Google式スタートアップ経営。アーリーフェーズのスタートアップでOKRを導入する際に必要な視点
これは、COOを務めている株式会社Facilo(ファシロ)のコーポレートサイトに掲載されている私のプロフィールです。皆さん、私をどんな人だと想像しましたか? バリバリ働くキャリアウーマンでしょうか。会話のほとんどが横文字の、外資系という言葉をそのまま体現しているような人物でしょうか。
実際の私は、ひとつひとつの仕事にぶつかるたびに知恵を絞り、周囲に助けられながら実務の力でそれらを乗り切ってきた至ってふつうの人間。時には子育てと仕事の両立に悩み、週に一度の筋トレの日を楽しみにしています。
そんな私が、FaciloのCOOとして皆さんに何かをお話しするならば。夢やビジョンからFaciloの未来や可能性を語るのもいいけれど、泥臭く足元の仕事とどう向き合い、それをどう捉え、どんな方法で乗り越えているのかをお伝えしたほうが私らしいなと考えました。実務が何よりも私がこだわっていることであり、その積み重ねにより私のこだわりや目指していることが点が像を結ぶように皆さんに伝わると考えたからです。
前置きが長くなりましたが、そういうわけで第1回目は、「Googleで感動したOKRをFaciloにどう導入したか」についてお話ししたいと思います。お忙しい方はこの記事の一番下にサマリを書いておきましたので、そちらへ直接どうぞ。
Googleで初めてマネジメントを任された私を救った「OKR」
私のキャリアの中で、仕事の仕方に大きく影響を与えたのは、やはりGoogleです。中でも、OKRの優秀さを痛感した時のことは今でもはっきりと覚えています。それは私が初めてマネージャーになった時のこと。チームには年上のメンバーも多く、これまで成果を出してきたメンバーに自律的に働いてもらいながらマネジメントをするという難易度の高い仕事が立ちはだかっていました。この時、OKRが私を救うことになったのです。
GoogleでのOKRの使われ方
さて、このOKRを私はどのようにGoogleで運用したのでしょうか。まず、GoogleでのOKRの活用方法をリサーチしてみました。すると、海外のGoogler(Googleで働く人)はOKRの活用がとても上手であることに気づきました。会社のやりたいことと個人のやりたいことの紐付けが丁寧に行われているため、Key Resultsに対する当事者意識が圧倒的に高かったのです。また、社内に公開されているプロフィールにKey Resultsを公開しているGooglerも多く、Key Resultsが社内でのつながりを生むハブの役割を担っているケースもありました。OKRは上手に活用すれば、目標達成だけでなく、仕事そのものに愛着を持ったり、チームの士気を上げたり、自身のアピールにも使うことができるものだったのです。
「OKR、いいじゃん!」と確信を得た私は、本格的にOKRの策定に取り組みました。実際に営業部のOKRを設定する時には、以下のことに留意しました。
✏️Objectiveの作り方
トップダウンで降りてくる定量目標に加えて、業界のために成し遂げたいことを定性目標として追加し、部のObjectiveを策定しました。Googleの評価制度はWhat(定量/結果)とHow(定性/プロセス)の両方を見るものだったので、Objectiveにも定量と定性の軸があったほうが評価につなげて管理できると考えたためです。
✏️Key Resultsの作り方
KeyResultsは、チームの独自性を反映させ、より自分ごと化してもらえるように設定しました。また、最終的にKey Resultsが実践されれば、Objectiveが達成されるというシナリオが描けるまで徹底的にブラッシュアップを行い、メンバー全員の納得感を得られるまで何度も議論を重ねました。
✏️納得感のあるKey Resultsを作るためのワークショップ
『最高の結果を出すKPIマネジメント』という中尾隆一郎さんによる書籍を参考に、ワークショップを実施しました。リーダー2名にこの書籍を読んでもらった上で売り上げを因数分解。それぞれのファクターである「商談数」「単価」「決定率」をチームメンバー全員でディスカッションし、Key Resultsに落とし込んでもらいました。これにより、提案単価や商談数を増やすことに成功。Key Resultsをメンバーに決めてもらうことで納得感を持ってそれらを追ってもらえるという実感を得ました。
結果、営業部でのOKRの運用は成功。新任マネージャーとしての仕事をOKRによりワークさせることができ、大きな成功体験になりました。
アーリーフェーズのスタートアップだからこそ、「OKR」を羅針盤にする
