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厚底シューズが起こす革命

年始の箱根駅伝で、厚底シューズの凄さについて解説した記事がバズり、Yahoo!ニュースの総合で2位になるという、今まで書いた記事の中でおそらく最も読まれた記事だったのではないかと思います。

記事の根幹を僕がライティングして、インタビュー風に編集の方に構成してもらってわかりやすい記事になり、内容とともに読みやすい記事だったのが良かったなと。

さて、今回のnoteでは、先月あった厚底規制の話題と新たなアルファフライの機能の凄さにも触れ、今後のシューズ事情と走りの動作という観点で改めて記事にしようと思います。

新厚底シューズの驚異の性能が規制を生んだ

今回の規制の話が全部収束し、その直後にアルファフライが発表されるまでなんでここまで厚底シューズに規制をかけるのか僕の中ではかなり強い疑問がありました。そこまで助力をしているシューズという認識がなかったからです。カーボンプレートのバネもそこまで助力というよりもクッションで削られるバネの補助レベルだったはずなので。この厚底シューズの凄さはその構造にあって、プレートや厚さにあったわけではないので、今回の規制は僕にとっては大きな謎でした。しかし、アルファフライの発表とともにその靴の性能がSNSで拡散され、いくつかの動画を見たときに謎が解けました。

ナイキエアによる柔らかさとプレートの反発が見事な融合・・・このバネ感はちょっと今までのVaper flyとは全く違う。

そこで、E・キプチョゲ選手がVaper fly eliteを履いた”Breaking 2”の動画とAlpha flyを履いた”INEOS 1:59”の動画を見比べてみました。

上が ”Breaking 2” 下が ”INEOS 1:59”です。明らかに下の動画の方が接地から離地、そして離地後のバネが違います。上では接地した後に重さがかかる瞬間があるのですが、下の動画は接地したときの重さがほぼ無い。そしてその後の空中にいる時間が違う。周囲の選手のバネ感ともちょっと違います。これを見ると規制されるのはなんとなくわかります。このアルファフライを規制したかったのがワールドアスレチックス(世界陸連)の本音ではないかと思います。

アルファフライの何が凄いのか?

この開発当時は厚さもそうですが、カーボンプレートが3枚内蔵されていたとのこと、これが一番大きなポイントです。しかし、僕が見る今回のアルファフライの凄さは、これまたシューズの構造です。

注目すべきポイントはソールが前足部と踵で別れている点です。これが今回のシューズの大きな目玉になります。この構造によって何が起きるのか・・・。それはプレートのバネをダイレクトに走りに伝えられるということです。どういうことなのか??

今までの構造はソールがすべてつながっていたため、プレートのバネを使うためにはソールも曲がる必要があったのですが、あれだけの厚さがあったのでプレートのバネを最大限活かすことができなかったのです。しかし、今回ソールが前と後ろで分割されたことで、ちょうど切れ目の部分がプレートがダイレクトに反り返り、そのまま反発します。そして前足部に集中する衝撃をズームXフォームとナイキエアで和らげることで、脚のダメージが少なく最大限のバネを獲得するという今までの課題を完全に払拭するどころか、圧倒的なバネを作り出すことに成功しています。

ちょっとこれは2017年に初めて厚底シューズとして発表されたときよりも衝撃を受けています。これは本当に革命的なシューズだと思います。

規制が完全にナイキの追い風に

今回の規制で厚さとプレートの枚数が規定されました。

・ランニングシューズのソールは40mmまで
・ソールに使えるプレートはどんな素材でも1枚まで

これが、マラソンシューズにかかる規定です。これに加えてかなり驚きの規制が・・・

4/30以降のレースでは大会の4ヶ月前までに発売されたシューズであること

この規定が各メーカーや選手に激震を与えることになります。どういうことかというと、現在開発中のシューズがオリンピック開催の4ヶ月前に発売する必要が出てきたのです。おそらく、どのメーカーも6月頃に発表して大会後に発売ということを考えていたはずです。しかし、それを半年ほど早める必要になります。これは各メーカーは痛手になったに違いありません。

一方ナイキはこの規制が発表されてすぐにアルファフライを発表します。厚さを40mm以内にし、3枚だったプレートを1枚に変更して。これはほぼシューズが完成していたナイキだから取れる戦略です。

ナイキの新シューズを規制するはずのルールが結果的にナイキにとって最高のマーケティングになった形になります。

今後のシューズ事情

ナイキが2017年にズームフライ/ヴェイパーフライを発表してから、いわゆる陸上競技で名が通った他社が厚底シリーズを出すまでかなりの時間を要しました。レースに使うレベルのシューズを目にしたのは今年の箱根駅伝からではないかなと思います。アシックス、ミズノ、ニューバランスがプロトタイプを箱根で投入していました。

2020年をピークに各社開発を進めていた形だろうと思われます。しかし、今回のシューズに関する規定の変更によって各社はこの開発スケジュールを大幅に短くしないといけなくなりました。現状で発表しているのはアシックスのメタレーサー(4月発売)、アディダスのアディゼロプロ(4月1日発売)と報じられています。オリンピックは7/29に開幕し、マラソンは8/8と8/9。その4ヶ月前までに各社は発売するように現在調整中のはずです。

2017年にナイキが厚底を通して世界に伝えたのはシューズによる大革命ともいえます。走りを進化させるシューズ。今までは選手の力を最大限発揮させるのがシューズの役割であったが、シューズが選手を牽引するようになったのがこの大革命の本質になります。冒頭に紹介した記事にも書いた内容になりますが、今までセンスに任されていたフォームが、今後これらの厚底シューズによってフォームが速く走れるものへ洗練される様になっていきます。そうなるとセンスによって差がついていたものが限りなくゼロに近づき、今までと違ったアスリートが活躍することも考えられます。

僕としては、日本人選手が最もこの厚底シューズの恩恵を受けているとみていて、その理由は世界と比べてフォームが劣っていたという認識だからです。このシューズによってフォームが良くなり、世界との差が一気に縮んでいくと予想しています。ここから数年は日本記録がさらに更新され、速い選手も出てきて面白くなると思います。東京オリ・パラはその第一歩となる活躍を日本代表選手たちがしてくれるはずです。

そして、3/1には東京マラソンが行われます。ここでも好記録がでる可能性は高いのでぜひみなさん、注目してください!

追記

東京マラソン後にYouTubeで解説動画を上げました。こちらもぜひ御覧ください。アルファフライの記事はまた後日に。


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