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Famieeのサービスは新しい価値観が作れる。自分たちらしい関係が保証され、「幸せの基準」が多様化した社会を作っていきたい【下山田志帆さん取材】

みなさんこんにちは。

私たち一般社団法人Famieeは、現在の法律では夫婦や親子と認められない世界中の人たちが、家族としての当然の権利やサービスを受けられる社会を目指し、ブロックチェーン技術を使った「家族関係証明書」の開発と発行をしています。
ミッションである「多様な家族形態が当たり前に認められる社会の実現」のため、家族関係証明書の導入企業や団体を増やし、家族としての当然の権利やサービスを必要とする方々をサポートしたいと考えています。

このnoteは、Famieeの理念や活動に賛同してくださった方々に、サービスに関することや「多様な家族形態が当たり前に認められる社会」への思いなどを伺う取材シリーズです。

第一回目のゲストは、現役サッカー選手/株式会社Rebolt代表の下山田志帆さん。
LGBTQ当事者としてダイバーシティに関する発信や活動を行っている下山田さんに、Famieeに賛同した理由や期待していることなどを語っていただきました。

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下山田志帆。サッカー強豪校とされる高校を卒業後、慶應義塾大学の女子ソッカー部に所属。大学卒業後はプロ選手としてドイツに渡り、ドイツ女子2部リーグのSVメッペンでプレー。現在はなでしこリーグ2部スフィーダ世田谷FCで選手として活躍するかたわら、社会問題解決をはかる株式会社Reboltの代表を務めている。

※インタビューにはFamiee代表の内山幸樹も同席。

「性的マイノリティが当たり前の存在とされている」ドイツでの生活が、公表のきっかけに

ー下山田さんがご自身のセクシュアリティをカミングアウトをされたのはいつごろですか?

下山田志帆(以降、下山田):
ドイツから帰国する前後の時期でした。帰国自体は去年の5月でしたが、カミングアウトをしたのは去年の2月です。ただ、自分としては「カミングアウトをした」というより「カミングアウトを公表した」という表現の方が正しいと思っています。

セクシュアリティに関する話は、大学1年生のころから慶應義塾大学ソッカー部女子のメンバーや友達などにしていたので、カミングアウト自体はすでにしていたんです。でも、それを世間に広く公表はしていなかった。そこで、ソッカー部の先輩でライターをやっている方にインタビューをお願いしてnoteを書いていただきました。


ーだから「カミングアウトの公表」ということですね。公表しようと思ったきっかけはなんだったのでしょうか?

下山田:
ドイツでの経験がとても大きかったです。ドイツでは同性婚が認められていて、セクシャルマイノリティを国が特別な存在として扱っていないんですね。チームメンバーと恋愛の話になったときも「しもは男性と女性、どっちが好きなの?」って初めから聞いてもらえたりとか、メンバーが同性パートナーを普通に試合に連れてきているのを見たりして、「ドイツではセクシャルマイノリティが当たり前の存在として認識されている」と思いました。自分もセクシャルマイノリティの一員として特別感なく溶け込んで暮らすことができて、「ものすごく生きやすい」と感じたんです。

一方で、日本に一時帰国したときには大きなギャップを感じざるを得ず……。
カミングアウトをしていない友達との飲み会で「しもはいつになったら彼氏作るの?」みたいなことを言われたり、親にもまだ言えなかったりして、次第に「周りの人にウソをついている」という感覚にすらなりました。すごく息苦しくなったんですね。

そこで「もう誰にもウソをつかなくていいようにカミングアウトを公表した方が、自分がラクになる」と思い、公表することにしました。

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Famieeプロジェクトには新しい価値観が生まれる可能性を感じた

ーFamieeプロジェクトの話を聞いたとき、率直にどのような印象を受けましたか?

