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日本の家族の歴史とトレンドーー【連載第4回】未婚、離婚、高齢化――現代日本の家族事情

社会環境の変化とともに、家族は、刻々とその姿を変化させていきます。未婚、離婚が増え、高齢化が進む現代日本の家族の現状を、さまざまなデータをもとに読み解いていきましょう。

慶応義塾大学 文学部 准教授 阪井 裕一郎

1981年、愛知県生まれ。慶應義塾大学文学部准教授。博士(社会学)。福岡県立大学人間社会学部専任講師、大妻女子大学人間関係学部准教授を経て、2024年4月より現職。著書に『結婚の社会学』(ちくま新書)、『仲人の近代 見合い結婚の歴史社会学』(青弓社)、『事実婚と夫婦別姓の社会学』(白澤社)などがある。

■「結婚」「子を持つこと」が当たり前ではない時代

 日本では、結婚しない人、子を持たない人が急速に増えつつあります。

 経済協力開発機構(OECD)のデータベースによると、1970年に生まれた女性の50歳時点の無子率は、日本は27%で、先進国で最も高い数値です。国立社会保障・人口問題研究所は、2000年生まれの女性のうち31.6%は生涯子を持たないと推計。数十年前には結婚して子どもを持ち、年を取れば孫ができるのが当たり前でしたが、いまやそうではないのです。

 この背景には、未婚化の進行があります。1970年の国勢調査では、50歳時において一度も結婚経験のない人の割合を示す50歳時未婚率は、男性1.7%、女性3.3%とごくわずかでした。婚姻件数は年間100万組以上。誰もが結婚を強制される「皆婚社会」だったといえます。

 ところが2020年の50歳時未婚率は、男性が28.3%、女性が17.8%と大幅に上昇。これまでの推計値を上回るスピードで増加しているというのが現状です。

 「未婚」という言葉には「将来結婚するのが当然」というニュアンスが含まれてしまうため、もともと結婚する意志がない場合は「非婚」という表現が適切だという指摘もあります。最近は、「自分はどうせ結婚できないだろう」と最初から結婚を選択肢に入れない「諦婚(ていこん)」という言葉も登場しているようです。いわゆる「未婚」の中身も、このように多様化しているといえるでしょう。

■単身が約4割と最もメジャーな世帯形態に

 世帯形態の変化を見てみると、1980年には19.9%だった三世代等の世帯が、2020年には7.7%まで減少。1980年に19.8%だった単身世帯は、逆に加速度的に増えて、2020年には38.0%を占め、全世帯類型の中で最も高い比率を示しています。高度経済成長期に急速に進んだ核家族化がこれまで注目されてきたわけですが、近年では「シングル化」が急ピッチで進行しているのです。

図表1 結婚と家族をめぐる基礎データ

出典:内閣府男女共同参画局、令和4年

 この理由のひとつとして、離婚の増加が挙げられます。結婚する人が減っていると同時に、結婚したとしても離婚する人が増えているのです。

 それにあわせて再婚する人も増えています。結婚件数のうちの再婚件数は、男女両方が再婚、どちらかが再婚の場合を合わせて、およそ4分の1という割合です。このように再婚はけっして珍しいことではないのですが、社会の理解が追いついていなかったり、偏見が存在するために、日常に困難を感じている当事者が多いという調査結果もあります。

図表2 婚姻・離婚・再婚件数の年次推移

出典:内閣府『令和四年版 男女共同参画白書』

■離婚しても生きていける条件が整ってきた

 明治時代初期までの日本では、離婚は特別なことではなく、一生のうちに3~4回結婚するケースも珍しくありませんでした。明治時代に入り、新しい道徳観念が生まれて定着していき、離婚は減少します。高度経済成長期も比較的低い数値を維持していました。離婚率が急激に上昇したのは、1970年代半ばから1990年代にかけてのことです。

 現在、年間の離婚件数は、婚姻届出件数のおよそ3分の1です。すなわち、1年間に100組が結婚したとすると、その間に35組くらいが離婚しているということです。

 離婚の増加というと、頭ごなしに「問題」とされがちですが、あながち悪いことばかりではありません。これまで離婚が比較的低い比率を維持していたのは、「したくてもできない」ケースが多かったからです。特に女性の側がそうでした。仮に夫の不貞や家庭内暴力があったとしても、ほとんどの女性が離婚して一人で生きていくための安定した収入を得ていくことは困難でした。結婚生活がいくら不幸でも、離婚するよりはまだましだ、という状況に置かれていた女性が多かったわけです。

