見出し画像

ラーメン屋を始めて三ヶ月がたった。
常連も増えてきたのに、まさか隣にラーメン屋が出来るとは……。
しかも生意気に『町で一番うまい店』なんて書いてやがる。

これが俺の商売魂に火をつけた。
負けるわけにはいかないのだ。
俺はすぐさま『隣より美味い店』という看板を出してやった。
すると相手は『隣より安い店』と書き換えた。

なんて事をしやがる。

さらに驚いたのは、相手の看板に書いてあるメニューがうちと同じだったことだ。

スパイでも送り込んでるのか?
泥棒め!

俺はイチオシを醤油からトンコツに変えた。
すると隣の店もトンコツを推しはじめた。

味噌に変えると味噌になり、塩に変えると塩になった。
『自分』というものを持っていない恥ずかしい店め!

その頃からだろうか……。
レジの金が合わなくなったのは。
毎日一杯分だけ、誤差が出るのだ。

まさか、食い逃げ?
スパイに加えて食い逃げまでかますとは、いい根性してるじゃねぇか。

上等だ。
それなら俺も、食い逃げしてやろう。

俺は数日間、イメトレと逃げる練習を繰り返した。
ダッシュで逃げるより、しれっと店から出るほうが気がつかれなさそうだ。

機は熟した。
いざ、復讐の時。
麺はもちろん、汁まで飲み干して逃げてやる。

俺は勢いよく店内に入った。
もちろんオーダーは、最も高いものだ。

「全部のせ。
 追加トッピングでチャーシュー。
 麺は大盛り、硬め。
 油少なめ。
 辛ニンニクチャーハン。
 餃子二人前。
 ビール二瓶。
 早くもってこい!」
「お客さん」
「あ?」

「食券の購入お願いしまァす」

この記事が参加している募集

スキしてみて

面白いもの書きます!