私、書きます‼️
第1話『星空の下』
♪ 風薫るさわやかな草原で 君と過ごしたね
星が瞬いて 流れていく まるで僕の人生みたいに
私が小学生だった頃、好きだった曲。
ファイブロケッツという、アイドルともロックともフォークグループとも言えない、4人組だった。元々、5人組だったが、デビュー寸前に1人が抜け、今さらグループ名を変えられないということで、ファイブロケッツのままになった。
メンバーは、カズオ、ハルキ、ユウジ、ダン。20代半ばくらいだっただろう。
カズオはリーダー的存在で、トークが上手い。ハルキは歌唱力が抜きん出ている。ユウジは演技力がある。ダンは...エクボと八重歯がかわいかった。
長髪ぎみの髪、フリフリがついたブラウスシャツや色ちがいのツナギ服を着て、よく歌番組に出ていた。
当時は歌番組の放送時間が21時頃だったので、「小学生は20時に寝る」という方針の我が家では観せてもらえず、私はこっそり祖父母の床に潜り込み観ていたものだった。両親にはバレていたと思うけど。
ハルキが1番人気があり、ユウジ、カズオ、ダンというファンの数だったと思う。
私はダンが好きだった。
彼の纏っている雰囲気、何が、と言われれば何だかわからないけれど、小学生だった私は大好きだった。 穏やかな笑顔と控えめな態度。
小3の夏休みに従姉の紗枝ちゃんが遊びに来た。紗枝ちゃんは高校生で、来年は卒業して、東京へ行くと言っていた。紗枝ちゃんもファイブロケッツが好きで、ハルキのファンだった。
「12月のファイブロケッツのコンサートに行くんだ。県民ホールに来るからね。チケット取れたんだよ。」
ばあちゃんに紗枝ちゃんが言う。
「いいなぁ、いいなぁ、私も行きたい‼️」
駄々をこねる私に、紗枝ちゃんは、しまった、という顔をしていた。
「今回は、チケットがなかなか取れなかったから、ごめんね。私、来年、東京に住むからその時は洋子ちゃん、一緒にコンサート行こうね。」
私は紗枝ちゃんの言葉に納得して、いや、納得するしかなくて、来年を待つことにした。
だけど。
その来年には、ファイブロケッツには会えなかった。
彼らが解散してしまったからだ。
カズオは司会者やコメンテーター、ハルキはソロシングルデビュー、ユウジは映画や舞台で、ダンは...ダンは?ダンは予定が決まっていないと言った。
解散を知ったとき、私は声を上げて泣いた。おんおんおんおん泣いた。
でも、しばらく経つとファイブロケッツのことなんて忘れてしまった。子どもの興味なんてそんなものだろう。ミニバスケット部に入り、活動し始めたり、同級生の男の子が気になったり、形のはっきりした、手の届く現実の世界の方が、より色濃さを増していった。
ファイブロケッツが解散して20年。
紗枝ちゃんは高校を卒業して、東京でバスガイドをしていたが、働いて割りとすぐにお客さんに見初められて、東京から九州にお嫁にいってしまっていたから、私が紗枝ちゃんの住む東京に遊びに行くこともなかった。そして、私はもうすぐ30歳になろうとしていた。
ある日、仕事が終わって帰宅した後、見ようが見まいがいつものように惰性でテレビを付けたら 『スクープ‼️あのスターは今‼️』 という番組が放送されていた。
司会は、元ファイブロケッツのカズオこと一ノ瀬一生。番組のクライマックスでカズオ自らが、
「メンバーに会いたいです。探してほしい。」と訴えていた。
カズオは名司会者になっていたけれど、他のメンバーはどうしているんだろう。私も気になった。
番組では、ハルキが音楽プロデューサーに、ユウジは俳優を辞めた後、親の経営していた建設会社を引き継いでいた。
ダンは?ダンは見つからないの?
ダンは行方がわからないという。メンバーの誰とも現在に至るまで交流がないとのことだった。
何をしててもいい。ダン、元気でいますように。私は祈った。少女の頃の自分になって。
私の仕事は教材販売で、営業担当だ。昨年度までは中学校担当だったが、今年度から高校担当になった。
今日は、始めての高校に訪問。職員室に通されて、各教科の先生に挨拶する。
生物と地学担当の先生のところへ。初めまして...?初めてじゃない気がする。
エクボと八重歯。
まさかだよね。まさか。
「ダン?...ダン‼️」
その先生は口に人差し指を当て、しーっというジェスチャーをした。
「生物と地学担当の段田です。」
と挨拶した。
ダンはここにいた。なんという偶然。こんなことがあるなんて。こんな日が来るなんて。
訪問を重ね、ダンとたくさん話すようになっていた。
芸能界は自分に合わなかったこと。
星が好きだったから改めて勉強しようと思い、解散後、大学受験のため、猛勉強したこと。
天文台のあるこの町で、教師を募集していることを知ってやって来たこと。
実は、『星空の下』は自分が作詞作曲したこと‼️
♪ 風薫るさわやかな草原で 君と過ごしたね
星が瞬いて 流れていく まるで僕の人生みたいに
ダン。
私が一番好きな曲。
作ってくれてありがとう。
この町に来てくれてありがとう。
当たり前の毎日をダンと過ごせるようになった今が、とても嬉しい。
今日も私たちは、流れる星を一緒に見ている。
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