 離婚増加の要因には、女性の経済的自立が可能になったことや、家庭内の暴力が社会的に認知されるようになったなど、肯定的な側面もあるのです。離婚した女性に対するネガティブなイメージが薄らいできたことも大きいでしょう。とはいえ、家族と離れ、社会的に孤立する人が増加していることもまた事実です。離婚を頭ごなしに否定するのではなく、旧来の思い込みにとらわれない新たなつながり方や支援を模索しながら、その困難や孤立を解消していくことを考えるべきなのです。

■急速に高齢化が進む日本

 高齢化が家族にもたらしている影響も見逃すことはできません。高齢化は総人口における65歳以上人口の割合によって示されますが、日本の2024年の高齢化率は、29.7%となっています。そして2025年には、後期高齢者とされる75歳以上の人口が全人口の18%になると予測されています。

 もちろん、高齢化率には地域差があり、都市部では低い傾向があります。以前、私は学生たちに「渋谷の街を歩いている人の3人に1人が高齢者になったら日本もいよいよだね」などと冗談交じりに話すことがありました。しかし、最近の渋谷の変貌ぶりを見ていると、あながちそれが冗談にならなくなっている気もします。渋谷の街ですら若者だけをターゲットにしていてはやっていけない時代に突入していると感じます。少なくとも私が学生だった20年ほど前と比べると、明らかに様相が変わっています。

 日本は、高齢化率の高さだけではなく、高齢化の「速度」がきわめて速いことも特徴です。高齢化率が7%から14%に達するまでの所要年数は、フランスでは115年、スウェーデン85年、アメリカ72年、イギリス46年だったのに対して、日本はわずか24年でした。アジア諸国の中にはもっと速い国があり、韓国は2000年から2018年までの18年で7%から14%に。シンガポールと中国は23年でした。急速な人口バランスの変化も高齢化問題の重要な側面です。

■女性の初婚年齢は29.4歳、第1子出産は30.7歳

 次に、欧米諸国と日本の事情を比較してみましょう。

 日本では晩婚化、晩産化ということが言われています。しかし、OECDのデータを見ると、2018年の女性の平均初婚年齢は29.4歳、第1子出生時の母親の平均年齢は30.7歳で、これは同時期の諸外国と比べてそれほど高い数値ではありません。

 諸外国と比較して明らかに違うことのひとつは、婚外子の割合が極端に低いことです。非常に興味深いのは、諸外国では、「第1子出生時の平均年齢」よりも「平均初婚年齢」のほうが軒並み高くなっていることです。欧米には婚外同棲カップルが多く、そういう人たちの出産・子育てを保障する仕組みが整っているため、このような現象が起きています。親がどのような状態にあろうと、子どもは平等に扱うという理念があります。日本では結婚した後に子どもを産むのが一般的ですが、それは世界的な常識ではないのです。

 また日本は夫の家事時間が少なく、ジェンダー役割が強固である傾向があります。児童手当、保育サービスなどの家族関係政府支出のGDP対比は、市場主義の強いアメリカよりは高いですが、ヨーロッパ諸国よりはかなり低くなっています。背景には、子育てや介護の責任は第一に家族(特に女性)にあるという規範や文化が強いことがあげられます。

■生き方の変化・多様化に対応する制度設計が必要

 内閣府の『令和四年版 男女共同参画白書』は、現代日本の家族事情を、「もはや昭和ではない」と総括しています。

 「昭和の時代、多く見られたサラリーマンの夫と専業主婦の妻と子供、または高齢の両親と同居している夫婦と子供という三世代同居は減少し、単独世帯が男女全年齢層で増加している。人生100年時代、結婚せずに独身でいる人、結婚後、離婚する人、離婚後、再婚する人、結婚(法律婚)という形をとらずに家族を持つ人、親と暮らす人、配偶者や親を看取った後ひとり暮らしをする人等、さまざまであり、一人ひとりの人生も長い歳月の中でさまざまな姿をたどっている。このように家族の姿は変化し、人生は多様化しており、こうした変化・多様化に対応した制度設計や政策が求められている」(『令和四年版 男女共同参画白書』より)。
 多くの人々が従来のモデルとは異なる生き方を選ぶ時代。これらの状況を踏まえて、社会のあり方、家族のあり方を見直す必要があります。

(【第5回】世界で進む「同性婚」の法制化。日本の現状は? に続く)



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