放射線治療の待合室で見かけた美人と、カラフルな傘。

今日の放射線治療のとき、待合室の壁沿いに車椅子を止めてもらうと、先にベンチに座って待っている女性がいて、ぱっと見て、なんだか美人だな、と思った。マスクをしているから、余計にそう思ったのかもしてないけれど。

茶色い髪が肩にかかるぐらいの長さで、まつ毛が長い。スマホを見る様子でもなく、うつむき気味で座っている。でも落ち込んでいるような気配もない。どちらかといえば元気なオーラ。病院のレンタルの病着を着ていて、なぜか傘を持っている。小さな日傘ではなくて、大きめの雨傘。オシャレな、白を基調にしてカラフルな模様が入っていて、端っこに沿って黄色くなっている。

なぜ彼女は傘を持っているのだろうか、と考える。じろじろ見ていると変だから、目をつぶって。

病着を着ているということは入院しているのだから、ここまで歩いてくるのに傘はいらないはずだ。病院の入り口の外にあるスターバックスにでも寄ってから来たのか。僕と同じでコーヒー好きなのかな?あるいは治療のあとのお楽しみとしてスターバックスに行くのか。または、大切な誰かから、あるいは恋人から貰った、お守りのようなものだから携えているのか。恋人から、と想像して、僕の胸が少し重くなる。いずれにしろ、夕方でがらんとした待合室で、一番前のベンチに座っている彼女の手元の元気な色合いの傘は、この空間からは浮いていた。

そんなことを思っていると、僕のほうが「133番さーん」と先に呼ばれた。技師さんが僕の車椅子に近づき、移動させてくれる。
あっ、彼女の前を通るんだ。
そう思ったとき、緊張して左耳がかゆくなった。

入院中にすれ違った誰かからどう見られようが関係ない、客観的にみれば関係ないのだけど、美人からはよく見られたいという本能が顔を出したようだ。

僕の風体はというと、今思えば、上半身と下半身で違うパジャマを着て、頭も拭き洗いしたばっかりでぼさぼさであった。

顔はマスクをしていて、左目はアイパッチ。したがって、僕からみて右側にいる彼女から見える可能性があるのは僕の右目のみで、彼女が僕のほうをみることもないだろうに、どんな顔をして車椅子を押されていったら良いのか分からず、ただ前だけを見据えて、キリッとしたようなぼーっとしたような顔つきで、左耳を掻きながら、彼女の前を、車椅子を押されて通り過ぎていったのだった。
治療室に向かう道のりで、自分の心の動きを客観視して、笑えてきた。
彼女の前を通り過ぎるときの、なんの意味もない緊張。美人の前にいると緊張する性質。
治療中、いまの話をブログにどう書こうか考えていたら、10分間があっという間に過ぎた。

僕が治療室から出てくると彼女は居なくなっていた。いまちょうど治療を受けているか、先に病棟に帰ったかのどちらかだろう。

どこの病棟に入院しているか分からないし、僕の放射線治療は明日で最後。できれば明日もう一度彼女を見かけて、また傘を携えているかどうか確認したいところだけど。まぁ無理だろう。ただ、同じ病院のどこかにいる彼女の体調が良いことと、よく眠れること、治療がうまくいくことを願って、僕も眠りにつこうと思う。

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