しいたけ賞(仮)その29 アンビバレント・ヘブン 作者 落水彩様
本編URL
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前書き
この記事は作品のネタバレを含みますのでご注意。
こちらの記事はあくまでも筆者の個人的感想です。
例えそのような内容であろうと、作品の価値を定めるようなものではないことは予めご了承ください。
あらすじ
「俺は冷月。この世とあの世をつなぐ案内人(コンダクター)だ。」
死後の世界。彼岸省厚生課に所属するメガネをかけたイケメン好青年・冷月は、生死を彷徨う魂を更生させ、現世に返す仕事をしている。
厚生課に依頼されてくる魂はそれぞれの悩みを抱えており、現世に返そうにも一筋縄では行かない。時に負の心が生み出す「魔」を祓い、時に魂を狙う悪魔と戦いながら、冷月率いる厚生課(現在二名)はあの手この手を使い、依頼をこなしていく。
ストーリーとかについて
天界……つまりは死者が行き着く場所を舞台にしたバトル×ヒューマンドラマ小説。
主人公はそこで案内人(コンダクター)なる役職につき、やってきた人を更生させ現世に送り返す仕事をしている。
物語としてはわかりやすく、主人公が死者に事情の説明と現世に戻るための世話を焼き、そして現世での問題にある程度の区切りをつけて還っていく……というのが一話の内容となっている。
元の世界に戻った後は天界での経験を糧に、ある程度心が晴れ晴れとした様子で新しい日々を歩み始めるゲスト(?)の登場人物が描かれたりと、爽やかな締めも含めてとても良き。
あくまでも読み手が勝手に思ったことではあるのだが、どうにも漫画的な話の作り方をしている印象を受ける。
なんというか、場面を見ると記憶にない漫画の一コマが勝手に浮かび上がってくるというか、恐らくこういう構図なんだろうなぁといったことが勝手に想起される。
それがいいか悪いか、そして作者さんが本当にそういう風に書いたかどうかはまた別の話として。
ということもあってか、文章だけで語られる小説だと少しばかり情報不足。
主人公にしても、その同僚にしても、お互いに見知った様子だが読者にとっては二人が何者で何を目的としているのかがわからない。
なのでどうにも地に足がつかず、ふんわりとしたまま話が進行していってしまうのはちょっとだけ残念ポイント。
加えて登場人物が微妙に多く、全員が何かしらの現時点では語られない含みを持っている。
そういうこともあってか、置いてけぼり感は結構強め。
ただそれはそれとして、漫画の一コマを想起させる表現力というのはなかなかのものではあるし、物語の大筋もわかりやすく読んでいて気持ちがいい。
話が進めば謎も解明されていき、もっと物語の中に深く入り込むことができるようになるだろう。
その辺りは今後に期待といったところだろうか。
キャラクターとかについて
下読みの段階の印象としては、全体的にふんわり感があるのは否めない。
とはいえ、物語としては序盤も序盤なので「そういうものか」と納得できないほどではない。
最終評価(極めて個人的な感想)
文章
書き込み量は程よく、心理描写とも適度に絡めていてくれるので読みやすい。
特にキャラクターのビジュアルに力を入れているのが伝わってくる。
キャラクター
設定などはしっかり作ってありそうな印象。
出てきた登場人物達も今後に出番は用意されているだろう。
反面、大半が顔見知り+訳ありっぽいので、読んでいて置いてけぼり感があるのは否めない。
構成
大まかな構成としては悪くはないが、やはりちょっとごちゃつきが見られる。
伏線といえば聞こえはいいが、物語の焦点がブレているようにも。
設定
一話を読んだ印象の、問題を解決して送り返してあげるという流れは読んでいて清涼感があってとてもいい。
今後送られてくる人も色々と事情や理由がありそうだし、その辺りは純粋に楽しみな要素といっていいだろう。
総評
文章力と表現力はなかなかのもの。
特に後半のゲストキャラクターの、既に死亡している彼女の友人との会話やそれをきっかけに前を向いて歩いていく姿はかなり上手く書けており、物語としても爽やかさが残るものとなっている。
反面キャラクターの多さなどが少し引っ掛かり、説明不足感も否めない。
その辺りは物語の肝でもあるだろうし、今後に期待といったところだろうか。