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連載:お寺の女性の今、そしてこれから [12] 高橋麻悠さん

こんにちは。未来の住職塾の松﨑香織です。

この連載では、お寺で生活する女性のウェルビーイングを大切にするために、さまざまなお立場にある、お寺に暮らす女性のお声をお届けしています。第12回目のゲストは、曹洞宗・長昌寺(東京都小金井市)の寺族 高橋麻悠さん。

取材・文●松﨑香織 

写真:高橋麻悠さん提供。ご自坊・長昌寺にて。

ゲストプロフィール:高橋麻悠(Mayu Takahashi)
1981年生まれ 愛媛県新居浜市出身。
大学進学を機に小金井市に住み始める。
2015年、同市のお坊さんと結婚。共にお寺の場作りをしている。
現在1歳児を抱え、子育ても奮闘中。
長昌寺ホームページ http://enichizan.com/

◉ お寺と祖父と私

―麻悠さんは一般家庭から結婚を機にお寺へ入られたそうですが、地元のお寺との関わりはどんなものでしたか。

麻悠 私の祖父は、二人ともお寺の檀家総代をしていました。母方の祖父と和尚さん(ごじゅっさん)には共通の趣味があって、仏事やお寺のこと以外でうちに来られることも多く、私にとってのお坊さんは、雲の上の存在というより近所の”おっちゃん”という印象で。

 初めてお経に触れたのは曾祖母が亡くなったとき。四十九日まで毎晩読経していたので、繰り返し聴いているうちに覚えてしまって、三輪車に乗りながらお経を口ずさむような幼少期でした。そんなご縁もあり、お寺の住職と結婚することになったとき親族は喜んでくれました。
 
 祖父は晩年、本堂の建替えの際に総代として町内を自転車で走り回って寄付を集めたりしていたようですが、残念なことに落慶法要の直前に急逝してしまいました。「この法要に出られなくて悔しがっているだろうなぁ…」と感じたことを覚えています。大人になって、嫁ぎ先のお寺を盛り上げるためにしているあれこれを、祖父は喜んでくれているかな、いつまでも自慢の孫でいたいな、という気持ちで毎日奮闘しています。

◉ お寺で活きる、スキルの引き出し

―お寺に嫁いで、日々どのようなことを感じて過ごされていますか。

麻悠 私は、多趣味を絵にかいたような人間なんです。絵とか文字とか音楽とか、それなりにやれることが色々あって…。でも、やっぱり「それなり」では仕事にならないんですよね。「これだけは」というひとつのことを仕事として続けることにずっと憧れていました。それが、お寺に来て初めて、ビタ―ッ!とはまった感じがしたんです(笑)。
 お地蔵さまの前掛けを縫うにも、掲示物や寺報を作るにも、中途半端でしかなかった自分のさまざまな引き出しが、あれもこれもここで活きてくるのか!って。映像を作ったり、ホームページをリニューアルするときも、まずは自分でソフトを触ります。業者さんに依頼するにしても、ざっくりした仮のものでも作れるとイメージを伝えやすくて話が早いんですよね。人と話すことも好きですし、こんなに自分が活きる職場は初めてで、大変に感じることはあまりないです。

お地蔵さんの前かけ


◉ 何事も、まずはやってみる!

―ご寺族がいきいきされているお寺って素敵だな、と思います。そういえば、坐禅会や写経会のネット予約システムもご自分で構築されていましたね。

麻悠 ウェブフォームも無料のものがたくさんあるので、評判や口コミを見るところから始めて、使いやすそうなものを選んで作ってみました。うちのお寺の坐禅は、初めての方が触れやすいような「入門編」を目指していたので、お寺へ電話をかけることにハードルを感じるような方も気軽に申し込めるようにネット予約を導入したくて。今、参加者の95%はネット予約の方々です。
 予算をかけるところはプロの力を借りますが、昔から続けてきた「まずはやってみる!」の繰り返しで、できることの幅が少しずつ広がったと思います。

◉ 「おてらじかん」から広がるご縁

麻悠 境内に15体ほどあるお地蔵さまの前掛けを、最初は一人でミシン縫いをしていたのですが、何人で集まっておしゃべりしながら手縫いすることにしました。自分が時間と思いをかけて縫ったものを身に着けているお地蔵さまって、なんだか気になるじゃないですか。会を始めてからは、お墓参りの際にお地蔵さま参りもしてくださるようになりました。

 また先日、有志の方々と蓮を植え付けたところ、ご自身が植えた蓮の成長が気になられるようで以前よりもよく散歩に来られます。「蓮が咲くのも楽しみだし、他の誰かの心も癒してくれたら嬉しい」とおっしゃられて、その連鎖を想像すると私も嬉しくなります。前掛けにしても蓮にしても、自分事にしていただくとギュッと関係性が縮まりますよね。

 こうした、お寺でちょっと良い時間を過ごしてもらうような活動を「おてらじかん」と総称して定期的に開催してきました。坐禅の会などは、檀家さんのほかに、地元や市外からのご参加もあります。皆さんとのご縁に感謝して、年末には「おてらじかん」に参加された方々と大忘年会を開いています。赤ちゃんから高齢の方まで80名ほどでわいわいと。こんな忘年会はお寺ならではかもしれませんね。

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 こうした活動を寺報やウェブサイトで発信し続けていると、葬儀や法事のできるお寺やお墓を探している方々の目にとまるようで、そうした皆さまと新しくご縁をいただくことも増えました。
私は、仏教に心から救われ他というような経験が未だありませんし、信心もまだまだなのですが、これからも祖父の思いを胸にコツコツ励んでいきたいです。

人々がいきいきと集うお寺に安心感を持たれる方は多いでしょうね。ひとつ一つの積み重ねが、ダイナミックに巡っているご様子、素晴らしいと思いました。
今日は素敵なお話をたくさん聞かせていただき、ありがとうございました。

この連載記事は、大正大学地域構想研究所BSR(Buddhist Social Responsibility)推進センターが毎月発行する『地域寺院60号』に掲載されました。
地域寺院は、これからの地域社会に必要とされる寺院の在り方を探る情報を発信する月刊誌です。
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インタビュアー プロフィール

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松﨑香織:一般社団法人未来の住職塾 理事。米国Fish Family財団 JWLI (Japanese Women’s Leadership Initiative)フェロー。役員秘書として銀行の経営企画に携わったのち、ロンドンの非営利組織にてマーケティングに従事。2014年より未来の住職塾ならびに塾生コミュニティ(現在約650名)の運営に携わる。全日本仏教会広報委員会委員、WFB(世界仏教徒連盟)日本センター運営委員会委員。

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