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ホワイト・クロウ 伝説のダンサー

原題:The White Crow

TOHO日比谷シャンテで鑑賞。上映期間短めと聞いていたのでさくっと行ってきました。バレエの知識は皆無です。アイススケートと踊りが似ている、といったら友人に呆れられた。ネタバレ注意!

あらすじ:ソ連から亡命し、世界3大バレエ団で活躍した伝説的なダンサー、ルドルフ・ヌレエフの半生を描いた。1961年、若きダンサーのルドルフ・ヌレエフは、海外公演のため生まれて初めて祖国ソ連を出る。フランスにやってきたヌレエフは、パリでの生活や文化・芸術に魅せられていくが、その行動はKGBに監視されていた。映画.comより


感想:政治・歴史・芸術すべてが繊細なバランスで成り立っている素晴らしい作品

あと、フランスは強い(物理)

いまのとこ、2019年上期ベスト枠。いや、個人的にスマッシュヒットの「愛がなんだ」「女王陛下のお気に入り」とかもあるんだけどね…。兎に角個人的なツボが多すぎる映画でした。ロシア語、冷戦、鉄のカーテン、社会主義vs民主主義、外交、フルシチョフ、KGB、亡命、芸術の都パリ。

制作陣にリーアム・ニーソンの名前があって、「シンドラーのリスト」以来ふたりの交流が続いていることに驚いた。レイフ・ファインズのように俳優から制作サイドに転向するパターンは少なくない。クリント・イーストウッドは大御所だけれど、最近だとコリン・ファースが「アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場」「ラビング 愛という名のふたり」を生み出したし、ブラッド・ピットはプランB設立後「それでも夜は明ける」「ムーンライト」といったアカデミー賞作品を送り出している。グレタ・ガーヴィグの「フランシス・ハ」「レディ・バード」なども有名。ベン・スティラーやロバート・レッドフォードの名前も昔からみかけますね。

時代背景がキモとなる作品なので、旧ソビエト連邦についてざっとおさらいしておくとよいです。スターリンからのフルシチョフ、鉄のカーテン、冷戦あたりがマストかな。佐藤優とか読んでおくとグーよ。

1960年代の世界情勢

1960 新安保条約に調印(岸内閣)
1961 ソ連が初の有人宇宙飛行に成功・ベルリンの壁設置
1962 キューバ危機・日米安保条約改定・米が初の有人宇宙飛行成功
1963 ケネディ暗殺
1964 IBM計算機システム360デビュー
1966 ビートルズ来日・毛沢東による文化大革命
1968 キング牧師暗殺・ウッドストック・パリ五月革命・プラハの春
1969 東大安田講堂攻防戦・デタント(緊張緩和)・アポロ11号月面着陸


そもそもレイフ・ファインズ監督らしい、ということ以外はほぼ知らずにみたこの映画。「アデル、ブルーは熱い色」のアデル・エグザルホプロスも出演していて嬉しい驚き。踊る野獣バレエダンサーことセルゲイ・ポルーニンも出てます。レッド・スパロウで無駄遣いされたひとだね!(褒めてる)

本作はルドルフ・ヌレエフの幼少期から1961年の海外亡命まで現在過去のショットを交えて語っていく。広大なソ連の東南バシキール共和国に生まれたヌレエフは小さいころに踊りに目覚め、お国の援助を受けてバレエ学校へ進学。タタール人の血をひくため、ヌレエフの父親はややモンゴル系のひとが演じていたりする(細かい)祖国の恩師に監督でもあるレイフ・ファインズ。きちんとロシア語しゃべってます(加点ポイント)かれをとりまく同僚、監視するKGB、パリで出会った「西」の友人たち。すべての要素が絶妙なバランスでドラマが進んでいく。最後の15分は、気がぬけなかった。マジで。

実在の人物なので、ヌレエフの亡命やその後の活躍については驚くほどではない。けれども、かれの「この瞬間を逃してはだめだ」「芸術の一挙手一投足もみのがすまい」「自分は、もっと高く跳べるはず」という、倒れるときも前のめりなハングリー精神(情熱とかもっとカッコイイ言い方あるんでしょうけど)をみるにつけ、自分のなかで蓋をしていたなにかを無視できなくなった。命を賭してもかれは踊らなきゃいけなかった。これは義務でもなんでもなく、それがヌレエフの生きる道だったとして、私にはなにがあるだろう。鑑賞後に自問自答してしまうような、そんな作品だった。


パリの友人はこともなげに言う。
「ー熱はいつだって東からやってくる」
皮肉と羨望がいりまじったまなざしで。


主演の方が現役ダンサー(オレグ・イベンコ)なので踊りに関しては最&高。ほんのりみえたLGBTQ要素にゾクっとしたり。画面の陰影、過去現在の差し込み方、エンディングの締め方まですべてがどストライクでした。クレジットみていたら「愛をよむひと」「めぐりあう時間たち」の脚本書いたデヴィッド・ヘアー。そりゃ好きに決まってるわ。知ってた。


芸術を好きな方、おすすめします。
なにかに迷ってる方、なにかをあきらめた方、みたらダメージはくらうかも。

以下、参考に読んだ海外レビュー。







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