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キーワードは平等な社会の実現! イギリスに学ぶ同性婚の実現と多様化する家族の最新事情

【Famieeディスカッション 第3回 ゲスト:駐日英国首席公使 ヘレン・スミス氏】


多様な家族のあり方を世の中に投げかけていく「Famieeディスカッション 家族のカタチ対談シリーズ」の第3回は、駐日英国首席公使のヘレン・スミスさんと、Famiee代表理事の内山幸樹が対談。その内容を抜粋してご紹介します。

(noteではディスカッションの一部を記事にしています。ディスカッションの全内容は、FamieeのYouTubeチャンネルでご覧いただけます。)
https://youtu.be/zp6bBaNAqbs 

LGBT+への偏見を打ち消し、意識を高める「LGBT History Month」

内山 幸樹(以下、内山):今日はイギリスにおける、LGBT+、および多様な家族を巡る状況について教えていただければと思っています。まずは、イギリスの「LGBT History Month」(LGBTヒストリー月間)についてご説明いただけますか?

ヘレン・スミス(以下、スミス) :イギリスでは毎年2月を「LGBT History Month」としています。2月に開催する理由は、2003年に廃止された「Section 28」と呼ばれる法律が関係しています。これは教師などが学校で同性愛的な関係を促進することを禁止する法律で、LGBT+コミュニティに大きな悪影響を及ぼしました。ですからこの法律の廃止は、イギリスのLGBT+の歴史において非常に重要な瞬間とされています。そしてその翌年の2004年には、「Schools out」という教育系のチャリティが「LGBT History Month」を創設しました。

「LGBT History Month」は2005年に初開催され、今では18年に及ぶ歴史があります。目的は、LGBT+の人々への偏見を打ち消し、意識を高めることにあります。私たちはこのイベントを機に毎年、世界中で多様性と平等の重要性についてのメッセージを発信しています。LGBT+の人々に対する平等の実現に向けたイギリスの歩みを説明したりするのですが、その一方ではまだ課題が残されていることも認識しています。

イギリスの同性婚は長年の努力の積み重ねにより実現した

内山:現在、日本では同性婚は合法化されていません。一方、イギリスでは、すでに合法化の壁を乗り越えています。まずは、イギリスで同性婚が認められるようになった経緯について説明していただけますか?

スミス:そこには長い歴史があります。まず、イギリスでは1967年に同性愛が合法化されましたが、その後もLGBT+の人々は多くの差別を受け続けました。彼らの関係には法的な地位がなく、相続権などもありませんでした。さらに、先ほどお話しした「Section 28」が存在し、LGBT+コミュニティに悪影響を与えていました。

こうした中、1990年代後半以降、政治的リーダーシップ、法的な決定、そしてアクティブな市民の存在により、本格的な変化の波が沸き起こりました。中でも1997年は、労働党が政権についたことに伴い、同性カップルが法的地位を持つようになった重要な年であり、これを機にさらなる道が拓かれていきました。その後2000年には、同性カップルの性的同意年齢が異性カップルに統一されると共に、イギリス軍へのLGBT+の人々の入隊禁止が解除されました。そして、2002年には法律が改定されて同性カップルが養子をもてるようになり、2003年には先ほどお話しした「Section 28」が廃止されました。

次のステップは、2004年に同性カップルのための「Civil Partnership(市民パートナーシップ)」が導入されたことです。これにより、イギリスの同性カップルには結婚に相当する法的地位が与えられました。これは当時、政権を担っていた労働党が平等の推進を志向していたからだけでなく、社会や企業からの圧力に応えたからでもありました。

また、企業のロビー団体から、既婚者に福利厚生サービスを提供する際、結婚できない同姓カップルを横に置いて、異性カップルのみ優遇するのは差別だと法的責任を問われる可能性があると指摘されるなど、政府には多方面から法律の改訂を求める圧力が寄せられていました。こうした中、同性カップルに対する平等を求める声がさらに高まり、2013年には同性婚を巡る法律が成立、2014年に施行されることになったのです。

この法律は、労働党が政権を担っていた時期ではなく、保守党と自由民主党の連立政権の時期に成立しました。保守党は、多様性と平等の観点から労働党に遅れをとっていると自覚しており、保守党党首であったデイビッド・キャメロンは、2006年に同性カップルは異性カップル同様に重要であると明言しました。これは、2000年には46%に過ぎなかった同性婚の支持者が、2007年には68%に達するといった人々の意識の変化に対応したものでした。当時、保守党内には伝統的な家族の価値と平等・多様性のバランスをめぐる論争があったにもかかわらず、キャメロンは2010年の総選挙を通じて、そして連立政権になってからも、平等を支持することを明示したのです。

