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恋のはじまり

あなたとの出会いは偶然、立ち寄ったカフェでした。

カフェの窓際に飾られた小さな陶器の鉢植えを熱心に眺めているあなたの後ろ姿が目に入って、私もその鉢植えに視線を送りました。

茶色い土色の鉢植えは窓から射し込む光を浴びて、ほんのり優しく丸みを帯びています。

あなたはそれをゆっくり眺めたあと、席についてコーヒーを注文しました。コーヒーが来るまでの間、また窓際の鉢植えを見つめています。

その表情がとてもおだやかで、まるで愛しい恋人を見つめるように見えました。

あなたのその視線に包まれたいと思ってしまったのは、もうあなたに一目惚れしたからかもしれませんね。

私が会計に立つと、偶然あなたもコーヒーを飲み終わったようで、レジに向かうタイミングが重なりました。

レジに向かう途中、その鉢植えのそばを通ります。私は鉢植えを見ました。あなたも鉢植えを見ました。

やっぱり陶器の鉢植えはやわらかで、私たちに希望とか愛情のような何かを届けてくれるようでした。そんなふうに感じたのも、二人で一緒にこの鉢植えを見つめたからでしょうか。

私は勇気を出してあなたに話しかけました。

「この陶器の鉢植え、とても素敵ですね」

あなたはとてもうれしそうに返事をしてくれました。

「ありがとう。これは僕の作品です」

私が一目惚れしたあなたは陶芸家でした。そして私はあなたの作品のファンになりました。あなたの恋人になれたのはもう少しあとのお話です。


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