下山田:
最初に自分の中に出てきた感想は「これ、新しい価値観作れちゃうな」というものでした。私の中ではそこが一番大きかったですね。

ーおお。なぜそう感じたのでしょうか。

下山田:
今一緒に暮らしているパートナーとのことが、かなり関係しています。

私自身に関しては、生まれたときからLGBTQの当事者であるという自覚があったんですね。なんとなく小さなころから「自分は結婚できないし子供もできないだろうな」って思いながら生きてきたので、妊娠や結婚などのライフイベントが「自分にはこないだろう」と思っていたんです。

一方、パートナーは私と付き合うまでは女性との交際経験はなく、ヘテロセクシャルとして生きてきました。そのため「自分はセクシャルマイノリティのひとりになった」という感覚が、彼女の中ではすごくあります。

私自身はセクシャルマイノリティであることを自覚して生きてきたので、渋谷区や世田谷区で同性パートナーシップ証明書ができたとき「ようやくセクシャルマイノリティが認められたんだ」という喜びを感じたんです。
そこで彼女に「この制度よくない? 将来どうする?」と相談したんですが、セクシャリティのバックグラウンドが私とは違うパートナーは、少々異なる反応でした。

「もし自分がこの制度を受けたら、社会におけるマイノリティであることをより強く自覚させられたり、公に認めさせられたりする感覚がある。そこに関して違和感を覚える」と言っていたんですね。

で、私は彼女の言葉を聞いたときに「そうだな……」と思ったんです。
制度ができたことによって、今までは社会から見ないようにされていたり「マイノリティはマイノリティでしょ」と扱われていたりしたことが可視化されたのは、もちろん嬉しかったです。プラスな方向に進んでいると思いました。
ただパートナーと話をしているうちに、彼女が言っていることにも頷けると思ったんですね。

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ーなるほど。…少し気になるのは、Famieeが発行するパートナーシップ証明書に対しても同じように「自分たちは社会におけるマイノリティであると認めさせられてしまう」気持ちになってしまうのではないかなと……。そのあたりは大丈夫なのでしょうか?

下山田:
その点についても私とパートナーで話し合ったんですが、Famieeって、名前が「Family」からきていますよね。活動の理念やプロジェクトの内容は、同性パートナーはもちろん、事実婚をしたいカップルや別姓を望むカップル、親子の関係など「多様な家族形態」に焦点が当たっている。つまり、私たちみたいなセクシャルマイノリティだけのためじゃないところに共感を覚えました。

「セクシャルマイノリティの人たちってかわいそう。だから権利を認めてあげよう」というスタンスではなく「人と人との関係ってもっと色んな形があっていい。もっと気軽に、多様な関係性や家族の形があるって言ってもいいよね」というメッセージを感じたんですよね。

「セクシャルマイノリティかわいそうだから認めてあげよう」ではなく、「家族の形に関して多様な選択肢が欲しいすべての人たちが、人生をハッピーに送る手助けをする」、そういう要素の方が強いと思った。
マイノリティの「マイナス状態がゼロ」になるというよりも、「ゼロから新しい価値観が生まれてプラス状態になる」という印象や感覚を覚えたんです。そういうメッセージや印象があるから、Famieeのサービスは良いなって思えるよねという話になりました。

ーそうした背景やパートナーさんとの話し合いもあって「新しい価値観が作れる」と思っていただいたんですね。ありがとうございます。

Famieeのサービスを「すべて」の企業に導入してもらいたい理由

ーもちろんお話いただける範囲内で結構ですが、パートナーさんとの関係を通じて、現状の社会に対して感じることや考えることなどはありますか?

下山田:
社会から見た私たちの関係性について考えさせられることは、多々あります。最近強くそれを感じさせられたのは、二人で今の家に引っ越しをしたときです。

私たちには入院や結婚といったライフイベントはなかったので、引っ越しがはじめての一大ライフイベントでした。
で、何軒か不動産屋を回ったとき「二人暮らしをします」と伝えると、必ず「どういうご関係ですか?」と聞かれたんですね。そこで「女性同士のパートナーです」と言うと、2社の不動産屋から「対応していない」と断られまして。

ー同性パートナーが直面する問題として、家が借りられないのはあるあるですよね……。

下山田:
そう。ものすごくあるあるなんですけど、いざその現実に直面して初めて「私たちの関係が社会に通用しない」と気づかされたというか。

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下山田:
友達や周囲の人たちは、私たちに対して「二人が幸せならいいじゃん」といった肯定的な言葉をずっと言ってくれているんですが、いざ社会的なことが絡む場面に立つと「こういう現実にぶつかるんだな」と強く実感させられました。