2011年、政権に就いたキャメロンは、同性婚の導入を約束しました。そして政府は、同性婚に関するコンサルテーション・プロセスを開始したのですが、ここで多くの人々が同性婚を支持したことから、政府は2012年に同性婚の導入を発表しました。同性婚の導入は民意によって決定されたわけではなく、公聴会を通じて一般大衆の意見を聞きながら、政府が決断した。つまり、政府のリーダーシップによって法律が成立し、イギリス全土で同性婚が可能になったわけです。

内山:同性婚は一気に合法化したのではなく、努力の積み重ねにより実現したのですね。 

スミス:はい。このプロセスには、市民が積極的に関与し、また、さまざまな政党が積極的にリーダーシップを発揮しました。

内山:新しい波に抵抗しようとする圧力もあったかと思いますが、どのように乗り越えていったのでしょうか?

スミス :さまざまな懸念を払拭する上での教育や情報共有が大きな力を発揮したと思います。また、保守党内でも同性婚を支持しない層が存在した時期に法律が成立したことを考えると、政治的な指導力の問題でもあるでしょう。当時の首相は、人々が同性婚を支持していることを踏まえて、その決断を下すことができたのです。また、LGBT+の人々が特別な扱いを求めているのではなく、他の人々と同様の権利を求めていることを受けて、平等にフォーカスをシフトさせたことがとても重要だったと思います。

同性婚が合法化されたイギリスが直面する問題は?

内山:同性婚が合法化されたイギリスにおいて、LGBT+の方々が今なお直面している問題はありますか?

スミス:法的な枠組みは、平等と差別の終結に向けたプロセスの一部に過ぎないと思います。LGBT+の人々が直面する課題を調査するために、イギリスでは2017~2018年に10万人規模の全国調査が行われました。そしてこの結果、多くの課題が残されていることがわかりました。例えば、調査の回答者は概ね、自分たちの人生や他の人々に不満を抱いており、中でもトランスジェンダーの回答者はこうした傾向が強いことがわかりました。また、回答者の半数強は、イギリスにおいてはLGBT+であることに違和感がないと回答しましたが、半数未満はそのように感じてはいません。さらには7割の回答者は、自分の性的指向をオープンにしていません。

つまり、イギリスには法的枠組みが整っており、平等や差別にフォーカスが当てられているにもかかわらず、人々は英国社会で完全にありのままの自分でいることに不安を抱いていました。さらに、自分のセクシャリティーや性的指向のために職場で嫌な思いをした回答者は約20%に達し、言葉による嫌がらせや有害な発言を受けた回答者も約10%に達しました。これらの課題に対処するためには、長い道のりが残されています。

内山:合法化は、平等を実現するための初めの一歩に過ぎないのですね。現在、これらの問題に対処するためにどのような施策を実施されていますか?

スミス:イギリス政府はこの調査結果を踏まえ、LGBT+の人々の生活を改善するために、2018年にLGBTアクションプランを採択しました。このプランはイギリスのLGBT+の人々の生活を豊かにすることを目的としており、そこには調査結果に基づき課題に対処するための効果的な政策を打ち出していくという真摯なコミットメントがあります。

このプランには、LGBTヘルスアドバイザーの任命、学校における反同性愛、反バイセクシャル、反トランスジェンダーなどのいじめに関する教育プログラムの拡充、LGBTヘイトクライムに対するさらなる対策など、75以上の施策が含まれています。政府は、これらを支援するために約450万ポンドもの資金を拠出しました。法的枠組みを用意するだけではなく、差別撤廃政策と平等への取り組みが現実の世界で確実に実行されるよう、政府が継続的に取り組んでいくことが必要なのです。

内山:平等な社会の実現に向けて取り組んでいる市民団体も多いと思いますが、政府はこれらの団体とどのように連携しているのでしょうか?

スミス:たとえばStonewallという団体では、ビジネスや雇用主がLGBT+に友好的な職場を提供していることをレビューし、これに基づく評価を行っています。政府の各部門は、このStonewallのシステムと評価を、自分たちの職場における平等と多様性に関するパフォーマンスを判断するために使ってきました。政府がリーダーシップを発揮するためには、自ら実践することが大切ですからね。Stonewallは一例に過ぎず、政府は他の市民団体とも連携しています。

多様化する家族が社会に問いかけていること

内山:イギリス政府は、同性婚以外にもさまざまな家族形態を認めていると聞いています。具体的には、どのような家族形態があるのでしょうか?

