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芸能界からの「入内」を考える:海外の君主家の事例は?

はじめに

 二連続でお送りしてきた、皇室について「考える」シリーズ。一作目では即位の礼の未来について、二作目では皇族の地方分散について取り上げた。

 三作目となる今回は、いささか、いや相当に俗っぽいテーマで恐縮だが、芸能界からの「入内」の是非について考えてみたい。

 念のために言っておくが、「入内」とは、天皇の配偶者となる女性が正式に内裏に入ることである。

 皇后(中宮)が、一定の儀式を整え、実質的に内裏に入ったこと。
 ——『新明解国語辞典 第六版』(三省堂、2009年)

 2019年(令和元年)11月9日、「天皇陛下御即位をお祝いする国民祭典」が開催された。同祭典では、各界の著名人による祝辞などが行われた。その中には、女優・芦田愛菜さんがいた。

 同式典についてのSNSの反応を軽く調べてみると、芦田愛菜さんを「悠仁さまのお妃に」という趣旨のツイートがいくつも目に飛び込んできた。

 筆者はこれを知って大きく驚いたのだが、インターネット上では、どうも芦田愛菜さんに未来の皇后になってほしいという意見がそれなりにみられるようだ。

 以下に、その例をいくつか示す。

 筆者はこれらの声に触れたことをきっかけに、芸能界からの入内について考察してみようと思い至った。皇室の長い歴史上、芸能界からの入内は先例がない。しかし、だからといって今後もないとは言い切れない。

 天皇は、戦前には「現人神」として尊崇されていたが、戦後には親しみの対象になった。いわゆる「開かれた皇室」「大衆天皇制」の時代の到来だ。いまや少なくない数の国民は、皇室の方々を、芸能人を見るのと同じような目で見てすらいる。それを苦々しく思う保守派は少なくない。

 尤も、戦前の時点ですでに皇室を「スター」として見る者は、女性を中心にかなり存在したのであるが。大正後期には、大勢の女学生が摂政宮(のちの昭和天皇)のブロマイドを「映画男優のそれのごとく買い漁り、教育界で問題に」なっていたという。

 そんな中、本当に芸能人が入内するようなことがあれば、一部の保守派は「皇室を芸能界の延長として見る向きがますます加速する」などと激怒するに相違ない。しかし、本当に悪いことばかりなのだろうか。

 誤解のないよう明言しておくが、当記事はあくまで「芸能界からの入内」を一般論として考察するものであって、けっして「特定の芸能人の入内」を応援するものではない。

海外の事例

 日本皇室では先例がないが、海外君主家に目を向けると、芸能界からお妃を迎えた事例はけっして少なくない。――芸能人といえば、かつては海外においても君主の愛人枠にとどまっていたのであるが。

 芸能界からお妃になった代表的人物といえば、グレース・ケリーである。女優業を経てモナコ公爵レーニエ3世と結ばれたその伝説的な生涯は、結婚から60年以上、薨去から約40年が経過した今なお、少しも色褪せていない。

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モナコ公爵妃グレース

 現在グレース・ケリーに次いで有名なのは、メーガン・マークルだろう。アメリカでの女優業を経て、イギリスのヘンリー王子と結ばれ、サセックス公爵妃となった。

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サセックス公爵妃メーガン
©Office of the Governor-General(CC BY 4.0

 ここまでは、おそらく誰もが知っている事例である。というより、この他の例は一般的にはほとんど知られていないといったほうが正確ではないだろうか。

 スウェーデン王室のヴェルムランド公カール・フィリップ王子は、モデルのソフィア・ヘルクヴィストを妃に迎えた。王室マニアには比較的知られている事例であるが、一般常識には程遠いだろう。

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カール・フィリップ王子の結婚式(2015年6月13日)
©Frankie Fouganthin(CC BY-SA 4.0

 現タイ国王ラーマ10世は、王太子時代に女優のスチャーリニー・ウィワッチャラウォン(Sujarinee Vivacharawongse)を妃として迎えていた。すでに離婚が成立しているが、二人の間には都合5人の子女が誕生している。

 旧君主家に対象を拡大すれば、まだまだいる。

 旧アルバニア王室の当主であるレカ・ゾグ王太子は、人気女優のエリア・ザハリア(Elia Zaharia)と結婚している。世が世なら、あるいは王政復古が成された暁には、彼女は「アルバニア王妃」である。

 旧オーストリア帝室当主カール・ハプスブルク=ロートリンゲン大公は、女優・モデルとして働いていたフランツェスカ・ティッセン=ボルネミッサを妃に迎えた。

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オーストリア大公妃フランツェスカ
©Wolfgang H. Wögerer, Vienna, Austria(CC BY-SA 3.0

