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映画感想「怪物」

是枝裕和最新作、しかも坂元裕二脚本となればその化学反応に期待せずにはいられない。 飽きずに最後まで鑑賞した。が、なんだろうか・・・この消化不良感。面白かったのかと問われると正直首をかしげたくなる自分がいる。 結局のところ、人間ドラマとしてこの物語が深ぼるべき対象はあの少年2人の人間関係に他ならないはずなのに、その物語的探求が浅いと感じてしまった。 サスペンス映画として、まずは大人の目線(「怪物」探し)で客を欺き楽しませること、つまりは物語の構成の妙は理解出来るのだけど(

    • 読書感想 『傲慢と善良』

      この作品を語る上で、タイトルでもある「傲慢」と「善良」それぞれが物語の中で何を意味するのかを語ることが、そのまま作品のテーマを語ることにもなるので自分なりの解釈でまずはこれを端的に表現してみたいと思う。 傲慢とはすなわち「他人に対して理解を示そうとしない態度」のことであり、善良とは「他人本位の考え方や態度」のことである。やや乱暴ではあるが、この物語の中ではそう解釈してみる。 主人公の真実は現代人の象徴あるいはデフォルメした人物像としてこの「傲慢と善良」を矛盾なく合わせ持つ

      • 運命の存在について

        運命の存在について(「錦繍」作:宮本輝 を読んだ読書メモ) この物語をある視点からすごく雑にまとめてしまうと、「訳あって離別した男女の未練の話であり、未練を抱えながらも互いの未来の幸福を願い、それぞれの人生を歩もうと決意する男女の恋愛物語」と言える。 確かにそうも読めるのだけれど本質的にはそうではない気がした。そこがこの小説のミソなんだろう。上記の類の恋愛物語は世の中に腐るほどあるが、この小説はそれらとは一線を画している。 大きな違いは、この物語が男女の未練や葛藤、過去の

        • 短編小説 『花瓶』

           8月の太陽光の熱気を窓越しに受けながら、私は今日彼と久しぶりに再会したこの時間にいったい何の意味があったのか、なんとなく考えていた。  店の入口の方で会計を済ませる彼の後ろ姿を見つめながら、私は今どういう気持なんだろう、と自問した。  手持ち無沙汰に目の前のコーヒーグラスの中の氷をストローでかき回しながら、これで良いのだという思いと、果たしてこれで良かったのか、という思いとが交錯し、結論の出ない堂々巡りの中にいた。  会計を済ませた彼が店員から大きな手提げ袋を受け取り、少し

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