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To Be a Doctor 3

登場人物紹介
・原田【♂】
主人公。国立大学医学部の二年生。20歳。
・小柳夕【♀】
ヒロイン。原田を医学部受験に誘うが、受験直前に音信不通になる。
・宮藤(くとう)さん【♂】
関西出身。再受験生。31歳。原田と同期。

「完全…何て?聞いたこともないなぁ」
さすがは医学生。注目するのは病気の話だ。

心臓は主に肺で取り込んだ酸素を体全身に運搬する、いわばポンプのような働きをしている。健常人ならば右心室から肺に血液を送り、肺で酸素を取り込んで左心房に戻し、左心室から酸素を取り込んだ血液を体全身に運搬する。
だが、生まれつき左心室から出る大動脈と右心室から出る肺動脈が入れ替わってしまっていて、体循環と肺循環が別々に循環することで体全身に酸素を運搬できない病気、これが完全大血管転位症だ。

全身に酸素を運搬できないのは生まれつきの体の構造によるものなので、生まれてきてすぐに全身が酸素不足で青くなってしまう。これをチアノーゼというのだが、この状態をそのまま放っておくと確実に死んでしまう。そこでJatene手術という、大動脈と肺動脈を入れ換える手術を生後すぐに行うのだそうだ。

当時、小柳が説明してくれた内容に、僕が自分で調べた情報を付け加えて宮藤さんに簡単に説明する。ちょうど解剖実習で学んでいたので、宮藤さんの理解は早かった。

「へぇ…よう調べたなぁ」
「そんなにメジャーな病気でもないみたいですよ。五千人に一人くらいだって言ってました」
「その小柳いう子は、それで原田君に医学部目指そう言うたんやな。そっからどうなったんや?」
僕はそこからの話を続ける。

★★★

僕と小柳は平日は下校時刻ギリギリまで、土日も朝から夕方まで図書館で勉強を続け、帰りには小柳の医学雑学を聞くのが習慣になっていた。正直、最初は無理やり目指すことになっていた医学部だが、小柳の医学雑学を聞くにつれて、医学部への興味が出て来ていたし、目標があると頑張れるという小柳の主張は正しく、今まで以上に勉強に打ち込むようになっていた。

小柳の方も元々部活と両立しながらでも学年では中くらいの成績だったそうで、勉強一本になってからはぐんぐんと成績が上がり、得意の英語では学年の上位層に食い込んでいた。

そんなこんなで努力の甲斐もあって、冬の全国模試では二人とも地元の国立大学医学部の合格圏内に入ることができたのである。

★★★

「はぁ、やっぱ若いってすごいなぁ。俺なんて会社辞めてからさらに一年かけてもギリギリやったもん」
「そうだったんですか。でも宮藤さんもまだまだ若いですよ」
「え、ほんまに?」
本心からそう告げると、宮藤さんはかなり嬉しそうだ。
「それにしても、その小柳さんって子もまだ高校生やったんやろ?すごいいろいろよう知っとるよな」

★★★

実際、小柳の医学知識はすごかった。高校の生物や化学では絶対に習わないような細胞やら物質の名前まで知っていたし、それを僕に語れるくらいには理解していたのだ。最初は医学部なんて全く考えていなかった僕でも、医学って面白そうって思ってしまうほどだった。

「それでね、世界で初めて麻酔薬を見つけたのって日本人だったんだよ」
「それでね、お父さんがピロリ菌の除菌したんだけど…」
「それでね、医学部って偶数学年がしんどいんだって」

覚えているのは雑学系の話と、身内の話と、医学部についての話くらいなのだが、医学に関する話題が全く尽きなかった。聞けば親が医者とかそういうわけでもないらしい。

医学部に入ったら周りはこんな人たちばかりなのかと内心びくびくしていたが、それは杞憂だとこの時の僕はまだ知らない。そんな心配もあって、何度か僕は医学部には向いてないと言ったのだが、その度に、

「始める前から向いてるかどうかなんて分かんないよ、何事も挑戦」
と、小柳は諭すのだった。

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Danke schon
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114回医師国家試験合格しました。試験から発表までに書いてみた小説をアップしつつ、医学部、初期研修医に関する情報を発信しようと考えてます。 ※医学部、初期研修医に関する質問は受け付けますが、病気や健康等に関する質問・相談は受け付けません。
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