「世の中では多様性やLGBTQに対してポジティブなイメージが取り上げられているけれど、事実、認めていない人たちや場所もある。そこに直面した時の辛さ、半端ないね」と、彼女もそのとき言っていて。

ー多様性やLGBTQを社会が受け入れ始めたというプラス面やポジティブなイメージが世の中で取り上げられるのはもちろん大事です。ただ、イメージだけが先行して、現実的な問題や困難がまだまだ存在していることがこぼれ落ちたら、意味がないですよね。ポジティブなイメージと同等の情報量で、当事者が現実社会で直面する問題も知られないと、本当の意味でのLGBTQ差別解消にはつながらないんじゃないかと。

下山田:
そう思います。そういう文脈に関連した話をすると、パートナーにFamieeの活動内容や目的、パートナーシップ証明書に関する詳細を話したとき、彼女がこう言っていて。

「Famieeは、サービスの導入企業を募っている社団法人だよね? だったら世の中『すべて』の企業からFamieeのサービスが認められて欲しい。現状、Famieeのサービスを認めている企業がある一方で、認めていない企業もある。サービスを導入していない企業に所属したとき『導入している企業もあるのに』というギャップで、傷つきたくない」と。

私も、同性パートナーシップ制度を認めていない企業や場所に当事者が直面するとどのようなことが起こるのか? どんな感情が出てくるのか? という点は、もっと世の中に発信されて可視化されて欲しいです。社会の見方も少し変わってくる気がします。

内山:
ご指摘ありがとうございます。頑張ります。おっしゃる通りの課題意識は私も感じているところです。4月27日にFamieeのプレスリリースを出しましたが、本当は100社ぐらい名前が載った状態で出したかったです。それでも出したのは、7月に控えているサービスリリースに向けて、まずは世の中にFamieeの活動を知ってもらい、7月のサービスリリース時により多くの企業や団体様に認められている状態にしたかったからです。
「あなたの会社が受け入れてくれることが、世の中すべての会社の導入につながる大事な一歩になるんです。最終的には行政を動かしていきたいけれども、まずは民間で証明書が使われることを当たり前にして、民間から草の根的に運動を起こしていくことが、社会を変えるために必要なんです」と、企業担当者には話をしています。結局、導入してくれない企業があると「この企業は制度を使えるのか? 使えないのか?」と、いちいち調べる必要が出てきてしまうんですよね。それではこのプロジェクトの意味がありません。一歩一歩にはなるでしょうが「このサービスを導入しないと企業として恥ずかしい」となる状態に持っていけるまで、頑張ります。もう、頑張る。

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下山田:
期待しています!

「幸せの基準」が多様化され、カップルの選択が自己責任で終わらない社会になってほしい

ー今Famieeに「期待している」とおっしゃっていただけました。私たちの活動に対して期待を寄せてくださっている点は、やはり「家族やパートナーシップの形に関して新しい価値観が生まれてくるのではないか」という部分が大きいのでしょうか。

下山田:
ほかにもあります。そこをお話しするにあたって、大前提として明言しておきたいことがあります。私は同性婚が国に認められているメリットはものすごく大きいと思っていますし、今訴訟を起こしてくださっている方々を本当に尊敬しています。行動を起こしてくださってめちゃくちゃありがたいと感じていますし、私も同性婚は日本で認められるべきだと考えているひとりです。

そういう前提のうえでのお話ですが、結婚以外の選択肢も、当然の権利として保証された形で、社会の中に用意されていることも大切だと私は思うんですね。「結婚以外の道を選んだけど、これが自分たちらしくいられる形なんだ」という状態が、結婚と共存していること。これは、結婚そのものや結婚にともなう幸せの否定ではまったくありません。

ーはい。

下山田:
仮に、今までは「幸せの基準」が結婚にしかなかったとして、これからの時代は結婚以外の選択肢も作ることで、幸せの基準が結婚以外の選択肢にも置かれるといいなと思っていて。

