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月と森のサブマリン24       強度計算と巨神兵の兵器開発

(森でひとり潜水艦)

…。
夜。
満月が微笑み、
森の木々が風に揺れ、
フクロウが鳴く。
ホ~、ホ~。
そんな森の片隅の家の中、
男は、
ブクブクと潜って行く。
頭が爆発しそ-だ-。
薄暗い部屋の隅。
みかん箱の前。
じっと書物とネットに目を落とす。
…。
そう、
建築確認申請が認められず。
地獄の釜のフタが開き、
脳天から落ちた、
あの、
強度計算をしろ~地獄。
懸命に書物を紐解き、
宇宙の真理を考えた。
あれから、
数十年。
ついに、
男はお漏らししながら、
懸命に強度計算の謎の知の世界に手をかけた。
…。
なになに?。
地震による横方向からの力に耐える建築物…。 
地面の加速度が300ガルの時…。
ん?。
ガルって何だよ?。
…。
さらに読み込んでゆく、
地震の地表面の加速度は…。
加速度…ガル?。
1ガル=1㎝/sの二乗
…。
1G(ジ-)=9.8m/sの二乗=980ガル。
…。
へ~、
地震の地面が動く加速度をガルっていうのか…。
一般的な加速度の単位を使ってくれ~。
かっこつけんな~。
まあいいか~。
地面が加速的に動くと、
その上の建物は慣性の力で止まり続けようとするため、
結果、建物は傾く。
その慣性力はF=-ma。
電車が発進する時に、
床だけ進行方向に進み、
反対側に人が倒れそうになるやつだな。
…。
なるほど、
建物の重量にその加速度をかければ、
加わる水平方向の力が分かると。
すると、
柱と梁の間の接続金具に加わる力も計算できるっちゅう事になる。
で、
どう加わるのか?。
…。
男は図を描き、考える。
丸太骨組みはトラス構造だから…、
その図に力のベクトルを書き込み、
接続金具の強度計算に飛び込んで行く。
ブクブク。
ここはsin22.5°だから…。
ss400の許容応力は○○だから…。
地震の水平力より…。
くく、
苦しい~。
…。
真夜中、
ひとり建築構造計算、潜水艦…。
…。
そして、
月日は流れ、
…。
ついに、
…。
男は丸太接続金具の強度計算書を仕上げた…。
涙……。


建築確認事務所に接続金具の強度計算を提出。
やさしそうなおばさんが受け取ってくれた。
確認がとれたら郵便で発送してくれるとのこと。
心の中。
どうだ、
これで、
文句あるかー。
いやいや、
どうぞよろしく、
お願いします~。
審査を通過するのか。
ドキドキは止まらない…。
…。
そんなヨイヨイの男も、
週末の昼間になると、
建築現場に立つ。
おりゃー。
肉体労働者になるのだ。
ははハ。
さて、
基礎穴は掘った。
巨石も掘り出した。
次は?。
…。
ムム。
やばい。
…。
難問だ。
生命の誕生、
ヌクレオチドの自己複製確率並にムズイ。
いや、
ABC予想の証明に匹敵する難問。
なんだそれ?。
…。
それは森のひとり潜水艦コンクリート問題。
…。
難しそうだろ?。
…。
建物の基礎は一般的にコンクリート。
となると、
砂利とセメントと水を混ぜ、
型枠に流し込むという難作業が必要になる。
さらに、
ただ流し込めばいいというものでは無い。
基礎として形のあるものを、
ドロドロと流動性のある生コンクリートで造るには、
型枠という流し込む型がいる。
その型枠を造り、
どう生コンを流し込むのか?。
それをひとりで…。
…。
もう、
考えるのが嫌になる問題だ。
さて、
この問題をどう解くのか?。
…。
型枠は以前アカマツの丸太を自作製材機でスライスした板がある。
あの自作の板を、
トンテンカンして、
組み上げればいいと想像できる。
だが、
問題は、
基礎造りに必要なジャリと生コン運搬だ。
…。
設計段階での、
欲のつっぱらかった妄想設計では、
地階兼基礎部分に必要なコンクリートの量は半端ない。
…。
だが、
以前書いたが、
電気も無い、
水道も無い。
となると、
水をどこぞの川からバケツで汲んで来る?。
そして、
ホームセンターで大量に買い込んだセメントと大量の砂利を、
小形電動コンクリートミキサーでコネコネして、
型枠に流し込むという作業は、
…究極の肉体労働。
…。
コンクリートの奴隷だ。
もし、
これを実行すると、
年単位の時間がかかり、
過酷な重労働の果て、
ハルクホーガン並に筋骨隆々となり、
やがてピークを過ぎ、
腰が曲がり、
白髪となり、
よいよいのじいちゃんになってしまう。
…。
それでは、
スペインはバロセロナのサグラダファミリアに負ける。
クソ-。
俺はガウディーに勝てないのか-。
ハぁハァ~。
かと言って、
業者に手伝ってもらうという選択肢は、
…俺には無い。
何?。
専門家に任せろ。
職人に頼め?。
…片腹痛い。
人に助けてもらって家を造るなど、
邪道だ。
もし、そんな金があるなら、
ひとりで森で潜水艦なんかやってるわけがない。
…。
金があったら、
建築会社に頼むさ。
…。
その金が、
無いんだよ。
だったらどうするか?。
造るんだよ。
自分で。
縄文の時代からの常識だ。
…。
そりゃ俺がビルゲイツだったら、
自分で家を造るわけない。
奴は確か軽井沢にでっかい別荘造ったようだが…。
金の力は偉大だ。
まあ、
世の中大金持ちはいるさ。
庶民の俺は森でひとり潜水艦さ。
さて、
人さまの事をとやかく言っても始まらない。
平民でも夢はある、
ひとり潜水艦やってると、
妄想と野望は膨らむ。
生きる希望があるってのは面白い。
となると、
なんとしてもコンクリート問題を解かねばならならい。
で、
ど-するか?。
いろいろ調べてゆくと、
ジャリや生コンをトラック単位で売る業者があるらしい。
当然だ。
ジャリやセメントをホームセンターで買ってチマチマやっていたのでは、
町のビルは建たないし、
山の土石止めダムは造れない。
…。
ならその業者に売ってもらえばよいのだ。
…。
問題は運搬方法と、
そのジャリや生コンをどうひとりで必要な場所に投入するのか?。
という、
リーマン予想に匹敵する問題が発生する。
…。
で、考えた。
そう、
あいつだ。
巨大な相棒。
巨神兵。
心の友、
俺の右腕、
…。
奴を使う。
このフォレスト、アローン、サブマリンコンクリート問題の解答を見いだすために、
奴だ。
あいつの豪腕を使う。
で、
どう使う?。
…。
森に佇む巨神兵を眺めながら、
生コンを入れるバケットのスケッチを描く。
どんなバケットなら生コンを運ぶ事ができるのか?。
…。
そしていろいろスケッチした。
これだ。

