お茶の味ってなんなんだ?【香り編】
味は、味と香りと食体験でできている。
以前、友人の調香師が教えてくれたこの方程式の的確さを、この仕事を続けるほどに実感します。
そしてこの3つの要素の中でも、お茶の味わいを最も大きく左右するのが「香り」です。
私たちFETCがお茶の味をどう捉えているのかについて、【味・香り・食体験】の3つの側面から語るシリーズの2本目。今回はお茶の「香り」について解説します。
「味」の正体は「香り」
そもそも、人間が感じる「味」の大部分は香りだと言われています。
鼻が詰まっていると食べ物の味がわからなくなる、かき氷のシロップは香りが違うだけで味は全て同じなど、私たちは味覚以上に、嗅覚によって味を感じ取っているのです。
それだけでなく、香りはテクスチャー(の感じ方)を変えたり、甘味や苦味を強く感じさせたりと、味覚にも影響を与えます。
ゴクゴク飲めるすっきりとした口当たりと、じっくりと味わうトロッとした口当たりは、香りによってもコントロールできるというのだから、香りが味に与える影響は計り知れません。
複雑深奥な香りの世界
味が5+2種*1で定義されるのに対し、香りは文字通り、桁違いに複雑です。
香りを構成する香気成分は数十万種にも及び、食材にはその内数百種が含まれていると言われています。緑茶の場合は200種類、紅茶は600種類、コーヒーは800種類もの香気成分が複雑に組み合わさり、その香りが作られているのです。
この香気成分は未解明な部分も多くあり、まだ人間の手では作り出すことのできない香気成分も、自然界には多く存在しています。
この中から今回は、「緑茶の香り」について深くご紹介します。
1. 緑茶の香り
青葉、海苔、桜葉、桃、とうもろこし、ジャスミン、マスカット、ナッツ、きな粉、ミネラル、トマト、マヨネーズ
これらは全て、私たちが緑茶から感じたことがある香りです。
以下のイラストは「アロマホイール」と言って、お茶の香りを大まかに分類したものです。一口にお茶と言っても、青葉っぽいのか、花っぽいのか、フルーティーなのか、香ばしいのか。香気成分の構成によって、無数の味わいが生まれます。
出典:https://www.ochalabo.com/taste/taste20180111.html
この表にあるだけでも45種類の分類ができますし、先述の通り香気成分自体は200種類を超え、その組み合わせで作られるお茶の香りは、文字通り無限に広がっています。
2. 緑茶の香気成分
緑茶に含まれる香気成分は200種類以上。その中でも、緑茶によく見られる成分がいくつかあります。
青葉アルデヒド…青葉の香り
リナロール…柑橘系、スズランのような香り
シスジャスモン…ジャスミン、フローラルな香り
ラクトン…桃のような香り
インドール…便臭、ただし少量なら花のような香り
ジメチルスルフィド…覆い香、海苔のような香り
ピラジン…焙煎香、香ばしい香り
それぞれの成分がどれだけ含まれているのか、そのバランスによってお茶の香りが決まります。
そして、お茶の香りを最も大きく左右するのは【品種】です。
3. 香りの違いは、品種の違い
ピラジンやジメチルスルフィドのように、栽培や加工の過程で生まれる成分は全てのお茶に共通する香りですが、それ以外の成分をそもそもそのお茶が持っているのかどうかは、お茶の品種によって変わります。
ラクトンの香気成分を持たない品種では、どんな栽培・加工をしてもラクトン特有の桃のような香りを作り出すことはできないのです。
花のような香りを持つ品種、とうもろこしのような香りを持つ品種、ミルクのような香りを持つ品種。同じような呈味成分を持つお茶であっても、味わいに差が生まれるのは、それぞれの品種が持つ香気成分が違うからなのです。
お茶の品種というとあまり聞きなれない言葉かもしれませんが、市販のお茶は複数の品種を合組(ブレンド)して作られていて、いくつもの香りの掛け合わせで構成されています。
FETCで販売しているお茶は全て単一品種で作られているので、それぞれの品種が持つ独自の香りを楽しむことができるんです。
4. 品種以外に、香りを左右するもの
例え同じ品種のお茶であっても、栽培方法や加工方法によって香りの強さや質が変わりますし、器の形状やお茶の温度によっても、香りの立ち方と感じ方は変わります。
4-1. 栽培&加工方法
被覆栽培で作られたお茶や、蒸しの工程を長く行う深蒸し茶は、露地栽培・浅蒸しのものと比べると、品種特有の香りは若干弱まります。
その分渋味が強かったり、味が出にくかったりと、それぞれに長所と短所があるため、どちらが良いという訳ではありませんが、露地・浅蒸しのお茶と出会ったら、香りを楽しむことを意識してみると良いかもしれません。
4-2. 器の形状
同じお茶を湯呑みとワイングラスとで飲み比べると、その印象ははっきりと変わります。これは香りの感じ方が変わっているためで、ワイングラスのように口がすぼまっているものは香りを閉じ込め、より強く感じることができるのです。
飲み口の厚さも味の感じ方に影響を与えますし、器の形状はお茶の味を左右する要因の一つです。
4-3. 温度
香気成分はいずれも、揮発することによって香りを放ちます。それぞれの成分が揮発する温度は成分ごとに変わりますが、温度が高ければ高いほどより多くの成分が揮発するため、香りを感じやすくなります。
お茶を楽しむことは、香りを楽しむこと
味がお茶の味わいの土台を作り上げ、香りが装飾を施す。お茶から感じる華やかさも、青青しい印象も、そのほとんどを香りが作り上げているのです。
ワインやコーヒーの香りを楽しむように、お茶もまた、香りを楽しむ飲み物です。是非器や温度を気にしながら、お茶の香りを楽しんでみてください。
そして次回は、味と香りが作り上げた味わいをさらに変化させる、【食体験】について解説します。
*1 味覚で感じる甘味・酸味・苦味・塩味・旨味に、触覚で感じる渋味・辛味を合わせて五+二味としている。
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FETCのお茶の定期便では、毎月変わる2種類のお茶をお届けしています。
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