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こんなデートしたいな 【妄想デート日記:本好きな二人におすすめ】

「ここ、行ってみたい」

そう言ったのはもう二年も前だったね。あれが世界中で流行する前のこと。テレビで紹介されていたここにあなたと二人で来たかった。やっと来れた。あれが世界からある日プツリと消えたから。何もかもが元どおり。

「ね、やっぱり川沿いの部屋がいいよね?」
「二部屋空いてるかな? もし空いてなかったら俺、川沿いじゃなくてもいいよ」
「うん、ありがとう」

いつもあなたは私を優先してくれて、すごく優しい。

「あ、川沿い、二部屋空いてるって。よかった」

今日はここで一晩中過ごすことになる。四角い窓から鴨川が見える。この景色がこれから変わっていく。キラキラした青からやわらかなオレンジに、そしてしっとりとした黒に。私たちの時間がゆっくり流れていく。

「ねえ、どの本読むの?」
「んー、村上春樹かな?」
「好きだね? でもせっかくだから読んだことない作者さんに挑戦してみたら?」
「そうだな。せっかくだもんな」

あなたは軽く頭をうんうんと振りながら、手に持っていた短編集『一人称単数』を棚にそっと戻した。

「何読むの?」
「うーん、どうしよっかなあ。オススメはない?」
「女性作家と男性作家、どっちがいいの?」

そんなことを二人でひそひそと話しながら、まるで海外の本屋さんのようにおしゃれに展示されたたくさんの本をゆっくり眺める。時間はたっぷりあるから焦ることはない。

「これにしようかな」
「へー、おもしろそう。読んでみてよかったら教えてね」
「わかった」

それぞれ決めた本を持って自分の部屋に入る。お互いに小さく手を振って。

本棚に囲まれた部屋は秘密基地みたいでワクワクする。さっそく寝転がって『わたしのマトカ』のページをめくる。しばらく読んで目が疲れたら鴨川を見て、川のせせらぎの音を心に描く。それからまた本の世界に入り込む。ときどきふと、あなたのことを思う。今頃本読んでるかな、それともうとうとしてるかな。

泊まれる本屋「BOOK AND BED TOKYO KYOTO」で、今日は本を読みながら寝落ちしよう。なんて贅沢な時間。朝になったら二人で「おはよう」って言い合って、本の感想をこそこそ語り合って、それからおいしい朝ごはんを一緒に食べようね。


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ここにはいつか行ってみたいとずっと前から思っててね、大好きな人と一緒に行けたらいいなって妄想しました。きゅん要素はあんまりないけど、穏やかで幸せな感じのデートです。行ったことがないから部屋の様子とかはネット情報です。

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男性ってどんな小説を読むんでしょうね。私はあんまり本に詳しくないから男性が手にとっている小説の作者は村上春樹さんくらいしかパッと出てこなくてね。ビジネス書とかそういうのをここで登場させるのもなんか空気変わっちゃうでしょ。だから無難に村上春樹さんにしたんだけどね。どんな本を読む人かでその人のイメージも変わるから、ちょっと悩んじゃいました。


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百瀬七海さんの企画に参加しました。締め切り今日までですよね。書きたいなと思っていたんだけど実際に存在する行きたい場所が思い浮かばなくて日が過ぎていました。そしたら昨日ほかのかたが妄想デートを書かれているのが流れてきてね、それを見たときに「あ、そういえば行きたいとこあった」と思い出して書けました。滑り込みセーフ!


#妄想デート日記



お気持ち嬉しいです。ありがとうございます✨