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【空想取材】 街中に桜を 〜季節を操る男・剣持の挑戦と植物への想い〜

今回は『季節を操る男』の異名をもつ剣持崇(Kenmochi Takashi)に話を伺った。

マーケットに衝撃を与えた『スプリングラー』のリリース。男はどのようにして季節を操ることが可能になったのか。
原体験から着想、大切にしている考え方など多岐にわたって語ってくれた。一読の価値あり。
(※このインタビューはフィクションです)

植物はとても面白い

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(お気に入りの公園にて)

幼い頃から植物に興味があった剣持。高校卒業とともに庭師のもとに弟子入りした。

剣持「もともと植物が好きで、よく観察してたんです。完全に植物オタクでしたね。学校の花壇も、係じゃないのに勝手に世話してました。朝と放課後では、植物の見せる顔が全然違うんですよ。

高校の卒業式が終わったら、そのまま地元で有名な庭師に弟子入りしました。そこで当時のオヤカタに、庭園や植物のイロハを教わったんです」

技術はメキメキ上達し、クライアントの庭や地域の花壇のほか、植物園の手入れも任されていた。

剣持「植物は過保護すぎても、放置しすぎてもだめです。表情を見て水のやり方を変えてあげる。大切なのは気持ちですよね。愛情をもって接することが、植物の美しさを維持するうえで欠かせないポイントです。

やっぱり近所の小学生が写生してたり、カメラマンが写真を撮っている姿を見ると嬉しいですよ。植物と会話しながら行った地味な作業が、社会とつながった瞬間に思えるんです」

植物を通して地域や人々の暮らしを見つめてきた剣持。その延長線上には日本への愛があると言う。

剣持「最高の景色に出会えるんで、良い場所だなと思います。早春のスイセンに始まり、梅や桃。春になると桜、つづいてボタン・カキツバタ・藤・ツツジが咲き誇ります。梅雨のどんよりした時期にもアジサイが街を彩り、夏にはキキョウやハスが見られます。

秋になりヒガンバナ・コスモスが咲いたと思えば、イチョウの黄金色・モミジの燃えるような紅葉が美しさを競います。四季折々、楽しくない瞬間はないですね」

庭師としての経験値を積んだ剣持は、日本庭園の世界へ入る。そこで『庭×表現』のとりこになった。

剣持「高低差や奥行きをつけると、物語が生まれるんですよ。山の中に滝があり、水が流れて川となり、やがて海につながっていく。壮大ですよね。そんなストーリーを樹木・苔・石・砂利といった素材を使って表現するのは、最高に面白いです。

特に『枯山水』は砂利を使って海を表現する方法ですが、「砂紋」という文様を施すことで荒波やさざ波など、海の表情まで奥深く表すことができます。本当に上手くいったときは、魚まで見えた気になるんですよ」

日本庭園の基礎を学んだあと、剣持は表現者としての豊かな感受性を発揮し始める。T-1(庭園ワングランプリ)の自由表現の部での、大賞受賞に輝いたのは記憶に新しい。

剣持「基本的に日本庭園はオーダーメイドで作ります。しかし少子高齢化で空き家が増え、そこを購入した方たちは庭園に詳しくないので、『お任せで』と言われる機会も多いんです。

その中のお客さんでひとり、軍事マニアの方がいました。彼を喜ばせようと大きな石で戦艦大和、小さな石で零戦を表現するなど、『大日本帝園』を作ったんですね。それはかなり気に入ってもらいました。まさか賞を頂けるとは思わなかったですけど(笑)」

違和感に気づき、深掘りせよ

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(スプリングラーを手入れする剣持)

独立した剣持は、手入れを担当していたゴルフ場で不思議な光景と出会う。それがスプリングラーの発明につながっていた。

剣持「ゴルフ場の手入れを頼まれたのは、12月でした。そこで異様な光景を目にしたんです。それは身が締まる寒さにも関わらず、咲いていた菜の花。近づいてみるとツクシやヨモギも生えていて、その中心にはスプリンクラーがあり、水が巻かれていました。普段と違う光景に出会ったときの違和感は大切にしないといけないですね」

それから一年間、ゴルフ場の整備を担当していたが、菜の花が枯れることはなかったと言う。

剣持「オーナーに聞いてみても、枯れない原因はわからないと言うんです。そこで土壌、またはスプリンクラーに秘密があると思い、調べてみました。大学で生物学の助教授をしている友人がいたので、手伝ってもらったんです。

すると、スプリンクラーが巻く水の中に『春のエキス』のようなものが入っていることがわかりました。成分は種子から出る汁などでした。残りは企業秘密です(笑)それを常時、適温で巻くことによって、一帯がずっと春になっていたんです。初めは信じられませんでしたが、ゴルフ場に戻って桜の枝を投げ込んでみると見事に咲いたので、これは間違いないなと」

それから剣持の実験の日々は続いた。

剣持「色々な四季のエキスを作って、水を浴びせていれば、春夏秋冬、全ての季節を演出することができるようになりました。スプリンクラーもより大きなものを作り、広範囲に欲しい季節を届けることができるようになりました」

マーケティングに忠実に

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(剣持が咲かせた桜)