ここからは、FaciloでのOKR設定のお話です。COOとして参画してしばらくの間は、エンジニアリング以外の仕事を役割の壁を作ることなくカバーしていました。それを分業化しSales&Marketingチームを構築する段階になって、OKRの出番がやってきました。アーリーステージのスタートアップながら、自律的な組織を目指すFaciloには、個人に「How」を委ねるOKRはフィットしそうだという狙いもありました。
FaciloでのOKRの設定では、Googleの時と異なる試みを行いました。まず、評価制度とのダブルスタンダードを回避すること。GoogleではOKRとは別に評価制度が運用されており、どちらも追わなければいけないというダブルスタンダードが危惧されていました。そこで、Faciloでは事業のObjectiveをそのまま各チームのObjectiveに設定。方法はこうです。
✏️Objectiveの作り方
事業計画の数字をそのまま引用しObjectiveとしました。事業をとりまく環境が月単位で変化するスタートアップにとって、事業計画は唯一の羅針盤。それをそのままOKRに活かそうと考えたのです。事業計画の売り上げをSalesチームに、リード獲得数をMarketingチームに、アポイント獲得数をGo To MarketチームのObjectiveに設定しました。事業計画がそもそもストレッチであるため、OKRにおけるObjectiveとしても違和感がなく一人一人の仕事が事業に直結するものにすることができました。
✏️Key Resultsの作り方
メンバーそれぞれにKey Resultsを設定してもらいました。メンバーの中にはKey Resultsの設定に慣れていない人や、業務の特性上なかなか定量指標を出せない場合もありました。その場合は、まずはそれぞれに設定してもらったKey Resultsを1on1などを通して軌道修正しながら仕上げる方法をとりました。また、アーリーステージのスタートアップであることから、メンバーが一人の部門では、部門としてのあるべきKey Resultsとその人ができる範囲のKey Resultsが異なるケースもありました。その場合は部門としてあるべきKey Resltsを定めた上で自分ができる範囲を定義してもらい、それ以外は採用などで補う計画を立てました。
設定したOKRは社内全員が閲覧できるスプレッドシートで管理。四半期ごとにチューニングを行い、現在設定から9ヶ月が経過したところです。9月までの期では事業計画を見事達成。各職種の目指すべきObjectiveを明確にし、それぞれが自分のKey Resultに集中することができる環境を作ることができました。あれも、これもと迷いが生じやすい創業期のスタートアップにおいて、何に集中すべきかを明確にできたのが大きな効果だったと感じます。
「Jカーブ」を描く急成長スタートアップでのObjective設定に求められること
ここまで読んでいただいて、「果たしてアーリーフェーズのスタートアップに、Googleをはじめとする大企業が導入しているOKRがワークするのか」と懐疑的な方もいるかもしれません。今のところ私はOKRの設定は創業期だからこそ必要だったと振り返っています。
会社のOKR、チームのOKR、個人のOKRが繋がることで、メンバーの実力を最大限に引き出すことができたからです。また、OKRを考えていく中で事業計画を達成するには業務範囲を再定義する必要があると気づいたチームもあり、早期に業務範囲と肩書きを修正したメンバーもいました。事業に照らした本質的な軌道修正ができるのもOKRの副次的な効果だと言えます。
あえて課題を挙げるとするならば、Jカーブ成長を想定かつ、1年目の組織であるためにObjectiveの何度か大幅なチューニングが必要になったことです。短期でObjectiveを達成できても、その次のクォーターを見越すと実はさらに高い売り上げが必要になることに気づいたり、急成長を見越した体制づくりが必要なことを見逃していたりと、スタートアップらしい課題が見えてきました。現在では、Objectiveには、短期の視点と中期の視点を50%ずつ入れ、足元の達成と、その先の急成長の基盤づくりを同時に行うことができる内容にチューニングすることで解決が見えてきています。
次の10月から、4期目を迎えるFacilo。OKRの運用はこれからもチューニングとアップデートを続けていくでしょう。これからぶつかるあらたな壁もあるのかもしれません。このnoteを読んでくださっている方と意見交換しながら、また次なる課題や視点が見えてきた時にご報告したいと思います。
(文・図:浅岡純子 編集協力:出川光)
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