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残したノートのはじっこで。 (1/3)

野田浩平著『残したノートのはじっこで。』お題//テキトーなタイトルを置いたら誰かが引用RTで内容を書いてくれる
お題//関口理恵著 『残したノートのはじっこで』
お題作者//あったらノベルズ様  内容製作者//松本福広


僕は子どもの頃から、王道のファンタジーものが好きだった。
悪事を働く魔王を倒すために勇者が冒険に出る。仲間と助け合って色んなピンチを切り抜ける。最後は皆で力をあわせて魔王を倒す。そんな定番のストーリー。
RPGゲームも好きだった。友達とどこまで進んだとか、シナリオの感想だとか、あのアイテムが手にいれにくかったとか、そんな話をいつもしていた。
ある日、いつものメンバーと「勇者が魔王を倒した後はどうなるんだろう?」というエンディング後にどんな世界になったか想像を膨らませていた。
友達は皆ハッピーエンドを想像していた。勇者がお姫様と結婚し、国の英雄ともてはやされ幸せな生涯を暮らす。仲間たちもそれぞれ幸せをつかみ、皆いつまでも幸せな大団円。
僕は腑に落ちないことがあり、友達に聞いてみた。
「でも、本当に『いつまでも』幸せだったのかな?」
僕は素朴な疑問を口にして、続ける。
「だって、昨日テレビのノンフィクションで見たんだけど、戦争に行った兵士はトラウマを抱くっていうじゃないか?」
僕が見たノンフィクションでは戦場での殺人の記憶。仲間たちの死。自身の行いへの後悔。敵を多く殺せば褒めたたえられる……平和な国に住む戦争を知らない僕らから見たら異常な環境。
その言葉にできない環境に置かれた兵士は、退役後にも当時の記憶がフラッシュバックし、心身を病んでしまう。そんな内容だった。
「勇者と魔王の戦いって世界をかけた『戦争』で。勇者たちは魔物を。魔王たちは人を殺し続ける環境なんだよね? それはトラウマにならないのかな?」
『優しい』と言われる人たちが、他の生き物を、同じ人の形をした生き物たちを殺し続ける。その環境に心を痛めないでいられるのだろうか?
僕のそんな疑問に皆が答えられないでいると
「なんの話をしているの?」と割って入ってくる声があった。
微笑み柔らかな声で声をかけてきたのは、同じクラスメートの上野裕一だった。
上野はいわゆる勉強も運動もできる優等生だった。誰にも隔てなく接することができる出来た子ども。
対して、僕は運動も勉強もできない漫画とゲームだけが好きな何のとりえもない子ども。
上野と比べてしまうと見劣りするような感じがあって、僕は劣等感を刺激されるようで、上野のことは正直苦手だった。
他の友達が手短に今までの話を要約して、僕の疑問について上野に話してくれた。
「へぇー。野田くんの着眼点は面白いね。後でちょっといい?」
上野は放課後に図書室で会いたい旨を告げる。特に用事もなかった僕は承諾した。
他の友達はたいして親しくもない、優等生の上野に気後れしたのか、僕以外は、放課後になると蜘蛛の子が散らばるように帰っていった。正直薄情な奴らだとは思った。
でも、上野が僕に何か害を与えてくるような人間でないことも分かってはいるつもりだ。評判とか、普段の人当たりから察してはいた。実際に声をかけられた時も悪い印象はなかった。
でも、普段話をしない人間と、初めて自ら入る図書室に緊張していた。僕は勉強も本も好きでないので、自ら図書室に行こうとしたことはなかった。
朝読書の時間なんかは、親が買ってきた学習漫画のようなものを読んでいたりしていた。文字だけの本というのは読んだことがなかったので、図書室に寄ったこともないままだった。自主学習も今はスマホでどうにかなってしまうし。
図書室に入ると、座っていた上野がこちらを向き、にこやかに手を振ってきた。僕は振り返すこともなく、口をキュッとしめて、黙って上野の前に座る。
「そんなに緊張しないでよ」と上野に気を遣われる。
「それで何の用があるの?」僕はぶっきらぼうに返す。
「あぁ。僕ね。ネットで小説を書きたいんだ」
「小説?」あー、あの文字ばっかりのやつね。
「そう。ファンタジーを書きたいんだ。」
上野は昔から本が好きで、将来は小説家になりたいと話す。希望あるストーリー、優しい結末で綴られるストーリーで、人々に楽しんでもらいたい。生きる糧になってほしいのだと。
文字の力は救える人が多いはずだと彼は語った。
まずは、その最初と作品としてファンタジーを書きたいのだと。ファンタジーは起承転結とか主人公の目的が明確になりやすいジャンルで、世界観の設定が作者に大きく委ねられるからと。
そして、ジャンルそのものに夢と希望が詰まっていると話した。
「でも、上野君。ファンタジー読んでいるのを見たことないよね」
そう。見る度に読む本が彼は違っている。文学作品だったり、推理小説だったり、エッセイだったり。
「うん。それはね。リアリティを追求したいんだ」
「リアリティ?」
「うん。世界観にしろ、キャラクターの設定にしろ、キャラ同士の恋愛描写にしろ……その登場人物へのリアリティ。その世界へのリアリティが欲しいんだ。
そのためにはいろんな本を読んで、その実態とか知識、表現を知っていく必要がある。リアリティも追及して、作品としての説得力、血肉を通わせるような完成度を高めたいんだ。
例えば、敵を倒すとき、奇跡の力だとか、新技で打破していくだけの展開じゃ飽きるし、僕なら白けてしまうしね。まぁ、見せ方の問題もあるけど」
僕は作品が楽しければいいので、そこまでは思っていない。いわゆる、とんでも理論も楽しんで読めるタイプなので「そうなんだね」とだけの返事になってしまう。
「で、それで何でそれを僕に話したの?」そこに繋がる理由が分からない。
「ああ。それはね、さっきでの教室での君の意見が面白かったからだよ。軍兵のPTSDの話から、あんな感想がでてくるのは、君に想像力があるからだと思う。
そんな君に小説の設定を一緒に考えてほしいし、僕が書く小説の感想だとか、疑問に思う部分があったら指摘してほしい」
「そうなんだね。でも、僕、小説とか文字ばかりの本はあまり読んだことがないから役に立てるかは……」
「素朴な疑問でいいんだよ。そうだね。例えば、ひねった設定にしたいんだけど。勇者はどんな感じがいいかな?」
「……うんー……RPGだと勇者は雷や聖とか光ってイメージだから、反対に闇属性とか?」
「いいね。そう、そういう言葉が欲しいんだよ」にんまりと上野が答えた。


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