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連載:お寺の女性の今、そしてこれから [16] 久住佐知子さん

こんにちは。未来の住職塾の松﨑香織です。

この連載では、お寺で生活する女性のウェルビーイングを大切にするために、さまざまなお立場にある、お寺に暮らす女性のお声をお届けしています。第16回目のゲストは、日蓮宗・妙法寺(神奈川県戸塚市)の寺族 久住佐知子さんです。

取材・文 ● 松﨑香織 

ゲストプロフィール:
久住佐知子(Sachiko Kusumi)
妙法寺に嫁いで、もうすぐ20年。1児の母。
ふとした心の葛藤と戦いながら、心穏やかに過ごすにはどのようにしたらよいか、日々模索中。

周りの支えに感謝して、自分にできる精一杯を

――佐知子さんは、日蓮宗のお寺から妙法寺へ入られたのだそうですね。

佐知子さん 嫁ぎ先の妙法寺は、お檀家さんを始め家族以外の僧侶やスタッフなど様々な方に支えられているお寺です。私の実家は、家族で護っているこぢんまりとしたお寺だったので、嫁いだ当時は戸惑うこともあったように思います。

 「佐知子」は父のお師匠さんがつけてくださった名前で、「佐」には人を助ける、という意味があるらしく、私も自分にできる限りのことをしながら周りを支えていけたらいいな、と思いながら暮らしています。

――ご自身の人生に、何か大きな転換期はありましたか?

佐知子さん 妙法寺は先代住職が突然に逝去しまして、その日を境に環境が急変しました。私たち夫婦は、守られていた立場から自分で考えて行動する立場へと変化したことを、事ある毎に実感しました。法要一つをとっても、ダブルブッキングしていないか、当日の時間管理はスムーズか、発注忘れはないか……と、当たり前の事務仕事も不安になり、日々を営むのに精一杯。そんな中、お檀家さんが力になってくださり、大変な時を乗り越えることができました。そしてまた、ほどなくして子供を授かり、「先代の生まれ変わりだね」と皆さんに可愛がっていただいて、お寺が忙しい時には「孫と一緒に遊びに連れて行ってあげるよ」と言ってくださったり……。幸せなことですよね。佐知子の「佐」は人を助けるの「佐」なのに、私が助けられているなあ、恩返しできる人生にしたいな、といつも思っています。

――妙法寺では、日々どのようなお仕事をされていますか?

佐知子さん 主には会計と寺庭婦人としての葬儀や法事の対応ですね。お葬儀の知らせなどを受ける際は、ご家族のことを思い浮かべて、皆さんにとって望ましい形をご提案できるよう心がけています。
 妙法寺に来る前は一般企業の社長室に勤めていました。様々な方と出会わせていただき、たくさんのことを見聞きした経験が、今に活きていると感じます。

セルフケアも、大切に

――暮らしの中で、特に心がけているようなことはありますか?

佐知子さん 以前は大きい行事の時期になると「これをしなければ、あれもしなければ」と、心と体がままならず精神的にとても疲れてしまっていたのですが、今年から思い切って週に1回リフレッシュのための休みを取ることにしました。ずっと体を動かしたかったので、ベリーダンスを習い始めたりもして……。傍から見ても心身が休まってきたのか、「あの頃はつらそうな顔をしていたから言えなかったんだけど〜」なんてお檀家さんがフランクに話してくださるようになったりと、初めは休むことに後ろめたさを感じていたのですが、むしろ皆さんとのたわいない話などから繋がりが深まっているように思います。

 最近、グリーフケアや心理学にふれる機会もあって、「唯一絶対の答えはなく、どんな在り方も間違いではない」という学びがありました。「自分こそが正しい」というこだわりを手放していくことで、縁ある方々のそれぞれの価値観を受け入れられるようになって、相手の話をより深く聞けるようになりましたね。お檀家さんからも「話を聞いてもらって楽になったよ」とか「会えてよかったわ〜」と言っていただけるようになりました。

