ベンガラ色の左サイド~J2第22節 レノファ山口 VS ファジアーノ岡山~

スタメン

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相手のチャンスの分母を増やすな

 山口が立ち上がりから狙っていた攻撃は、SBの田中と橋本を高い位置に上げてのサイド攻撃。小松、高井、浮田の前線の3枚とSBで5レーンを埋めるようなポジショニングを意識したボール保持を行い、ミドルゾーンの中央からサイドに広く展開して敵陣深く(ゾーン3)に侵入、WGとSB、そしてボールサイドに流れてきたトップ下の池上でサイドを攻略していこうという狙いがうかがえた。

 ゾーン3に侵入してからの山口のサイド攻撃がかなりパターン化されているようで、大外でボールを持てば他の選手がニアゾーン(⇒ポケット、ペナ内の奥のスペース)に抜ける動きを必ずと言っていいほど行っていた。相手がその動きに釣られればサイドでボールを持った選手がそのままクロスを入れるかカットイン、逆に相手がボールホルダーを意識すればニアゾーンに抜けた選手にパスを通してペナ内に侵入できるという流れである。

 また山口の選手たちが上げるクロスボールは、ほとんどがファーサイドを狙ったものであった。恐らくこれもチームとして狙って行っているもので、左サイドでボールを持った橋本のクロスに逆サイドWGの浮田がファーに飛び込んで合わせるというシーンは前半にいくつも見られていた。ニアゾーンへの抜け出しやファーサイドへのクロスを多用することからも、山口の攻撃は相手の視野を(前後)左右に振ることで、相手選手をボールウォッチャーにしてマークを外してしまおうという共通の狙いが見えていた。

 そんな山口の攻撃への岡山の応手は、基本的には4-4-2を形成して濱田と後藤の最終ラインは高めに設定、そこからボールサイドのSH(上門や三村)を上げて第一ラインの赤嶺と斎藤とともに山口のボール保持にチェックをかけようというオーソドックスなものであった。赤嶺と斎藤はあまり中央のエリアからサイドにまで追いかけることはせず、サイドへの展開はSHの縦スライドに対応してもらうという感じであった。

 後方でボールを持った時の山口はヘニキと眞鍋のCBにヘナンが最終ラインに下りて3バックを形成しその前に高が立つというひし形の陣形になることが多かった。その中で岡山は特に高から大きくサイドに展開される形を警戒しているようで、第一ラインの選手(特に斎藤)が一列下りて高をチェックしたり、CHの上田や白井が特に意識的にマークに付いたりするシーンが良く見られていた。岡山の守備はできれば高い位置で捕まえられればいいが、山口のバックパスや後ろでのボール保持にどこまでも付いていこう、という姿勢はあまりなかったように見られた。高から前に展開される形を作られなければ必然的に高い位置でも捕まえられる、という意識があったのだと思う。

 実際に山口は、ゾーン3に入った時のサイド攻撃では岡山に脅威を与えるシーンがあったものの、岡山の中盤(特にCH-SH間のスペース)で池上であったり、中に絞ったWGの選手だったりがボールを受けるようなシーンがあまり見られず、狙い通りにゾーン3まで侵入する展開を立ち上がりから数多く作ることが出来てはいなかった。

狙っていたサイドへの大きな展開

 一方で岡山の攻撃は、普段のポープだけでなくCBの濱田や後藤、CHの上田や白井から意識的に大外へのロングボールを立ち上がりから増やしているようであった。最前線で眞鍋やヘニキとバトルする赤嶺へのシンプルな放り込みは思った以上に控えめであった。大外に張ったポジショニングをするのは両SBの徳元と椋原がメイン。ただ右サイドに関しては、特に前半は前線の斎藤が右サイドに流れてボールを受け、そこから運んでいこうというシーンが多く見られていた。

 右サイドに斎藤が流れることの兼ね合いから、右SHの三村は中央でのプレーになることが多かった。そのため赤嶺の近くでプレーするシーンは斎藤よりも三村の方が多かった気がする。この関係性が上手く行ったのは、カウンター気味の流れで三村→斎藤への展開から斎藤がクロス、セカンドボールを拾って白井がシュートを放ったシーンだっただろうか。

