玄関のドアを開けると、火星人が立っていた。
「スープ、作りすぎたんでどうぞ」
彼か彼女かわからないが、そいつはそう言って鍋を差し出した。
「あ、ありがとうございます」
「鍋、今度でいいですから」
火星人はそう述べると、マンションの下に停めた宇宙船で帰っていった。
救世主だと思った。
ちょうど腹が減っていて、コンビニに行こうと思っていたけれど、金欠だったからだ。
それに、火星のスープなんて初めて飲む。
どんな味だろう。
ワクワクが止まらない。
しかし、鍋のなかには何も入っていなかった。
ドッキリか?
怪訝に思った俺は、くまなく鍋を見まわした。
すると得体の知れないなにかが、淵に焦げ付いていた。
ははーん。
持ってくる途中に蒸発してしまったんだな。
火星でスープ状態だったということは、より太陽に近い地球に持って来たら、気体になっちまう。
残念……。
嗅いでみると、マーズオニオンがほのかに香った。
それにジュピターキャロット、サタンパセリが焦げた形跡もある。
木星や土星の食材を使うとは、なかなかオシャレなスープじゃないか。
あゝ、飲んでみたかった……。
チン。
諦めてソファーで横になっていると、電子レンジが鳴った。
一週間前にもらった金星コロッケの解凍が、やっと終わったのだ。
金星人からカチコチの氷塊をもらったときは、何だかわからなかった。
そいつも金星から地球に持ってくるだけで氷と化したコロッケを見て、驚いていたなあ……。
「コロッケです、コロッケ。イタズラじゃないです」なんて、慌てふためいて、鼻から液体金属を流したりして。
まあ、これでなんとか食料にありつける。
俺はホクホクの金星コロッケを掴み、齧りついた。
ん?
味が薄い……。
ヴィーナスポテトそのまま、素材の味だ。
やはり海のない金星では、塩はとれないのだろう。
俺はアースソルトをふりかけ、ふたたび噛りついた。
美味い!
最高だ!
お腹が満たされていく。
やはり持つべきものは、とおく冥王星にいる親戚より、火星や金星の隣人だな。
面白いもの書きます!