ、神様じゃ」
貧相な顔立ちと体に貧相なボロをまとったうらぶれた小さいおじさんみたいなのがヨタヨタと出て来た。
某はこれは貧乏神だと直感した。問うてみると「そうだ」と答える。
ああ、そうか。俺が何をやっても、どうあがいても貧乏なのは、これが居着いていたせいかと妙に得心する某。
「貧乏の神様、今、自分、断捨離しております。貧乏様にはこの先、御用がないのでお引き取り願いますか」
つまみ上げてゴミ袋にポイしても良いのだが、一応、神様なので慇懃にお願いをした。
「嫌じゃ。出て行かん。お前は貧乏なので居心地が良いのじゃ」
いやいや、俺が貧乏だからあんたが憑いてるんじゃなくて、あんたが憑いてるから貧乏なんだろうと、某は呆れる。
どうしたらいいだろう。某は思案した。
(……待てよ。『出て行かん』というのなら、俺が出て行けばいいんじゃん)
そうだ。引っ越せばいいのだ。
(だが、待てよ)
『俺の居心地が良い」といいのなら、俺に憑いていたいってことじゃないのだろうか。だとすれば
(引っ越しても、勝手に憑いて来そうだな)
どないしよう……。
(あ、夜逃げしたらいいのか)
数日前に読んだ夜逃げ屋の漫画を思い出した。
貧乏様に知れぬうちに、こっそり自分だけ引っ越しするのだ。
しかし、どうやって。相手は貧乏様といえども神である。欺くのは難しい。なんといっても、人間と違って出掛けずにずっと部屋に居るのだから……。
そこで某が閃いた。
(そうだ。この手がある!)
「わかりました、貧乏様。諦めます」
「そうか。じゃ、引き続き貧乏でいるよう心がけるのじゃぞ」
来月は旧暦の10月。神様の総会が出雲である。全国の神が皆、総会に出席するためにシマ――いや、鎮座している担当地から離れる神無月だ。
(貧乏様も出掛けるに違いない。夜逃げするなら、来月だ)
早速、脳内で引っ越しの算段を始める某。だが、ヤクザに系列があるように、神様にも系列があり、来月、出雲へ出掛けるのは出雲系列の神様だけだということを某は知らない。果たして貧乏様は――。
――次回続……かない。