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提出ギリギリまでもう無理かもしれないと思っていたHCD専門家に合格した話

提出期限2020年1月20日 17:00PMの7分前に駆け込みで提出した、2019年度 人間中心設計(HCD)専門家にどうにか1発で合格した。

まずは謝辞から述べるが、合格の最大の要因は一緒にプロジェクトを回してくださったフェンリルのメンバー、前職のメンバー各位、そして全然コンピタンスが書き終わらずへこたれまくっていた私を励ましご指導くださった前部門の上長のおかげである。心から感謝をお伝えしたい。

この記事は、こういうコンピタンスを書いたから合格したよ、という記事ではない。こんな失敗しないようにちゃんと準備しようねという注意喚起である。来年以降に受験を考えている方たちの参考になれば幸いだ。

人間中心設計(HCD)専門家 資格認定制度とは

【応募資格】
人間中心設計専門家(認定HCD専門家)
ユーザビリティ、人間中心設計(HCD)、UXデザイン、サービスデザインに関わる実務経験5年以上。
HCDの視点でプロジェクトマネジメント経験あるいはHCDの組織導入経験があること。
専門能力を実証するための実践事例が3つ以上あること。

人間中心設計スペシャリスト(認定HCDスペシャリスト)
ユーザビリティ、人間中心設計(HCD)、UXデザイン、サービスデザインに関わる実務経験2年以上。
専門能力を実証するための実践事例が3つ以上あること。
1. 認定制度設立の趣旨
人間中心設計(HCD)専門家制度は、人間中心設計推進機構(HCD-Net)が実施する専門家認定制度で、趣旨は次の通りです。

●人間中心設計(HCD)活動の「領域」や「役割」を明確化します
●人間中心設計(HCD)活動の「活性化」を目指します

2. 認定制度設立ねらい
本制度のねらいには、次のような観点があります。

1) 商品やシステム開発における人間中心設計プロセスを実践できる専門家を認定する仕組みを確立します。使いにくい商品やシステムは、まだまだたくさんあります。これらの商品群に対するHCD的活動を推進するための「専門家」が必要です。

2) HCD専門家に必要とされる「知識」や「能力」を明らかにします。
HCD専門家の「コンピタンス」を明らかにして、そのような能力を満たしている人を認定します。

3) HCD専門家としての専門性を高めたい人に対して活動目標を明らかにします。HCD専門家のコンピタンスはどのようにすれば学習できるのか、
どのような学問を学習して実践すれば良いか、という目標を示します。

4) HCD専門家に作業を依頼したい等、専門家を活用したい人への啓蒙を実践します。HCD専門家の存在を認識した人達が、そのような作業を誰にどうやって依頼すればよいのかを示します。

ざくっとまとめるとHCD専門家に出願するには、最低でも5年以上のキャリアと3件以上の案件運用経験および組織運営経験が必要で、人間中心設計のプロセスを「コンピタンス」として文章で記述して証明しなければならない。

詳しくはHCD-Netの応募要領を参照して欲しい。

HCDプロセスとは
HCD(Human Cetered Design)
インタラクティブシステムを使いやすくするためにユーザーのユーザの立場や視点に立って設計を行うこと。その設計を行う際のプロセスが重要とされている

HCDプロセス図

(HCDプロセスの計画図)


人間中心設計専門家を目指すなら今年の夏からはじめろ

結論から言うと、本当に夏ぐらいから準備しておいたほうがいいと思う。そうでないと、私のように本当に提出1分前までコンピタンスを埋めまくる羽目になりかねない。

今年の応募要領を見ていただくとわかるが、専門家を出願するにはプロジェクト記述書+コンピタンス記述書を埋める必要がある。プロジェクトは最低3件、しかし書いていくとわかるが専門家であれば5プロジェクトを全て埋めないとコンピタンス記述書の要項を満たすのはかなり厳しいはずだ。

1プロジェクトのコンピタンスがB1〜3、A1〜13、C1~4、採点に関係ないという噂だがL1〜3、全66カラム。これを1カラム500文字以内、最大5件で記述する必要がある。

単純に計算して
66カラム×500文字×5プロジェクト=165,000文字

お分かりいただけただろうか。そこいらの小説なんか目じゃないレベルの、信じられないほどの文字数を書く必要があるのだ。

さらに記述していくと分かるのだが、目的と課題、役割と実施能力の証明、結果とフィードバックや成果などを各コンピタンスで破綻なく書く必要があるし、各コンピタンスは密接に関係していて、こちらも破綻なく書かなければならない。

例えば、【A10】:デザイン仕様作成能力(基本コンピタンス)の設問。

A10.デザイン仕様作成能力(基本コンピタンス)
要求仕様やシステム要求仕様に沿った適切な製品・システム・サービスをデザイン・設計でき、仕様あるいは実体として表現(視覚化)できる能力のこと
*デザイン対象となるものとしては、インタフェース、画面遷移、UIガイドラインなどがある
*ユーザビリティ(製品品質)やユーザエクスペリエンス(利用時の品質)の高い製品・サービスの具現化にとどまらず、具現化に合わせたプレゼンテーション・資料化・改善案の提示などが期待される

例:インタフェース仕様書、ワイヤーフレーム、UIガイドライン、デザインシステム
設問(1)
デザイン仕様作成の対象を明示し、具現化のプロセスを記入してください。

これを記述するには以下のプロセスを実施してなければいけないし、それを文字で書き表さないといけない。1プロセスの1項目を埋めるために必要な要素はコンピタンスによって増減があるが、実際に私が記述した例から必要な要素を書き出してみるとこんな形だ。