「私たちはFamiee婚を選んで幸せ」とか「何にも縛られないでいる方が幸せ」、「私たちは結婚して幸せ」といったように、パートナーシップに関する選択肢が増えると同時に、幸せの基準も多様化されたら良いと感じています。

ーなるほど。

下山田:
一方で、現実問題として「怖い」と思っていることもあります。それは、今の日本では結婚以外の形を選んだカップルに対して、社会的な保証やバックアップが不足していることです。ほぼ自己責任や個人の責任で終わらされてしまっていると思います。

たとえば「私たちは結婚ではなく、二人だけの契約書を作る道を選びました」とか、結婚以外で自分たちに合った関係を結びたいカップルがいるとしますよね。
そうすると今の日本では「それはあなたたちカップルの、個人的な話ですよね。あなたたちはそういう形を選ぶんですね。でも別に国や社会には関係ないので、勝手にやっててください」と、自己責任や個人間の責任に帰結されてしまう。

でも私は、結婚以外の選択肢を選ぶことにしたカップルも、結婚と同じように社会的な保証やバックアップがあるべきだと思っています。

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下山田:
私がFamieeに期待しているのは、結婚以外の選択肢に関する部分で、今の日本社会が見過ごしていることを拾い上げようとしている点です。

ドイツでは、同性婚やLGBTQが当然のように国や社会に認められています。自分らしさや自分たちらしい関係を自由に選べることが、個人の責任を越えた領域で保証されているんですよね。なのでドイツにいたとき、私は「守られている」という安心感をすごく覚えていました。

Famieeのサービスを聞いたとき、私はそういう安心感を覚えたんです。結婚以外の道を選んだとしても、それは「当たり前の選択肢のひとつで、権利である」とサービスを通じて伝えよう、保証やバックアップをしようとしている。そこも私がFamieeに期待を寄せている理由のひとつです。

内山:
ありがとうございます。そこまで理解してくださっていることに感激です。
結婚に関連する話を少しすると、私は、いまの社会における結婚の届け出って、独身だった状態から、この人と婚姻者関係を締結しているという「属性の変更」をしているにすぎないと思うんです。つまり「結婚する間はこういう約束で生きていこうね」といったパートナー間における取り決めは、結婚の届け出の範囲外になっている。私はアメリカでも仕事をしているので、向こうにも住んでいますが、アメリカでは結婚する前に家事分担や子供の出産計画、別れるときの対応などを話し合い、契約書にまとめてから結婚するようなカップルが増えているんですね。でも日本の既存の結婚制度では、そこは結婚の届け出の範囲外になっている。今後、結婚後の約束事のところにも何かしらアプローチができたらいいなとも考えています。

下山田:
なるほど。それもまた、家族の多様なあり方をサポートしたいというFamieeの考えと親和性があるように感じます。

ーでは、最後にメッセージをいただけますか?

下山田:
本当に期待しています。私自身、今まで「結婚できないや」というネガティブな感情にとらわれていた時期もありました。
でも今は「自分たちだからこそできるようなハッピーな価値観を作りたい」と思いながら生きています。そういう価値観を一緒に作っていきたいなとすごく思っています。
みんなで社会を変えていきましょう!

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下山田志帆さん、お忙しいなかありがとうございました。


◾︎Famieeプロジェクト

https://www.famiee.com/

◾︎賛同の募集中
Famieeプロジェクトでは想いを共にする個人・企業を募集しております。ご興味のある方は「コンタクト」よりお問い合わせください。
https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLScVM5Wrpu0A2Ab3NvI7j-xt8UF4HCbYUS_zFKVUHMHkB1_V1w/viewform

◾︎メディア露出

家族の多様性を認める社会へ。Famiee活動第一弾は、同性カップル向け「パートナーシップ証明書」 | LoveTechMedia - ラブテックメディア

https://lovetech-media.com/interview/20200429famiee/

民間が同性カップル証明を発行、企業が利用へ みずほFGなど約20社、福利厚生で | 共同通信

https://this.kiji.is/627467476837123169?c=39546741839462401



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