タフな男が見たければネトフリで『Mute/ミュート』を観ろ
トレンチコートも、銃も、小粋なジョークもなくても、ハードボイルドは成立する。『Mute/ミュート』はそれを我々に教えてくれます。
あらすじ
舞台は近未来のベルリン。主人公のレオは子供のころに事故で喉に大けがを負うが、アーミッシュであるために親が手術を拒否し、しゃべられなくなってしまう。
成長したレオはバーテンダーとして働きながら、同じクラブで働いている恋人のナディーラと静かに暮らしていた。しかし、ある日ナディーラが忽然と姿を消す。
レオはナディーラの行方を捜し、近未来のベルリンを奔走する……。
『Mute/ミュート』は2018年にNetflixオリジナル作品として公開されました。監督はデヴィッド・ボウイの息子で、『月に囚われた男』や『ミッション:8ミニッツ』を手掛けたダンカン・ジョーンズ。本作は監督自身『月に囚われた男』の精神的続編と語っており、同作とのつながりを明示する場面もあります。
主人公のレオを演じるのは『トゥルーブラッド』や『ビッグ・リトル・ライズ』のアレクサンダー・スカルガルド。また、アメリカ軍脱走兵のカクタス役として、『アントマン』のポール・ラッドも出演しています。
『月に囚われた男』でも見せた映像の美麗さは本作でも発揮され、『ブレードランナー』的サイバーパンクな世界観を寂寥感漂う美しさで表現しています……が、そういったSF的世界観はあくまでフレーバーにすぎません。「ストーリーが難解」などと言われ、あまり評価が芳しくない『Mute/ミュート』ですが、おそらく「SF映画っぽさ」に惑わされているのだと思います。『月に囚われた男』の精神的続編だとか、監督が『ブレードランナー』に触発されたとかの情報は、初見の方は一旦忘れてください。なぜならこの映画は正式に分類するならば……『ハードボイルド・サスペンス』だからです。
レオはナディーラを探して未来都市となったベルリンを奔走します。しかし彼は古く伝統的な暮らしを重んじるアーミッシュの生まれ。近未来のガジェットには一切縁がありません。ですが、ナディーラの行方を捜すべく彼女からもらったスマホをどうにか使ったり、慣れない自動車に乗ってあちこちぶつけながらカーチェイスをしていきます。
なぜただのバーテンダーにそんなことができるのか?レオがタフだからに他なりません。恋人を侮辱されれば相手が誰だろうと掴み掛かる。チンピラに脅されようと眉一つ動かさず、ナディーラを探すためならアーミッシュの伝統に反しようとスマホや車を使う。荒事となれば趣味の木彫り細工を鈍器に変えて立ち向かう。何が障害になろうと『ナディーラを探し出す』というただ一つの目的のため突っ走る妥協なき姿はまさにハードボイルドです。
また、レオの「しゃべれない」という個性もレオにタフな凄味を与えています。相手が誰だろうがお構いなく無言でナディーラの写真を突きつける姿はとても印象的です。また、一見朴訥としていながらも思わぬところから手がかりを得たり、機転を利かせて捜査を進める意外な切れ者ぶりも見ていて気持ちがいいです。
「最近タフな男を見ていないな」「血中ハードボイルド分が足らなくて困っている」などのお悩みを抱えている方、是非ともNetflixで『Mute/ミュート』を観てください。どんな事態になろうとも決して己を曲げない、真の男がそこにいるはずです。
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