【A10】プロセスの設問(1)の証明に必要な要素や記述内容

1.  【A8】製品・システム・サービスの要求仕様作成能力で仕様を作成して適切に一覧表を作りワイヤーを作る
2.  1.を利用し【A12】ユーザーによる評価実施能力で受容性評価とユーザビリティテストをして確認
3.  1.や2.の結果から【A9】情報構造の設計能力の命名規則リストを作成して共通コンポーネントを作成
4. 上記から【A10】デザイン仕様作成能力(このプロジェクトの場合はデザインシステム構築を証明)をどうやって具現化したか書く

【A10】を証明しようとすると、【A8】【A9】【A12】が密接に絡み、これをプロセスの一部として活用した結果や具体例、工夫などを書かねばならない。さらに言うと、別のコンピタンス【A12】を記述する時にも、【A8】【A9】【A10】【A11】がプロセスの一部で活用した目的、具体例、工夫、結果がリンクしている必要がある。

HCDプロセス図にあるとおり、現状の理解と把握→ユーザ要求の明確化→設計による解決→要求に対する評価↩(理解と把握に戻る)という流れがあるはずで、1コンピタンスを書くと他のコンピタンスに影響する。実際コンピタンスへの影響を理解していないと、結局どのコンピタンスも埋められない。

提出ギリギリになってくると合格のために必要十分なコンピタンスにあえて絞るということもとても重要なのだが、他コンピタンスの要素を書き足したり削ったり見直したりに膨大な時間を取られる。余裕を持ちたいなら、このチェックだけに2〜3日は確保したいレベルで大変な作業だ。

何度も書くが、5プロジェクトを全部記述するならば66カラムある。記述、見直し、記述、見直し、削る、見直し…の繰り返しを行うことを考え、逆算してスケジュールを立てることをオススメする。

まずは過去のコンピタンス記述書を埋めてみよう

スケジュールを立てろと言われてもと思われるかもしれないが、HCD資格は比較的スケジュールの立てやすい資格だと思う。例年11月末頃に応募要項が発表され、応募締め切りが12月20日前後、提出期限が1月20前後が多いようなので、出願まで1ヶ月あるから余裕だと感じる人もいるかもしれないが、実際は業務と並行しながらだとかなりしんどい。では土日祝で…という話になるが、だいたい書きはじめると「あれ、このプロジェクトだけだと予定のコンピタンスが埋められない…?」という状況が出てくる。

文字数や文章力だけの問題ではなく、出願書類を書くにはプロジェクト数やプロジェクト経験が足りないなどが発生する。締め切り直前にこうなってしまった場合、お金を振り込もうが何しようがそもそも出願の記述ができない。これが夏ぐらいからやっておけという根拠である。

出願書類のシートの中にプロジェクト整理シートというのがある。最低限、夏くらいにはこれを埋めておいて、自分が出願するのに足りるようにプロジェクトにアサインしてもらうとか、プロセスの流れで足りない要素を洗い出すなど十分巻き返せる。正直、先にこれだけしておくだけでも、コンピタンスの流れが分かるようになるのでオススメだ。プロジェクト整理シートが埋まったら、どんどんコンピタンス記述書を埋めてみよう。これであなたも合格に大きく1歩近づいたはずだ。

2019年度の出願書類は今でもダウンロードできる。

理解度と解像度が格段にあがる

なぜHCDプロセスを行うのか。それはHCDプロセスを使えば、確実にユーザーとその要求を明確になり、そのユーザー要求に合ったものが設計できる。それによりユーザー満足度も格段にあがるだけでなく、クライアントワークであれば、クライアントとの共通言語ができ、認識ズレを防いだり説得材料になるからだ。

私自身の経験で言うと、コンピタンスを全部を通して記入してみて痛感したが、プロジェクトに対する解像度がハンパなくあがる。むしろ今まで全然理解できていないまま案件を回していたんじゃないの?と思うレベルだ。

HCDに応募する気はないし…という方も多いかも知れない。しかし少しでも人間中心設計(HCD)に興味がある人は、運営しているプロジェクトのコンピタンスをA1〜A13までだけでいいので記入してみて欲しい。

プロジェクトの中で自分の足りない要素やプロジェクトやプロセスの流れを把握しているか否かが合否を分ける。そもそもプロセスへの理解度が高くなければ記述ができず、さらに解像度が高くなければ、プロジェクトのポイントが書き分けられない。

社内外でHCD専門家の方と話す機会も多くHCDの査読の話も良く聞くのだが、一番多くて読む前から落としたくなるのが全プロジェクト通して形式をコピペでちょっとだけ内容を変えたものらしい。本当に自分でやったの?という気持ちなってしまうようだ。コピペでは理解度も解像度も高くないと判断されしまうため当然非合格へまっしぐらである。せっかく結構な金額(2019年度は12,000円)を払って受験するのだ、プロジェクト整理シートから手を付けてコピペではない工夫や実績に満ちたコンピタンス記述書を書いて欲しいと思う。

まとめ

正直、1発合格は本当にまぐれじゃないかと思ったぐらい、ギリギリだった。これでも12月半ばから記述をはじめたのだが、提出の3日前の土曜日には3プロジェクトのA1〜A13すら完全に埋められておらずほぼ3徹したし、B, Cを埋めてから通しで破綻がないかを確認するのを提出の30分前までやって書き直していた。性格上ギリギリになったらテンパるのでGoogleスプレッドシートを送るための文面は締め切り当日の朝に書いておいて本当に良かったと思った。

こんな目に合わないためにも、受験を考えている人は余裕を持って、ぜひ夏から準備しておこう。

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