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あのバターチキンをもう一度

僕はバターチキンが好きだ。インドカレー屋に行くとバターチキンか、2~3種類カレーを選ぶものからバターチキンと、その日の気分で何かを選ぶ。それくらいバターチキンが好きだ。

バターチキンはいつからこんなにも身の回りにありふれたものになったのだろう。少なくとも小さいころ母が「今夜はバターチキンよ」と言って食卓に並んで「やったー!今日はバターチキンだ!!」となったことはない。もっと言えば今でも実家の食卓には並ばない。

実家は山奥の田舎なので、当然インド・ネパール料理屋があるはずもなく、大学の時は近所に1軒あったが貧乏学生だったためもっぱら自炊が中心で、実は人生初のバターチキンはニュージーランドで食べたものになる。

滞在した最初の1か月半だけ語学学校に通っていたのだが、最初に入ったクラスはアラビア系の生徒が多く、ある日みんなでご飯に行かないか?と誘われて行ったのがインドレストランで、まとめてオーダーされて目の前に出てきたのがバターチキンだったのだ。

カレーなのに甘い、甘いけど美味しい、ナンにもめちゃくちゃ合う。食べても食べてもナンが提供される。美味しい。すばらしい。今思えばそれほど高いものでもなかったけど、当時もやはり貧乏で自炊ばかりしていたので、そのカレー屋にも3~4回くらいしか行かなかった。

帰国して、東京で暮らすようになった。当時住んでいた中央線には「リトルネパール」と呼ばれる阿佐ヶ谷駅があり、単純に東京には外国人やアジア料理屋が多いのかもしれないが、沿線には異様にインド・ネパール料理屋が多くあった(と思う)。

バターチキンが食べたい、ニュージーランドで食べたあの味をもう一度食べたい。僕はそれから何かとインドカレー屋に入りたがり、そこでバターチキンを頼むようになった。

当時よく通っていたのは東高円寺にあったムスタングハウスというインドカレー屋だった。850円でバターチキンにナン、サラダとラッシーまでセットになっていた。地下鉄の改札を出たら10秒でお店だったので重宝していたが、ある日気づいたらテナントがなくなっていた。そして僕はまた、バターチキン難民になった。

それからしばらくして、阿佐ヶ谷にあるKUMARIに行くことが多くなった。月曜から夜更かしで「野口健さんが大好き」と言いながら野口五郎を待ち受けにしていたおじさんのお店だ。

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最近はあまり新規開拓をできていない。無印良品のバターチキンや、スーパーで売っているバターチキンも試してみるが、何かちょっと違う。

ムスタングハウスもKUMARIも美味しい、大好きだ。でも、あの日食べたバターチキンとは少し違う気がするのだ。それは単純に初めて食べた興奮や、異国の地で食べたという状況が、思い出の味を美化してインプットしているのかもしれない。

今はこのような状況なので、当然海外旅行などできるはずもないのだが、もう少しいろいろと落ち着いたら、いつの日か家族でニュージーランドに行ってみたい。昔僕がそこでどのようにして過ごしたのか、何を食べたのか、何を思っていたのか、妻や子供に話してみたい。

そして願わくば、あの日のバターチキンを、もう一度。

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