本鮪 Vs 真鯛=シン・ゴジラ
日本には「本」を冠される食品がいくつかあります。それらの食品はどれもとてもおいしいという共通点があります。
本マグロ
日本人が大好きなマグロはキハダマグロ、ビンナガマグロ、メバチマグロ、コシナガマグロ、タイセイヨウマグロ、タイセイヨウクロマグロ、ミナミマグロ、クロマグロの8種類に分けられます。そのうち、比較的安価なのはキハダマグロ、ビンナガマグロ、メバチマグロの3種で、高価なのはタイセイヨウクロマグロ、ミナミマグロ、クロマグロの3種です。中でもクロマグロは全長3m・体重400kg以上にも成長します。初競りでは億を超える値がつくものもあるほどの超高級魚で、味も見た目も本格的な「本マグロ」です。
とはいえ、それ以外のマグロがまずいというわけではありません。ツナ缶はビンナガやキハダが原料ですがおいしいですよね。それぞれに適した食べ方をすればいいということです。それになによりビンナガやキハダは本マグロより安価なので気軽に食べられます。
本わさび
わさびは日本原産のスパイスです。奈良県明日香村から出土した飛鳥時代の木簡に「委佐俾」と記されているほど昔から食べられていました。その鮮烈な辛さは味だけではなく、毒消しとしても効果があり、人々を魅了し続けてきました。しかしもっと手軽に、もっと安価にわさびを楽しみたいという声に応えて登場したのがチューブ入りの練りわさびです。ある商品の箱に記載してある原材料をみてみましょう。
加工食品の原材料は使用量の多い順に記載するというルールがあります。したがって、上の製品は本わさびが一番多く使われています。その次に多い西洋わさびとはヨーロッパ原産のホースラディッシュのことです。風味はあまりありませんが辛さはしっかりあります。この西洋わさびと区別するために日本原産のわさびを「本わさび」と呼びます。この場合の「本」は本物の本です。しかし、ホースラディッシュを西洋わさびと名付けたのは日本人です。勝手に「わさび」にしておいて本物ではないなんて、ずいぶんな話だと思いませんか。
尚、本わさびを使用しているチューブ入りわさびには、「本わさび入り」と「本わさび使用」の2種類があります。本わさびを50%以上使用していれば「本わさび入り」、本わさびの使用が50%以下の場合は「本わさび使用」と表記されています。
本しめじ
日本にはたくさんの食用茸が自生しています。また、茸栽培も盛んです。高級品の松茸、食べておいしい椎茸、他にも榎茸、舞茸など、たくさんの茸が市販されています。しかし「本」が付く茸はそう多くはありません。格から言えば「本松茸」と言ってもよさそうなのにそうは呼びません。それは他に〇〇松茸という名の茸がないからです。
その点シメジは違います。ハタケシメジ、シャカシメジ、スミゾメシメジなど同じシメジ属の茸の他に、シロタモギタケ属のブナシメジやキシメジ属のシモフリシメジなど、〇〇シメジがたくさんあります。どれもおいしい茸なのですが、やはり本家のシメジの方がおいしいと言われています。そこで、他のシメジと区別するために「本シメジ」と呼ばれています。これは本家本元の「本」です。
昔はまったく関係のないヒラタケを「シメジ」という商品名で売ったり、ブナシメジを「ホンシメジ」の商品名で売ったりしていたので「本家本元のシメジ」と名付けたくもなろうというものです。
本枯節
一般に鰹節と呼ばれているものは荒節と枯節に大別されます。鰹の頭と内臓部分を取り除いて煮た後で骨を取り除き、燻して乾燥させたものが荒節です。完成するまでに約1か月かかり、表面は黒いタール状になります。これを薄く削ったものがいわゆる花かつおです。食べてもおいしいし、もちろん出汁も取れます。しかし、荒節にカビを付けて天日干しし、さらに3か月ほどかけて作る枯節はもっと美味しくなります。そして上には上があります。
枯節のカビ付けと天日干しはそれぞれ2回行われますが、半年ほどかけてカビ付けと天日干しを4回繰り返し、さらに2年ほど熟成させたものを本枯節といいます。カビ付けと天日干しは手作業なので手間がかかりますが、最高品質の本枯節で引いた出汁は本当に素晴らしい味です。この本枯節こそが本当の鰹節です。
真の魚
ここまでは「本」がつく食品を見てきたのですが、食品には「真」もあります。例えば「真鯛」です。この「真」の意味は「本」とほぼ同じです。ではなぜ「本」と「真」に分かれたのでしょうか。
それは時代です。「真」が付く食品の元祖は「真魚」です。この名称は奈良時代の文献に登場します。当時の真魚は、副食(おかず)すべてを指す単語でした。その真魚を切るための板が「真魚板」です。平安時代には魚と肉は真魚。野菜は真菜に別れます。
本の変遷
「本」という漢字は、漢語では「草木の根、根に近い部分」を指していました。日本に伝わってからは「物事の根本・基本」という意味に転じます。そこから「本当」が生まれ、本当の鰹節=本枯節という使い方ができました。
このような変遷があった分、食品に「本」がつくのはかなり時代が下がってからになります。それを示すように「本」がつく食品は比較的新しい時代に登場した食品です。
本食品は俗称
マグロが8種類もあり、それぞれ食べ分けられるようになったのは近年のことなので、「本・マグロ」という名称も近年につけられたものです。「本・シメジ」は、従来は単に「シメジ」でした。それでも他の〇〇シメジとは区別されていました。しかし、他の〇〇シメジが製品として販売されるようになったので、紛らわしくないように「本・シメジ」と呼ばれるようになったのです。山葵も西洋ワサビが登場したので「本・ワサビ」になりました。これらは商業的に必要だったり、民間で誰言うともなく名付けられた俗称です。
真食品は正式名称
一方、「真」は奈良時代から食品につけられる漢字でした。鯛類の中で色が美しく、おいしい鯛が「真鯛」です。他に、真鯵、真鰯などたくさんの魚と、真鴨など鳥類にも「真」の仲間がいます。
この「真」は、たんなる呼び名ではありません。「真鯛」は タイ科 ー マダイ亜科 ー マダイ属の魚であるように、学術的にも認められた名称なのです。
シン・ゴジラ
その伝統は現代にも生きています。2016年に公開された、庵野秀明監督のゴジラ映画のタイトルは、ハリウッド版GODZILLAではないと言うプライドを込めて「本ゴジラ」にするか「真ゴジラ」にするかでずいぶんモメた末に、間を取って「シン・ゴジラ」で落ち着いたそうです。知らんけど。
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