…。
これは最大1.5立方m程の生コンが入るバケット図。
イメージは蓋の無いでかいヤカンだ。
注ぎ口がついている。
傾ければ注ぎ口から生コンやジャリがジャリジャリドロドロ流れだすという案配。
うまく流れ出れば、
必要な場所に流し込める…と考えた。
1.5立方mの生コンの重量は、約3トン。
その重量を扱える奴は、
バケモノ巨神兵しかいない。
そこで、
この図を元に製作に入った。
バケットに使う素材は森に眠る鋼材の中からチョイス。
3トンの重さに耐え、
巨神兵の荒い動きにも壊れない為に、
バケットの骨格部分の部材は、
20㎝の角型鋼管。
一般に鉄骨建築の柱に使われるもの。
強度満点。
この角形鋼管を対角線部分をアセチレン溶断機で縦に切断。
その出来た部材でバケットのフレームを造る。
そして、
出来たフレームの間を、
林の鋼材置き場に転がっている鉄板を溶接して塞ぐ。
そして、
これが、
森の鉄職人の俺が造ったバケット。
これだ。
…。

これで問題解決…
…とはいかない。
そんな簡単ではない。
次なる問題は、
このバケットと巨神兵の腕を接続するシステム。
それも、
取り外し可能な構造。
なぜか?。
自前のトラックにこのバケットだけ乗せ、
生コン製造会社に行って生コンを入れてもらい、
森に運んだ後、
巨神兵の腕に取り付け、
必要な場所に生コンを投入するという流れがある。
となると、
バケットを巨神兵から外したり取り付けたり出来なければならない。
となると、
外す事が可能で、
巨神兵がガタガタ3トンもの重量を、
振り回す事に耐える堅牢な接続システムが必要となる。
その為に、
次に巨神兵の腕にバケットを取り付ける為のアタッチメントを考えた。
そのアイデア図がこれだ。

このアタッチメントは強度と精度が必要となる。
巨神兵の腕の穴とバケットの穴に太い鉄棒を差し込み、
合体させる為だ。
そのアタッチメント造りの為に、
地元にある鋼材屋に部材を注文。
…。
やがてそれらの部材が揃い溶接作業に入った。
ジジジジジ…。
…。
森の風に乗り、
溶接煙がたなびいてゆく。
…。
やがて、
溶接帽を投げ捨て、
イスに座り空を見る。
フ---。
疲れた。
…。
そして出来上がったのがこれ。
…。
なかなか骨が折れた。
…。

巨神兵の腕に取り付けてみた。
…。


溶接もアセチレン切断もずぶの素人だったが、
いろいろ製作しているうちに腕を上げた。
この製作で一カ月ほどが、
風の様に過ぎ去って行った。
…。
そして、
ついにバケットを4トントラックに乗せ、
一級河川沿いのジャリや生コン製造会社に、
初めてのジャリと生コンを買いに出かけたのであった。
そして、
森に掘った穴の底に、
ジャリを敷き、
捨てコンクリートを打った。
…。

…。
つづく。

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