最後の文化祭

「たかしー、このあとカラオケいかね?」
「いいねー、行こう。」
「よっしゃ!行こうぜ!」
「あのー…」
「ん?なに?」
「いや、このあと文化祭の劇の練習が…」
「練習…?あぁ、なんか言ってたな。わりい、用事あるからパスで。」
「あ、はい。」
「よし、いくぞ。」
「ちょっと、あんた達どこ行くの?」
「いや、だから用事があんだって。」
「カラオケでしょ?聞こえてたから。」
「…ああそう、俺らカラオケ行くから練習頑張って。」
「は?バカじゃないの?そんなんで、抜けていいわけないじゃん!」
「あのさ、俺とたかし、小道具だぞ?普通に考えていらねーだろ。」
「キャストにアドバイスとか出来んじゃん。」
「いや、アドバイスなんか出来ねーから。ってかさ自分達で盛り上がってんのは良いけど周りにも押し付けんのってちがくね?なぁ、正直、文化祭なんかで残るのだりぃやつ、他にもいるよな?」
「は?なに?文化祭なんかって!」
「あのー、俺も、バイトとかあるし、そんなに頑張ってもお金もらえるわけでもねえし。同感かな。」
「なに?お金もらえるわけないじゃん。そういう問題じゃないじゃん!」
「だから、それが押し付けてるっていってんだよ。」
「頑張ってるクラスメイトがいるのになんでそんなに…」
「川野、もういいよ。こいつらになに言ってもわかんねえよ。おう、おめえらいいよ、カラオケでもバイトでも行ってこいよ。」
「は?なにお前カッコつけてんの?」
「あ?なんだよ。」
「お前のそういうとこキモいんだよ。」
「なんだよ。やんのかよ。」
「やってやろうじゃねえかよ!」
「もうやめて!!」
「真理…」
「もう最後なんだよ…このクラスで、なんか1つのことするの、もう最後なんだよ!!」
「…」
「卒業したら、もう会えないんだよ?この制服も着られないんだよ?みんなバラバラのまま劇やって、終わって、小道具は全くやる気なかったけど、練習も残んなかったけど、キャストは頑張ったし、それなりに出来たし、アンケートにも良かったって、打ち上げは半分しか来ないのか、まあ、頑張ってない人に来られてもねって…そんなんでいいわけないじゃん!!もう最後なんだよ!?別に失敗だっていい、アンケートにつまんなかったって書かれたっていい!みんながバラバラじゃなかったら、このクラスのみんなで1つになって頑張った結果なら、私はそれも笑えるって思うから。このクラスが好きだから。」
「真理。ごめんね。あんた達も謝んなよ。」
「…わりい。」
「…。」
「あの…」
「なに?」
「あ、やっぱなんでもないです。」
「言いなさいよ。なに?」
「あ、いや、野獣の役、山田くんにやってもらうのはどうかなって思いまして…」
「は?やるわけねえだろ。」
「あんたバカ?なんでカラオケ行こうとしてるバカに主役任せなきゃなんないのよ!」
「あ、いや、でも、山田くん、元演劇部だし…」
「やめろよ!」
「え?そうなの?」
「マジかよ。山田。」
「関係ねえだろ!」
「いいじゃん。キャストやれよ。」
「そうだよ、演劇部なら演技のことも詳しいし、私たちサポートするからさ。」
「いい加減にしろよ!!」
「…。」
「劇なめんじゃねえよ!!お前らにわかんのかよ!舞台上で頭が真っ白になって、客の怪訝な顔があっちこっちに見えて、足が震えて手が震えてその醜態を笑われて、部員もみんな顔伏せて一人になるその苦しみが!練習してきたことが全部水の泡になって、期待してくれた周り全員に泥ぶっかけて!その恐怖が!お前らにわかんのかよ!!」
「やれよ。山田。」
「やんねえっつってんだろ!!!」
「舞台の上に置いてきた苦しみも恐怖も。舞台の上で取り返すしかねえだろ。」
「てきとうなこと抜かしてんじゃねえよ!」
「逃げんなよ!!!お前、演技がしたくて演劇部に入ったんだろ?だったら逃げんなよ!!頭真っ白になったっていいよ。足が震えて、手が震えるなら俺らが止めてやるよ。セリフ飛んだら俺が大声で教えてやるよ。客に笑われたっていいよ。俺たちがもっと笑ってやるよ。一人になんかさせねえよ!それがこのクラスだろ!!信じろよ!!信じてくれよ!!」
「…出来ねえよ。」
「ってかさ、野獣役のもっくんの意見は聞かなくていいの?」
「たしかに。もっくんにやって欲しいって言ったの私たちだもんね。もっくんいる?いた。」
「あ、俺?うん。まあ俺も、山田にやってもらいたい。って言いたいところだけど、まあ俺なりに野獣の役、練習してきたからなぁ。あ、じゃあこういうのどう?俺と山田で野獣の役を交互にやって良かった方に決めてもらうっていうのは?」
「は?やんねえから。」
「もっくんはそれでいいの?」
「うん。やっぱ上手い方がやるべきでしょ。」
「山田、ここで逃げたらずっと一緒だぞ?」
「じゃあ、まず、俺からな。う、うおー!ガルー!!死ぬ前に君に会えて良かった。まだ君に伝えてなかったことがある、最後に、ベル愛してるよ。」
「カッコいい!」
「うん。やっぱ私はもっくんにやって欲しい。」
「爽やかだぁ。」
「じゃ、次は山田の番ね。」
「あんた、男でしょ?やりなさ…」
「うるせー!わかってるよ!やりゃいいんだろ!」
「頑張れ。」


「グンヌッガーハッ!ハァハァ…ゼッ!!ドゥワァー!!ダーハッ!!」
「…。」
「死ぬ前に…ガーハッ…ウゥー…君に…会えて良かった…ハァハァ…まだ…君に伝えてダーハッなかったことがある…」
「…。」
「最後に…ベル…愛している!!」

………


「…す、すげ。」
「すげえー!!!」
「え?ヤバッ!なに今の!」
「山田お前天才かよ!!野獣に見えた!!」
「うん!毛ボーボーに見えたよ!!」
「お前すごすぎ!!こりゃ俺の負けだ!主役決定!」
「いやダメだろ…こんな俺じゃ…」
「そうじゃないだろ?」
「…ごめん!クラスがバラバラになるようなこといったり、やったりして、おれ、誰も信じられなくて、どうせもう、誰とも会わないし、それでいいって思って、でも、もう1回、みんなとも、演技とも、向き合いたいって思いました!みんなのおかげです!ごめん!ありがとう!」
「素直なとこあんじゃん。」
「頑張れよー!主役!!」
「今のも演技だろ!」
「うるせー!当たり前だろ!」
「はい、では、最後の文化祭、頑張りましょう。」
「うん。」
「頑張ろ!」
「よっしゃ!」

「そうだ!なあ!俺、編集するからさ、今のシーン動画撮って告知としてYouTubeにあげようぜ!!」
「なに急に張り切っちゃって、あんたバイトがどうとか言ってなかった??」
「あんな演技みせられてバイトなんかやってられないっしょ!!」
「てきとーなやつ。」


一同、笑う。

"これが、私たちの、僕たちの、最後の、文化祭。"

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