 岡山がサイドへの大きな展開を増やしていたのは、おそらく山口の守備の特徴から。山口の守り方はボールサイド~中央エリアへのコンパクトなポジショニングをかなり強調しており、自然と逆サイドの大外エリアはスペースができやすくなる。またこの試合での山口の第一ライン(小松と池上)はあまり岡山の後方でのボールホルダーにプレッシャーをかけに来ておらず、岡山の選手からすると比較的狙ってボールを蹴る体勢を作ることができていた。

 岡山としてはサイドへの大きな展開を増やすことで、山口の4-4-2のブロックをサイドに引っ張って中央にスペースを発生させて、特に山口のCH-SH間のスペースやCHの背後のスペースで三村や赤嶺が受ける形から起点を作っていきたい狙いがあったのだと思う。また三村と同じSHの上門は、この試合でも前節同様に高い位置での仕事を意識的に増やすようなポジションを取っていることが多かった。

 攻守ともに立ち上がりからどちらかというと岡山の流れで進んでいた試合はしかし、24分に池上の右サイドでのFKからヘナンが決めて山口が1-0と先制に成功する。先制に成功した山口は得点直後にあった飲水タイム明けから、岡山のサイドへの展開に対して第一ラインの選手が付いていく形を増やして守備面での修正を図る。岡山はサイドに展開する形を簡単には作れなくなり、赤嶺や斎藤が眞鍋やヘニキあたりにマークされている状態でも単純に背後を狙うようなロングボールを蹴らされることになって、ボールを持っても手詰まり感の強い展開が増えることになっていた。

 しかし32分、山口のプレッシャーを受けたなかでも濱田と後藤が我慢強くボールを保持したことで白井がオープンな状態(⇒フリーで前を向ける状態)を作ると、左サイドの徳元に大きな展開ができる形が復活。白井からのボールを受けた徳元を上門が追い越してそのままペナ内に侵入、上門に付いていった高が倒してしまって岡山がPKを獲得。このPKを上田が決めて1-1の同点に追い付いて前半を折り返すことになる。

 岡山としては立ち上がりからの狙いをうまく利用して獲得したPKであったが、ポイントは白井から徳元への大きな展開から田中が徳元に引き付けたことで、上門がペナ付近に走り込めるスペースが出来上がったことが一つ。もう一つのポイントは、上門がカットインを高にちらつかせて縦への動きを入れたドリブルを行ったこと。特に後者のポイントは、今後上門が更にアタッカーとして飛躍する将来的に見ても大きなポイントになるかもしれない。

オープンにしたい山口、押さえつけたい岡山

 前半から思ったようなボール保持からチャンスの数を増やすことはできていなかった山口であったが、実は前半の終盤あたりから有効な攻撃手段を見出だしていた。その手段は、小松や浮田を岡山の最終ラインにぶつけるシンプルな展開であった。

 後半になると山口はターゲットを岡山の左サイドに集中させるようになっていた。岡山は小松と浮田が交互にサイドを走ってターゲットになる形をなかなか高い位置で食い止めることができず、後半の立ち上がりから2分も経たない内に左サイドを食い破られる形からクロスバーやポストに助けられる形を複数回作られてしまっていた。

 岡山も返す刀で山口が押し上げた背後のスペースに展開するカウンター気味の形で応戦。左サイドから上門、斎藤と運んでクロス、赤嶺が詰める惜しいシーンはあったが、サイドに展開するボールが弱かったり、山口にサイドへの展開を読まれがちになっていたりしたこともあって、ボールをカットされて逆にカウンターのカウンターを受けるようなシーンを与えることが多い後半の立ち上がりからの流れであった。山口はかなりイケイケな状態で攻め込んでいたので、60分前後でかなりスペースの多いオープンな展開になりつつあった。

 後半になって自陣ペナ内にボールを入れられる形が急増した岡山。これをなんとかクリアで凌いでいくと、62分に上田、赤嶺、三村に代えてパウリーニョ、山本、関戸の3枚替えを行う。有馬監督が山形戦で味を占めたのか、2試合続けての一気呵成の3枚替えであった。

