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画像・映像処理分野における、最先端技術の研究・開発及び商品化を行う 〜 『ソニー木原研究所』 設立

『ソニー技術の秘密』にまつわる話 (59)

1988 (昭和63)年10月、東京通信工業の時代からソニーの発表する日本初・世界初の製品のほとんどに関わっていたソニーの技術者・木原信敏は『ソニー木原研究所』を設立します。

私は定年になりまして、「ソニー木原研究所」を設立させてもらいました。
一番最初に、

「木原研究所」というのは何をすべきか?

と井深さんに問われまして、私はもう絶対に画像をコンピュータで記録したり、編集をしたい。そういうことの出来る時代になるから、その研究開発をやらせてほしい、と。

「おお、いいよいいよ」

ということで始まった「木原研究所」でした。

特別講演『夢工房のモノ創りとヒトづくり』2002年より

当時ソニー専務となっていた技術者の木原信敏を代表者として、当時のソニー本社が手を出さなかった「三次元コンピュータ・グラフィックス」の世界的に通用するレベルのシステム開発を目的に、画像・映像処理分野における最先端技術の研究・開発及び商品化を行う『ソニー木原研究所』が、ソニーと木原の共同出資により誕生したのです。

磁気記録を基とし、日本初のテープレコーダー開発やVTR機器の研究開発で多くの実績を残してきた木原は、コンピューター技術の進歩を中心に、急激な発展を見せるテクノロジーの領域に踏み入り、

「各種画像処理技術の開発によって広く社会に貢献したい」

というテーマを、より高度で広範な分野へとステップアップさせながら、大きな夢の実現に向かって全力を注いでいったのです。

2006 (平成18)年3月30日、『ソニー木原研究所』はソニーの事業再編の一環で、ソニー本体に移管する形で活動を終了。約18年の活動期間となりましたが多くの成果を残しました。

『ソニー木原研究所』が設立されて間もない1990 (平成2)年10月には、125万ポリゴン/秒のシェーディング性能を実現する3DCG (3次元コンピュータグラフィックス) エンジンを開発。
これは当時世界最速の処理能力を達成し、世界を驚かせたものでした。

1992 (平成4)年10月には簡単な操作で多彩な映像表現を瞬時に実行するDME(Digital Multi Effects)スイッチャー『DFS-500』を発表。

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従来からあったページターンなどのエフェクトに加え、3DCG技術を応用した多彩なエフェクトを700種以上もプリセットし、その高画質・多機能、使い勝手の良さで多くの放送局に導入されていました。

1994 (平成6)年7月には圧倒的にコストパフォーマンスに優れた3DCGエンジンを開発。グラフィックスワークステーション『NEWS』のアドオンボードとして発売。

2000 (平成12)年3月、ゲーム機の枠を越えた、128bitプロセッサーをベースとした6チップ構成のシステムという高スペックを誇り、DVD-ROMドライブが搭載された『プレイステーション2』がソニーより発表。

この『プレイステーション2』で、当時特に絶賛された高速描画能力を可能にしたのが『ソニー木原研究所』が開発した『グラフィックス シンセサイザ』でした。

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これまでにない緻密な描画とスーパーコンピューターを超える能力は、ゲームキッズだけでなく、マスコミや映画会社など多方面からも驚きの声が上がりました。

「ソニー木原研究所」は、既成の枠にとらわれない、自由なチャレンジを実行する研究所としてスタートしました。ソニーで培った豊富な技術と経験を基盤にして、各種画像処理の最先端技術の研究開発に取り組んでいます。
研究員一人ひとりが大きな、そしてたくさんの夢を抱き、その一つひとつを実現していくことによって、広く社会に貢献していきたいと願っています。

『ソニー木原研究所』会社案内より

木原自身、

「個人の興味・発想を尊重し、自由な立場で研究開発を進める」

ことによって数々の実績を残してきたわけですが、自ら研究所を開設するにあたってもこの考え方を貫いていたのです。

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技術者は新しいものを生み出すことに全力を傾けています。しかしこれからは、その「技術」だけを追求するのでは私は完璧であるとは云えないと思います。その「技術」の中に環境を大事に守ると云う思想が含まれていてこそ、これからの人々を幸せにできるのだと思います。

木原信敏 
『ソニー木原研究所』紹介DVDより

2006 (平成18)年3月30日、『ソニー木原研究所』は18年の活動を終了し、ソニー本体へと移管されますが、ここで育った多くの技術者たちは、かつての木原と同じく「技術者」として様々な開発に携わり、私たちの人生を豊かにしてくれる夢の製品を今も創り続けているのです。

文:黒川 (FieldArchive)


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