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思惑と反しても~J2第30節 ファジアーノ岡山 VS ジェフユナイテッド千葉~

スタメン

 両チームのスタメンはこちら。

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前に急かされる岡山

 この試合は、お互いの狙いがイマイチ見えない様子見の段階で、1点ずつを取り合う立ち上がりの10分間となった。6分、椋原のクリアミスを起点にバイタルの中央で千葉がボールを持つと、上門のプレスバックでこぼれたボールがペナ内にいた山下への絶妙なパスとなってしまい、そのまま山下がシュートを決めて千葉が先制。その直後、岡山のキックオフからのロングボールを山本が頭で落として斎藤がペナ内に侵入、斎藤を鳥海が倒した形でPKを獲得。そのPKを上田が決めて岡山が追いつく。様子見の10分間で互いに1点ずつを取り合ったことで、残りの80分+ATはある意味新しい試合が始まったと言っていいかもしれない。

 ポープからの徳元や椋原をターゲットにしたサイドへのフィードを使いながら、田中と濱田を起点に後方からボールを保持して運んでいこうとする岡山。これに対して4-4-2でスタートした千葉のファーストディフェンスは、山下と船山の第一ラインが中央へのパスコースを消すように岡山の最終ラインのボールホルダーに寄せて守るようにしていた。この千葉の第一ラインの寄せ方が個人的にはなかなか巧みだったと思う。後ろでボールを持つことが多かった田中と濱田は、前方の上田やパウリーニョへのパスコースを切られて、縦に大きく蹴り出さざるを得ないようなシーンが何度か見られていた。

 このように第一ラインがまず中のスペースを消すことを意識して守ってきた千葉に対して、岡山はCHの上田やパウリーニョが列を下りる形で3バック化したり、SH(特に右の白井)が列を下りてCHのようなポジショニングをしたりすることで、千葉の第一ラインの脇スペースを起点にしようとする工夫は見られていた。そこからSBの徳元や椋原をビルドアップの出口にして、千葉の4-4-2のブロックを横に広げるようなボールの動かし方をしていこうとする岡山であったが、千葉はこの岡山の動きを狙っていた節があったと思う。

 おそらく岡山は「千葉は4-4-2のブロックを敷いてくるだろうから、それをどうやって動かしていこうか」という認識でこの試合に入っていったのだと思う。しかし実際には、千葉は4-4-2のブロックを敷いて守るというより、自分たちの第一ラインの脇スペースに入ろうとする選手や横幅を取る選手に対してSH(為田と矢田)やSB(安田と本村)が迎撃的に付いていくことが多かった。決して敵陣深くにまでハイプレスを仕掛けてきたというわけではなかったが、ミドルゾーンでマンマーク気味に強いプレッシャーをかける選択をしてきたということである。

 この千葉の非保持時の動きに面食らったのか、あまりに予想外だったのか、前半の岡山は後方でのボール保持で落ち着かせて時間を作ることがなかなかできていなかった。早い段階で前方に展開することが多い岡山だったが、それは積極的に縦へのボールを狙っていたというよりは、本当はもう少し落ち着けて押し上げていきたいのに千葉のミドルゾーンでの圧力に屈して仕方なく縦に蹴らされるという側面が大きかったと思う。その結果として、千葉にボールを渡してしまうというシーンが多く見られることになっていた。押し上げきれないまま縦に入れてしまう岡山はポジションが整っていないことが多く、せめて回収していきたかったはずのセカンドボールも小島や見木のCHを中心に千葉に回収される展開になっていた。

劣勢を繋ぎ止める体術使い

 それでは前半の岡山が完全な劣勢に陥っていたかというと、そういうわけではなかった。その理由として、一つは千葉のボール保持の事情、もう一つは岡山の前線と千葉のCBとのタイマン勝負の事情があった。

 まずは前者について。前半のボールを持った時の千葉は前線の山下にロングボールを当てることもあったが、基本的には安田-為田の左サイドのラインを中心に、小島や見木も左に流れることで左サイドからボールを運んでいこうとしていた。千葉の左サイドにはボールを動かせる、個人で運べる選手が揃っていたので千葉はある程度高い位置まで運ぶことはできていた。しかし岡山もサイドから運ばれることは織り込み済みであったというか、まずは4-4-2のブロックをミドルゾーンでセットし(⇒斎藤と山本の第一ラインはあまりプレッシャーに行かないようにしていた)、中央を使われないようにスライドを行ってサイドに誘導、サイドでボールを運ばれても、最後の局面で自由にクロスを上げさせないようにするように対応することで危険なシーン自体は少なく抑えることができていた。ただ椋原-白井の右サイドのラインが為田のキープに手を焼いていたのは事実。自陣でファールを多く与えていたのは気がかり。