スミス:そうですね。イギリスでは家族は、法的には、子供の有無にかかわらず共同生活を営む夫婦及びパートナー、または1人親の家族と定義されています。そこには1人親の家族、同性のパートナー、子供を育てている同性のパートナー、養親、里親、再婚家族、多世代同居家族など、さまざまなタイプの家族が含まれます。つまり、かつてイギリスで標準的な核家族と考えられていたものから離れ、それを反映したさまざまな家族の形が存在するのです。現在、学校では、年長児に人間関係や恋愛・性教育について教える際、さまざまな家族のあり方や人間関係に配慮するように求められています。

内山:同性婚とその他の家族形態のうち、どちらが先に認められ、どちらが先に認知されたのでしょうか?

スミス:時間経過の中で、徐々に変化してきたのだと思います。例えば、養子縁組や里親は昔からあったのですが、同性カップルの権利が増大するにつれて、養子縁組ができるようになりました。平等を求める動きが最も活発なのはLGBT+のカップルですが、もっと広い意味で、パパかママと2人の子どもから構成される伝統的な家族(形態)という考え方は、現代のイギリスの多様な社会を反映していないということが社会的に認知されてきたのだと思います。ここには、複数の国籍を持つ家族なども含まれます。私自身がこれに該当するのですが、私の家では、アメリカ人の夫や中国人の義姉などが夕食のテーブルを囲みます。英国では、こうした多国籍な家族が一般的になるなど、家族の定義も大きく変化してきました。

内山:興味深いですね。次に、現在の課題と将来の取り組みについて教えていただけますか?

スミス:平等へのコミットメントと特定の信条や宗教の自由などとのバランスをどのように確保するかは重要な課題だと思います。これは学校でLGBT+や多様な関係性について教えるに当たっての問題でもあります。学校は地域の状況に配慮し、文化的に適切な方法を採る必要がありますが、実際には組織的な決定に差別的な要素が含まれていたり、問題が発生したりすることもあるでしょう。そこで10年ほど前に「The Equality and Human Rights Commission(平等人権委員会)」が設立されました。これは政府に準じる組織で、戦略的な執行力を持っています。

イギリスの社会は、LGBT+の人々をサポートする方向に向かっています。最近行われた調査によると、子供や兄弟、近親者がゲイ、レズビアン、バイセクシャルであることが明らかになった場合、84%の人々がサポートすると答え、サポートしないと答えた人は5%でした。トランスジェンダーやノンバイナリーであることが明らかになった場合は71%の人々がサポートすると答えました。こうした中、今後もすべての人の権利を尊重し、サポートし、受け入れるために前進していく必要があります。

日本では多様な家族を巡る人々の意識が大きく変化している


内山:スミスさんは日本の同性婚と多様な家族形態について、どのように感じられていらっしゃいますか? 

スミス:同性婚や多様な家族のあり方について、日本が他のG7諸国の中で遅れていることは否めません。しかし、これらについて今、まさに議論が行われていることを頼もしく思っています。最近の世論調査では、回答者の80%がLGBTの意味を理解し、65%が同性婚に賛成しています。私はつい先日、50代以上でも50%以上の人が同性婚を支持しているのを知り、とても驚きました。日本では人々の意識に大きな変化が起きているのです。また、東京を含む日本全国で、何らかの形で同性パートナーシップを認める自治体も増えています。このように日本では変化に対する強い意欲が感じられますが、問題はその変化をどのように前進させていくかです。

内山:ご指摘の通り、日本では多くの人々が同性婚を認めるべきだという意見を持っています。しかし、法律はまだ変わっていません。イギリスの経験を踏まえて、日本が同性婚や多様な家族の形を認めるためには、どのようなステップが必要だと思われますか?

スミス:これは一概には言えないと思います。先ほど、イギリスでは「Civil Partnership」を導入した後に、同性婚を導入したという話をしました。しかし、日本が同じようなステップを踏む必要はありません。実際、多くの国が、前段階を経ることなく、同性婚を導入しています。一方、イギリスの場合、政治的リーダーシップが重要であったことは間違いなく、政治家たちが人々の声に耳を傾け、社会の変化に応えていったことが大きな役割を果たしたと思います。このように人々の声に耳を傾ける姿勢は、日本でも取り入れられるでしょう。イギリス大使館では、日本の政府やさまざまな企業、団体と協力してイギリスのケースを紹介することにより、誰もが差別されることなく、自分の可能性を発揮できる社会を築くきっかけを示すことができるよう、努めていきたいと考えています。

日本はアジアにおける平等と多様化を推進するリーダーシップを担えるのか?

