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彷徨う日々


職場に置いてるハンドグリップを2kgから5kgにかえた。「強くなりたいのか」と上司に突っ込まれたが、そんなつもりは毛頭ない。仕事に集中したい時は、だいたいグレン・グールドのバッハ「ゴールドベルク変奏曲」を聞きながらハンドグリップをにぎにぎしている。「羊たちの沈黙」や「そして父になる」でも使われているので聞いたことがある方は多いはずだ。



昔、五代ゆうという作家のライトノベル「機械仕掛けの神々」にはまり、彼女の作品をお小遣いで買い漁っていた。

その中に「ゴールドベルク変奏曲」というタイトルがあったので、以来バッハとは運命めいたものを感じている。五代ゆうは故栗本薫の「グイン・サーガ」続編プロジェクトにも参加している実力派で、骨太なファンタジーを得意とする小説家だ。私は小~中学生の頃にであった「骨牌使いの鏡」「はじまりの骨の物語」「遥かなる波濤の呼び声」など初期作品が好きだった。彼女が構築する世界観は引用するのもはばかれるので割愛するが、一時は「五代ゆう&榊一郎の小説指南」というムック本まで読み込んでいた為、自分が書くフィクションには(ファンタジーのドラゴンや魔法は出てこなくとも)大分彼女の影響が濃く出ていると思う。


親戚の見舞いを兼ねて短い帰省をした。新幹線と在来線を乗り継ぐこと3時間。暖冬のせいか2月後半に差し掛かっても雪はみあたらず、病院からキリリと見える磐梯山にやや雪化粧といったところであった。帰りの新幹線で買ってきた2冊目の本を読む。村上春樹の旅のエッセイでラオスやアイスランド、アメリカのポートランドにアキ・カウリスマキを訪ねたフィンランドまで幅広く網羅しており、著者の軽快な文体も飽きさせない。どんなに短くとも旅に出る際は旅のエッセイを持参するくせがついたのはいつからかわからないが、毎度東京駅や成田空港の本屋で物色しているのだから、そこそこ好きなのだとおもう。今回は加えて吉田修一「作家と一日」もお供にした。お世話になった親戚の家で本棚を漁っていたら「伊集院静の流儀」をみつけて就寝時に読む。こちらも新幹線の車内誌トランヴェールに連載されていたので、偶然なのか擽ったいものを感じた。伊集院静はやんちゃなギャンブル狂いのおっさんというイメージと、受け月、乳房、海峡三部作といった名作を生み出した柔く繊細な側面がいつも合致しない。弟や妻、師匠など最愛の誰かをコンスタンスに失ってきた哀しみを様々な作品で昇華させては忘れないように戒めている。勝手にそう解釈している。新曲を聞いてもどこか懐かしい、セルフカバーのようなメロディ。なんだかサザンオールスターズのようで笑ってしまった。

帰宅後、3日ぶりの自宅でコーヒーをいれてひと息。枕元の積読本がまたふえたが、断捨離とは無縁の我が家である。今年は桜が早そうだ。

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