スタッフや寺族と何度も打ち合わせを重ねて作ったお守り

アウトプットを意識してみる

――セルフケアとも相まって、周りとの関係に良い影響が出ているのですね。

佐知子さん そう思います。私はどちらかというと後方でサポートしたいタイプなのですが、最近はちょっとずつアウトプットもしていきたいな、と思うようになりました。でも、自分に何ができるのかについては、まだ迷っています。子供が中学生になって自分の時間を持てるようになったので、まずは毎日の朝勤に出てしっかり声を出して読経したり、休みの日に体を動かすことから始めています。小さな一歩ではあるけれど、心身が軽くなって気持ちにゆとりができてきました。

 朝勤で日蓮大聖人の御遺文をお唱えするたび、お寺の子として両親に見守られて育ち、多くの人のおかげさまで様々な経験をさせていただき今があるんだ、ということを思います。後世から見れば私もそのおかげさまの一員に含まれることがあると思うと、自分の持てる限りのものをアウトプットしながら恩返ししていきたいという想いが募ります。

誰もが「来てよかった」、と感じられるお寺に

――自分にできることを少しずつ重ねていく……。
とても大切な心持ちですね。
これから、妙法寺をどんなお寺にしていきたいですか?

佐知子さん 皆さんが集いたいと思うお寺になったらいいなと思います。ウェルカムな雰囲気で、また来たいな、と感じてもらえるようなお寺に。新しく作ったお寺のロゴデザインにはそんな願いも込めました。

 町内会の組長をさせていただいたご縁から、「こんなことをやってみたいんだよね」など地域の方々にお声がけいただくようになりました。これまでは、夏にはほおずき市や冬には大晦日など季節ごとに地域の方が集まるような行事をお寺で催していたのですが、今はなかなか機会を持てず、さみしいですね。最近は庭掃除を楽しんでいるので、お掃除の会など、外でなら地域の皆さんと楽しい時間を一緒に過ごせるかな、と考えています。

――佐知子さんの細やかなコミュニケーションの積み重ねが、今の妙法寺をつくっている様子がうかがえました。
今日は素敵なお話を聞かせていただき、どうもありがとうございました。

この連載記事は、大正大学地域構想研究所BSR(Buddhist Social Responsibility)推進センターが毎月発行する『地域寺院65号』に掲載されました。
地域寺院は、これからの地域社会に必要とされる寺院の在り方を探る情報を発信する月刊誌です。
・定期購読の詳細はこちら

インタビュアー プロフィール

松﨑香織:一般社団法人未来の住職塾 理事。米国Fish Family財団 JWLI (Japanese Women’s Leadership Initiative)フェロー。役員秘書として銀行の経営企画に10年間携わったのち、ロンドンの非営利組織にてマーケティングに従事。2014年より未来の住職塾ならびに塾生コミュニティ(現在約650名)の運営に携わる。全日本仏教会広報委員会委員、WFB(世界仏教徒連盟)日本センター運営委員会委員。

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【お知らせ:お寺の事例シェア企画】

昨年12月に興山舎より出版された『みんなに喜ばれるお寺33実践集 - これからの寺院コンセプト』の出版を記念して、書籍で紹介されている2か寺のご住職に登壇いただき、本では語られていない最新の活動実践事例をお話しいただきます。

お話しを聴くのは、著者である未来の住職塾 松本紹圭 塾長と、遠藤卓也 講師。ご参加の皆さんの寺院活動にも役立つように事例を一緒に紐解きます。

コロナ禍において、これまでのように仏事がとりおこなわれなかったり檀信徒の集いの機会も減り、不安を感じているお寺も多い中、新しいご縁を結んでいくためのヒントとなる最新事例をご紹介いたします。

『みんなに喜ばれるお寺33実践集』出版記念オンラインイベント
 実践事例共有LIVE

開催日:2022年3月7日(月) 14:00-16:00
開催形態:オンライン(Zoomを使用)
進行役:松本紹圭(未来の住職塾 塾長)、遠藤卓也(未来の住職塾 講師)
発表者:久住謙昭さん(神奈川県・日蓮宗 妙法寺 住職)、品田泰峻さん(青森県・真言宗豊山派 普賢院 住職)
参加費:無料(先着100名まで)
対象者:僧侶やそのご家族(配偶者や兄弟姉妹、後継者)など、伝統仏教寺院にて「宗教指導者」としての役割を担う方。僧侶のご家族については、僧籍の有無を問いません。

主催:一般社団法人未来の住職塾


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