 有馬監督の行ったこの3枚替えは前節に引き続き、試合の流れを引き戻す効果があった。まずは守備面について、後半は立ち上がりからなかなか第一ラインからのチェックをかけきれずにオープンな展開を作り出してしまっていた岡山であったが、3度追いを厭わない山本、高に対して強いプレッシャーをかけに行くパウリーニョ、椋原との連動でプレスバックに行けるに関戸が入ったことによって第一ライン~ミドルゾーンでの守備の強度を上げることに成功した。

 次は攻撃面について。関戸は右サイドでキープ、そこから椋原のオーバーラップや斎藤の右サイドに流れる時間を確保した。パウリーニョは白井とともに中盤で失うことなくシンプルに少ないタッチでボールをサイドに展開することでリズムを作り、そして山本は背後へ抜け出す動きを絶えず繰り返し、山口の最終ラインを押し下げようとしていた。

 このように3枚替えによって流れを引き戻した岡山。山口の運動量が落ちたこともあって山口の望むオープンな展開、走り合いの展開を押さえ込み、敵陣でプレーする時間を長くすることができるようになった。また池上→田中パウロ、浮田→森、小松→河野といった、前線の運動量を保つための山口の交代策が効果的に機能しなかったのも大きかった。(⇒森は右サイドから仕掛けていく形を特に終盤になって何度か見せていたが)

 そして82分、森の縦パスに対して白井と徳元で門を閉じて徳元がカットしたところからカウンターが発動。途中投入の野口が左サイドでフリーになった上門に繋ぎ、上門がそのまま運んでいく形から、徳元が上門を追い越す動きを見せる。上門はシンプルに徳元を使って徳元が折り返し、ファーサイドで待っていた山本が頭で合わせて岡山が勝ち越しに成功した。

 その後の山口の攻勢を、チェジョンウォンを入れての5バックにする形で凌いだ(⇒この5バック策は正直失策だったと思う)岡山が後半戦初戦を勝利。岡山は今季初の連勝となった。

総括

・ゴール前での決定機自体は岡山よりも多く作ることができていた山口。本文でも書いたが、敵陣にボールを運ぶことができた状態で、そこからサイドからニアゾーンに侵入させる、ファーサイドへのクロスを狙うデザインされた崩しはスピードとスキルのある山口のアタッカーに適したものであり、非常に面白い形でもあった。特に左SBの橋本は運動量だけでなく、ドリブルのキレ、クロスの精度やバリエーションもあって攻撃的なSBとして非常に楽しみな素材だと思った。だからこそ岡山同様に、山口も後方からどうボールを運んでいくかが課題、伸びしろになっているのかなとも感じる試合でもあった。チャンスの分母数が増えていけば自然と勝ち点も増えていくのではないだろうか。

・上門-徳元の左サイドからのホットラインがいよいよ本格化しつつある岡山。ボールを持った時に使う側にも使われる側にもなれる徳元を起点にするために、チームとしてもいかに左サイドにオープンな状態で展開できるか、そしてカットインだけでなく縦突破からもチャンスを作れるようになっている上門を高い位置でプレーできる形を作れるか、そのために全体を押し上げる形を作っていけるかというのがボール保持時の原則的な共通の認識となっているようである。前半の上門のPK獲得までの流れは、ぎこちなさは多分にありながらも我慢強くボールを動かし、左サイドに良い形で展開できた現状の理想形。また山本、関戸、パウリーニョの3枚替えを行ってからの、「右サイドで時間を作って左に展開、全体を押し上げることでボールを失ってもすぐにCH-CBが高いポジションを取って回収を行える」形は今後のことを考えても非常に楽しみな形に見えた。

・このようにペナ付近までボールを運ぶ回数は増えているものの、山口とは逆に敵陣深くに入ってからの崩しの形がデザイン化されていないのは気になる部分ではある。ただこの部分は、ゴール前の目詰まりを取るというよりも「押し込む回数を増やしてセットプレーを増やす→そのセットプレーで得点を取ってしまおう」くらいに考えても良いのかもしれない。そういう意味では上田だけでなく、白井もセットプレーから可能性のあるボールを出せているというのは好材料ではある。

試合情報・ハイライト


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