 次に後者について。岡山の縦に大きな展開が前線の斎藤や山本に通ったとき、千葉のCBである鳥海やチャンミンギュとのタイマン勝負に高い確率で競り勝つことができていた。特に斎藤は「イーブンボールに対して身体を上手く使ってマイボールにしてしまう」得意の体術で敵陣深くまで運ぶことができており、24分の白井の決定機や43分のロングカウンターからの椋原のシュートシーンを演出していた。前線が縦関係を取ることで、上手く斎藤と千葉のCBを1対1にしていた、山本のポジショニングも地味ながら非常に効果的だった。前へのボールの精度は決して高くなかったので回数自体は多くなかったものの、岡山の前線と千葉の最終ライン(CB)は明らかに岡山が優位性を持つことができていた。

 前半の岡山は前に急ぐ形が多く、その結果バタつき気味になってしまっているので全体の流れ自体は良くなかったが、良くないなら良くないなりに相手の決定機を抑えるように凌ぎ、そこから自分たちの決定機を作り出すような試合運びはできていた。立ち上がりの10分以降の新しい試合で両チーム得点は動くことはなく、1-1で折り返すことになった。

思惑はさらに外れ

 前線の斎藤と山本で十分起点を作れるということが前半で分かったので、意識的に長いボールを増やしていくようになっていった後半の岡山。前線をサイド奥に走らせるロングボールで起点となり、同一サイドに人数を集めてサイドから押し込んでいこうとする意図がうかがえるプレーを立ち上がりから増やしていった。同一サイドで攻め切ろうとしていたので、一度中央に戻して上田やパウリーニョあたりが逆サイドに展開し直すというようなプレーは(前半もあまり多くはなかったが)後半はほとんど見られなくなった。

 サイドから押し込んでいこうとしたのは、前半はあまり多くなかったサイドからのクロス攻撃を後半は多くしていきたい狙いがあったからなのだと思う。千葉はサイドからのクロスでピンチを招く機会が多いので、それ自体は理にかなった選択。特に左サイドからの展開が顕著だった。左サイドから押し込むことで上門と徳元のラインをより高い位置でプレーさせて、徳元がクロスを上げつつ、千葉に大外を意識させて内側のスペースが空いたところで上門が中に入ってシュートを打つ展開を作りたかったのだろう。

 しかし後半になってからの岡山の攻撃の狙いが上手く行っていたとは言い難かった。むしろ展開がよりアバウトになっていったことで前半以上に千葉にボールを渡してしまうことになっており、主導権を握り返すことができていなかった。

 後半になっての千葉のボール保持は、ロングボールからのセカンドボール回収を意識しているのか、前半に引き続き第一ラインがあまり追っていかずに4-4-2のブロックを敷いて守る岡山に対して、前線の船山が列を下りることでビルドアップの中継点になるようなプレーを増やしてボールを動かすようにしていた。中央を崩すというよりは、一度船山が起点となって戻して、小島をフリーにすることでより大きなサイドへの展開でサイド攻撃を仕掛けていこうとしていたのだと思う。左の為田だけでなく、右からも本村が高い位置を取って、両サイドから仕掛けようとしていた後半の千葉の攻撃。岡山はペナ付近でたまらず倒してしまって、千葉に危険な位置でセットプレーを与えることが多くなっていった。押し込む時間帯が多かった後半の千葉であったが、押し込んだ先の工夫があまりなかったのも事実。岡山は「結局最後はクロスでしょ」というような対応で跳ね返すように耐えていた。

 後半は両チームのプレーがなかなかうまく噛み合わずにファールでプレーが止まってしまうことが多く、現地で観ていてなかなかストレスの溜まる試合展開になってしまっていた。しかし、終盤の75分から一気にスコアが動く展開となっていった。

 75分、左サイドでのボール保持で詰まった岡山から千葉がボール奪取、一気に船山が広大なスペースを突いてペナ内に侵入、折り返しに後方から駆け上がった途中出場の高橋が詰めて、まずは千葉が勝ち越しに成功。岡山としては左サイドに人数をかけすぎて(⇒CBの田中まで参加していた)、船山にファストブレイクのスペースを与えてしまったのは大きな反省点だろう。

ストレスを解放させた3枚替えと左サイド

 この失点の直後に岡山は喜山、デュークカルロス、イヨンジェと3枚替えを敢行。千葉が残り時間を守り切ろうと4-4-2のブロックを自陣に敷く形に変更したこともあって、岡山はイヨンジェへのダイレクトな長いボールを使いつつも、後方からのボール保持で、中盤のハブ役としてボールを循環させられる喜山、左サイドの大外から前向きに仕掛けるアクションを起こすことのできるカルロスが入ったことで後方からボールを保持して横幅を使って押し込んでいく形に路線変更、というか原点回帰。特にカルロスの投入は大きく、左サイドの推進力が上がったことで岡山の左サイドと千葉の右サイドのパワーバランスは完全に逆転した。