ゴルフ場での発見から2年、ついに商品化することにした剣持。まずは定量定性調査を行い、マーケットの熟知に務めた。

剣持「いや〜みんな春好きっすね(笑)数値上のデータもダントツで春、見込みユーザーの意見も季節をひとつ選ぶなら春だと。

とくに『一年中、桜が見たい』という声が多かったですね。確かに咲いている期間があまりにも短いし、雨が降ったら散るし、気持ちはわかります」

予算の兼ね合いで、まずは春を演出できるスプリンクラーだけを販売することにした剣持。商品名もわかりやすく『スプリング(spring=春)ラー』に決めた。

剣持「スプリングラーは機械部分に液体を注入して散布させますが、機械部分は無料にしました。僕としてはまずは多くの人に使っていただき、広めてもらうことが大事だったんで。

液体部分は『半径50cmの円・1ヶ月分』を末端単位に、サブスクリプションモデルで販売を開始しました。そのほうが長く使ってもらえると思ったし、植物にも優しいと思ったんです」

発売したのが12月だったこともあり、春を待つユーザーからたくさんの注文が殺到した。町を歩いて、自分の商品を目にした時は喜んだと言う。

剣持「ポツポツと普段とおる道沿いの家の庭に、桜や菜の花を見るようになったんです。僕を知らない人が使ってくれているというのは、認められた気がしましたね。のぞき込むと、野良猫が水浴びしていたりして。ポカポカしてるので居心地は良いですよね。

僕としては主にお年寄りや年配の方に刺さるように、新聞の折り込みに大きな文字と写真で広告を入れました。でもそれより口コミの力が強いと思います。やっぱり信用できる人から聞いた話の方が、企業の言葉よりは力ありますよ」

盲点にやられた経験とこれから

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(高校時代から使っている愛用工具と一緒に)

スプリングラーのリリースは人々にほのかな幸せを与えた。春になると売り上げは落ち込んだが、夏には回復し、あちこちで『夏桜』が見られた。

その活躍はやがて隣町である春風市の市長の耳にも入る。それが剣持の転機となった。

剣持「政治には疎かったんですが、市長を調べてみたら、なんと最初に弟子入りしたオヤカタだったんです。当時から人望のある人でしたから市長になるのは理解できたし、再び一緒に仕事できるのは嬉しかったですね。

それにしても、公的なプロジェクトに参加できるとは思いませんでした」

剣持の家のビニールハウスに視察に訪れ、再会を果たした二人。ここで壮大な計画を告げられた。

剣持「『街中に桜を!』なんて聞いたときにはドキドキしましたよ。でもまあ、市の名前も春風だからこれも運命なのかなと。

そこで綿密に計画をたて、『一年中桜の咲く街“はるかぜ”』とキャッチコピーを決め、政策コンサルと相談しながら、観光客を呼び込む施策を打っていきました」

市内でムーブメントを起こして住民投票を開催し、見事に勝利。そのあと大変だった法整備を乗り越え、実現に至ったと言う。

剣持「鉄工所に受注して巨大スプリングラーを製造し、計画の日は1月の第3日曜日の夜に決まりました。

当日はリアルタイムカメラで市内を見ながら、巨大散水機で“春の雨”を降らせました。そして夜が明けると、少し積もっていた雪は溶け、見事に市内中に桜が咲いていたんです」

一月に咲いた桜。ポカポカした陽気に包まれた市内。人々は喜ぶと思いきや、すぐに問題が発覚した。

剣持「スプリングラーは植物を咲かせるだけでなく、時間も春にするものだったんです。だから春の雨を浴びた人の季節感覚が、春になってしまいました。小さい範囲で散水していたときには、そんなこと考えもしませんでしたね。

学校では知らない間に卒業していた三年生があらわれ、会社には見たこともない新入社員がいると大騒ぎ。露出狂もあらわれ、市内中がパニックに陥ってしまいました」

すぐさま謝罪会見を開いた剣持と市長。しかし春の雨を浴びたマスコミから厳しい質問が飛んだ。

剣持「記者も感覚が4〜5月になってますから、『市長の任期は終わっている、新しい市長を出せ!』と言い続けるんですよ。もちろん説明しても伝わるわけもなく……。そして彼らは声が大きいんです。本当に辞任に追い込まれないよう、バランスよくガス抜きしながら待つしかないですね」

問題が起こりそうな予感は前々からあったと言う。

剣持「風物詩、四季がみせる刹那の光景、それを自由に操っていいのかという葛藤は常にありました。だって自然とともに生きてきた日本人にとって、自然を研究対象として捉え、手を加えるって、摂理に背いているように思えたんです。やっぱり神様やお天道様が許してくれなかったですね(笑)

まあでも誰もやったことないことに挑戦しているわけですから、盲点が出るのは仕方ないです。ただスプリングラーは技術的には素晴らしいものだと思うので、これからもリスクヘッジしながら挑戦を続けます。植物への愛とともに」

スプリングラーの開発とともに成功と失敗を経験した剣持。これからも自然とともに生きながら、世の中に幸せを届けるため歩み続ける。

取材:ファビアン
model by OZPA(ぱくたそ)
※このインタビューはフィクションです

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