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Interview#56 グラタンコロッケバーガーにグリビッシュソース

2020年の春、最初の緊急事態宣言で、休業しなければなかったレストランに、テイクアウトのお弁当をつくったり、医療従事者に食事を届けたり、オンラインの料理ライブをしたりする料理人の姿がありました。その利他的な行動には、人を楽しませる、元気にする力がみなぎっていました。
ラ・ボンヌ・ターブルの中村シェフのInstagramでの料理ライブは、現在も続いています。我が家の食卓も、それによってどれだけ楽しくなったことか。

食の仕事に携わる人々の、パンとの関わり、その楽しみについて伺う企画、56人目の今回は日本橋のレストラン「ラ・ボンヌ・ターブル」シェフの中村和成さんにお話を伺いました。

中村シェフのInstagram

グラタンコロッケバーガーにグリビッシュソース

ラ・ボンヌ・ターブル シェフ 中村和成さん

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パンは料理の頼もしい相棒

料理を一番おいしく味わう方法は、お腹がいっぱいになり過ぎないようにするということです。コースも頑張って食べきることが目的になってしまったら本末転倒。例えば、今は自家製麺を入れたスープ・ド・ポワソンをお出ししているので、炭水化物が多くなり過ぎないように軽めのパンをセレクトしています。

パンは1ヶ月半から2ヶ月ごとに変わるコースに合わせて、その都度「ブリコラージュブレッド&カンパニー」で選びます。今は最初に鉄鍋で焼かれた「パンドミ プレミアム」。これはそのままちぎって食べておいしいパンです。メインの頃にはマッシュしたジャガイモを練りこんだ「ムーポテト」。これは金目鯛の鱗焼きのグリビッシュソース(ゆで卵のソース)に、とてもよく合います。個人的にもこういうパンが好きですね。

夏は水分量の多い果物などを多用するので、フォカッチャ。生地に入っているオリーブオイルの油脂分と果物の水分が口の中でいい感じに乳化するんです。冬になると濃厚な肉のジュ(ダシ)に根セロリのピュレをアクセントにした料理など、ソースやピュレにも油脂分が多く含まれるので、カンパーニュ的なパンが合います。そういうことを意識しながら選びます。

新しいレストランのありかた

緊急事態宣言がきっかけで、新しいレストランのありかたが見えました。インスタグラムの料理教室ライブは、去年の3月28日、都から外出自粛要請があった週末、予約してくださったお客さまにお断りを入れる事態になって、それがすごく悔しくてたまらなくて、最初は会社にも言わずにいきなり始めたんです。日曜の昼間に、自宅のキッチンで。

不安感から食材の買いだめをする人がいた頃だったので、それなら近くのコンビニで買えるような食材で簡単に、自宅でもレストランの味を楽しめるような実演をやったらいいかなと思いました。レストランというのはそもそもサービス業で、おいしいものを食べて喜んでもらいたいということが根本にあるから、自然に「よし、やろう」となったんです。

「帆立貝って実はこんなに簡単に焼けるんだよ」というのは技術の共有で、食材にチャレンジするきっかけの提供でもあります。それによってもっと料理を好きになってもらうということを意識してやっています。料理に興味を持つようになれば、レストランに行く時も、より楽しくなる。家でおいしい料理が作れるようになることは、レストランにとってマイナスということはまったくなくて、料理が作れるからこそ、レストランの料理の本当のおいしさに気づくことができるんです。お客さまでも料理をしている人は、ぼくが話すことが通じるので、共通言語で話ができます。インスタライブを見て来てくださる方も増えましたが、「ライブでやったのと同じですよ。このお魚のソースはグラコロの上にのっけてたやつですよ」と共通の話題になります。レストランでやっているシンプルな料理は、ライブでできちゃうものが結構多いんです。

喋りながら料理をしていると意識があちこちにいくので、ハプニングも多く、「ハプニングキッチン」と名付けたんですけど、この活動はぼくにとって労働ではなくて、ライフスタイルの一環かな。

ライブは若い料理人に見ていただいても、勉強になるはずです。料理の工程ってゴールが同じであれば省いていいところもある。カジュアルな場だからこそ、専門学校じゃ言えないようなことを、おおっぴらに言えるんですね。気難しい人には、邪道と言われるかもしれませんけどね。

日曜の朝市では、その時に作りたいものを作っているんですが、先日はムーポテトを使って、ライブでもやったグラタンコロッケバーガーを作ったら、大人気でした。あと、ディンケル小麦のパンと野菜スープの組み合わせは、定番になっています。

朝市はコロナ渦でも流通をできるだけ止めないようにしたいという想いから始めました。レストランという場でできることを、ライブの他にも見つけたかったんです。野菜や果物や加工品、そしてパンなどを販売しています。

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中村和成 / ラ・ボンヌ・ターブル シェフ

1980年千葉県生まれ。大学卒業後、武蔵野調理師専門学校に入り、フランス料理の道へ。「シェ松尾」、「レストラン・ラ・リオン」を経て株式会社CITABRIA入社。「レフェルヴェソンス」で2012年にスーシェフに、2014年日本橋コレド室町にオープンした「ラ・ボンヌ・ターブル」でシェフに就任。2020年3月からインスタグラムで始めた料理ライブは1年で120回を超えた。

NKC Radar vol.89より転載

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