 岡山の原点回帰、攻めの姿勢が功を奏したのが終了間際の2得点。まずは87分、岡山が左サイド深くで押し込む形となると上門、徳元、カルロスとボールを保持しながらポジションを旋回して上門がペナ内に侵入、右SHの関戸(上田と途中交代)が左に流れた動きに合わせて徳元がボールを入れると、関戸がワンタッチで上門に落とし、上門がダイレクトで合わせて岡山が2-2の同点に追いつく。
 最後は後半ATに突入した94分、再び左サイドに展開して押し込む形を作ると、カルロスが仕掛けるアクションを起こすことで本村を引き付け大外の徳元をフリーにする。ここで岡山の左サイドで2対1の数的優位状態を作ると、カルロスからパスを受けて、フリーの状態で上げた徳元のクロスにイヨンジェが頭で合わせて、土壇場で岡山が3-2と勝ち越しに成功。岡山としては、サイドからボールを運んでそこからペナ内に入れるボールで得点ということで、千葉のウイークポイントをようやく狙い通りに突くことができた。どちらの得点も、途中出場のカルロスが前向きに仕掛けるアクションを起こすことで千葉の選手を引き付け、味方(徳元)がフリーで中にボールを入れることができる形を作ることで生まれたゴールであった。

 試合はそのまま3-2で終了。岡山はホーム戦2試合連続の3-2という、なんだか岡山らしくないスコアでのホーム連勝、7戦負けなし(3勝4分)となった。

総括

・千葉はどう考えても順位不相応な戦力(⇒左サイドの安田ー為田のラインは明らかにJ2でも上位クラス)に対して、残念ながら(特に攻撃面で)順位相応なチグハグさが否めない試合となってしまった。サイドで高い位置まで運ぶことができるのは良いが、そこから先どうやって人とボールをペナ内に侵入させて得点に結びつけるのか、そこの構造が曖昧というか未整備だったように思う。見木や本村といった攻撃に持ち味のある若い選手がいて、そこに中盤でボールを散らせる小島、フィニッシャーには山下や船山と、もう少し攻撃に迫力ができてもいいはずなのだが、尹晶煥監督の「禁欲的」なサッカーとのかみ合わせがまだ上手く行っていない気がするのは気がかり。あと、終盤にリードして押し込まれるのは仕方ないと割り切っているのだろうが、それならばなぜ5バック(5-4-1)で試合をクローズしなかったのかという部分は気になった。

・この試合の岡山は、おそらく戦前の予想以上にボールを前進され、予想以上にボールを前進できず、予想以上にセカンドボールを回収されており、ボール保持と非保持の両面で(もっと言えばトランジションの局面でも)千葉の出方を見誤って、当初のゲームプランの思惑と大きく反するような時間帯が長かったように思う。というよりは1-2と勝ち越されるまでの時間帯はほとんどそうだった気がする。自分たちがボールを持ったときのイージーなパスミスやタッチミスが多かったのも相まって、落ち着いた試合運びを行うことができずに終始バタついていた感は否めなかった。最後の2得点はおそらく戦前のゲームプランの思惑通りの得点だっただろうが、そこに行きつくまでの過程がもう少しこの2得点で伏線回収的な形になっていればもっと良かったのかな、という個人的な思いはある。

・それでも最後の2得点は、ただの1試合における同点、勝ち越しゴールとはまた違う、より大きな価値を持った得点だったように思う。リードされての終盤なので攻撃的なカードを切り、攻めに人数をかけて押し込んでいくのは当然のことなのだが、相手が構えている状況でロングボールを放り込むような、ガードを固めている上から無理矢理殴りつけるような攻め方ではなく、左サイドからボールを運んで行く形で2点目はポジションの旋回によるペナ内侵入とワンタッチ、3点目はサイドで数的優位を作った形からのクロスという、相手のウイークポイント(⇒サイドからのボールに弱い)を意図的に狙っての攻め方、その結果のゴールだったということに大きな価値がある気がする。帰ってきた喜山とイヨンジェ、流れを変えるジョーカーとして確かな存在感を示しつつあるカルロスや松木といった個人の意味でもそうだが、本文で書いたようなこの試合の前半の戦い方を含めて、チームの戦い方という意味でも岡山は手札を確実に増やしていくことができている気がする。

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