 ハプスブルク=ロートリンゲン家といえば、かつて帝位継承者フランツ・フェルディナント大公の貴賤結婚をめぐって揉めに揉めたほど貴賤結婚への拒否感が強かった家門だ。それが今や、女優を妻に迎えたとしても家憲上は何の問題もない(裏ではかなりの反発があるようだが)。

 ハプスブルク=ロートリンゲン家には、他にも女優を妃とした者がいる。オーストリア大公グントラム(トスカーナ支流の出身)は、エルサルバドル生まれのアメリカの女優、デボラ・デ・ソラ(Débora de Sola)と結婚している。

 これらの他にも、ニュースキャスターやスポーツ選手などを配偶者とした事例があるが、ここではあくまで芸能人に限定する。

「俳優」としての君主一族

 世襲君主制とは、基本的には能力・資質にかかわらず、血統により地位が継承されていくことを是とするシステムである。しかし、暗愚であるよりは英邁であるほうが国家の顔として好ましいことは、いうまでもない。

 ルネサンス期の思想家、ニッコロ・マキャヴェッリ(1469年~1527年)は『君主論』の中でこう主張した。「いろいろなよい気質をなにもかも備えている必要はない。しかし、備えているように思わせることは必要である」。

 イギリスの思想家、ウォルター・バジョット(1826年~1877年)は、著書『イギリス憲政論』の中で、19世紀イギリスの立憲君主のことを「蒙昧な人民に見せるための演劇、神秘、儀礼的な役割を演じる俳優」と表現した。

 今も昔も、君主とは、その地位にふさわしい振る舞いを期待される一種の俳優なのだ。中には気にしない者もいるものの、大抵の君主は観客(=国民)の目を強く意識して行動している。

 君主だけではなく、后妃以下の君主一族についても同様のことがいえる。

 血統により地位が受け継がれていくというシステム上、后妃に求められる最も大きな仕事とは、お世継ぎを儲けることだ。しかし、生殖さえこなせばよいというものではない。后妃にも、やはり女優としての役割が期待されるのである。

 后妃に期待される女優としての役割とは何か。具体的には、全ての国民に等しく慈愛をもって接し、国民と苦楽を共にする「国母」を演じることだ。このような皇后像は時に旧時代の遺物とされるが、今なお、ある種の「聖性」を帯びた存在としての振る舞いは重要である。

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聖武天皇の后・光明皇后
下村観山画(明治30年)

 皇后となる女性は、「このくらいなら自分にもできる」「なぜこんな女性が后妃に」といった思いを国民に抱かせないことが望ましい。このような役割を演じるうえで、芸能界での経験が大きな糧となることは確かであろう。

 視点を変えよう。

 皇室の日常は多忙を極める。象徴たる天皇の公務の多さは国民に広く知られているところであるが、その他の皇族方もお忙しい日々を送られている。

 皇室に入れば、このような多忙な日々を送らねばならなくなるわけだが、少なくともこの点に関しては、分刻みのスケジュールをこなす芸能界の人間にはかなり適性があるといえるだろう。

 さらにいえば、適性がない人間には、常日頃衆目に身を晒す生活はとても耐えられない。現代日本において、そのような環境に身を置いてきた人間がどれだけいるだろうか。

 「皇室の藩屏」たる華族は、もはや存在しない。現代に至っても、旧華族の子女はお妃候補として有力視されるが、今の旧華族の大部分は不特定多数の注目を集める環境に慣れていない。いまや、そのような日々を送っているのは芸能人くらいのものである。

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御即位一般参賀(令和元年5月4日)
©Dick Thomas Johnson(CC BY 2.0

 芸能人が皇室に入ることは、一概に悪いことばかりともいえないだろう。むろん、芸能人気分が抜けないまま皇族として活動されては困ることはいうまでもないが。

 皇室が未来永劫続くならば、芸能界からの入内はいつかは必ずあると断言してよいだろう。――我々の目が黒いうちに見られるかどうかは別にして。そのときには、人柄にかかわらずただ芸能人というだけで少なからぬ非難が巻き起こるであろうから、今のうちに擁護論を唱えておく次第である。

【参考文献】
右田裕規「戦前期「大衆天皇制」の形成過程:近代天皇制における民間マスメディアの機能の再評価」(『ソシオロジ』47巻2号、2002年)
右田裕規「戦前期「女性」の皇室観」(日本社会学会『社会学評論』55巻2号、2004年)
紙屋牧子「最初期の「皇室映画」に関する考察:隠される/晒される「身体」」(日本映像学会『映像学』100号、2018年)
青木淳子「新聞記事にみる天皇家の婚儀:新たなプリンセス像の創出」(『大東文化大学紀要《人文科学》』56号、2018年)

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