内山:Famieeは非営利の法人です。現在、イーサリアムのブロックチェーン上で、LGBT+のカップルにパートナーシップ証明書を発行しています。そして、私たちの証明書や自治体の証明書を持ったLGBT+カップルを対象に、法的には夫婦として認められていなくても、多くの企業がサービスを提供してくれるように働きかけています。

今では、みずほフィナンシャルグループ、パナソニック、セガなど、多くの大企業が賛同してくれるようになりました。ですから、法律を変えなくても、社会は変えられると思っています。

またご存じのように、現在ではさまざまな形態の家族が、法的に結婚したカップルと同じようなメリットを得られずに苦労しています。そこで私たちは、LGBT+のカップルに限らず、多様な形態の家族にサービスを広げていく計画です。多くの企業がFamieeの証明書を使用してさまざまな家族形態を受け入れ、家族向けサービスを提供するようになれば、政府に対して、「こんなに多くの企業や多くの人がLGBT+のカップルや多様な家族の形を受け入れている。なぜ法律を変えないんだ?」と言えますよね。これが、私たちの活動のコンセプトです。

何かご意見、アドバイスはありますか?

ヘレン・スミス:素晴らしい取り組みだと思います。なぜならば、法律を変えずに人々の生活を変えるということは、プロセスを短縮し、人々が必要とする手当やサービス、施設に平等にアクセスできるようにすることを意味するからです。また、日本に限らずどの国においても、市民と企業が共に同じ変化を求めていることがわかれば、その後の政府の意思決定に影響を与えることになると思います。そうすれば、将来の法改正に向けた動きにも影響が生じるはずです。

政府にとって重要なのは、同性婚を認めることだけではなく、差別をなくすことだと思います。LGBT+の人々が他の人々と同じように保護され、同じ権利を持つようにするためには、LGBT+に対する差別をなくすための法律の施行が重要なポイントになると思います。しかし、政府がその種の仕組を導入する準備が整うまでの間、仰るように民間でサービスを担うこともできます。

内山:日本は世界的に非常に珍しい立場にあると思っています。というのは、米国や英国ではすでに同性婚が合法化されていますが、中国や韓国などのアジアの他の国々については、台湾以外はそのトレンドからかなり遅れていて、LGBT+カップルはカミングアウトができない状況です。日本でも同性婚はまだ法的に認められていませんが、多くの企業や人々がそのコンセプトを受け入れ始めています。ですから、私たちの取り組みに賛同してくださる方や、共感してくださる方が多くいらっしゃるのです。法律を変えずに社会を変える好事例を作ることができれば、私たちは他のアジアの国々にこの新しいコンセプトや多様な家族形態を受け入れるよう、促していくことができます。

スミス:その通りだと思います。私は20年前、学生時代に日本に住んでいたことがあります。この20年の間に、LGBT+の受け入れという面で日本がどれだけ変化したかは驚愕に値します。そして、日本はアジアの他の国々よりも進んでいると思います。ですから、アジアの他の国々にも、平等や多様性の受容に向けて同じ動きをするよう、リーダーシップを発揮することができるのです。内山さんがおっしゃるにように、Famieeがその一翼を担い、アジア各国の協力団体と連携し、各国にFamieeのサービスを紹介していくことができると思います。

内山:ありがとうございます。最後に、視聴者に向けて、何かメッセージをいただけますか?

スミス:平等と多様性について語るのは簡単なことです。しかし、それを実現するためには、具体的な行動を起こし続けていくこと、そして政治的なリーダーシップが必要です。このことは、英国の経験からも明らかです。また、繰り返しになりますが、世界各国においてLGBT+は特別な権利を求めているわけではなく、他の人々と同じ権利を求めているのです。そして、もし私たち全員が同じ権利を持ち、平等が実現すれば、私たち全員がより良い社会で暮らすことができると確信しています。

内山:本日はありがとうございました。

(noteではディスカッションの一部を記事にしています。ディスカッションの全内容は、FamieeのYouTubeチャンネルでご覧いただけます。)
https://youtu.be/zp6bBaNAqbs 

一般社団法人Famiee

Famiee ディスカッション 家族のカタチ
第1回

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