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街クジラ3

街クジラ。
なんでそう呼ばれているかは分からない。
呼び始めた人は
もういないし。
その人のことは
地域史にも書かれていない。
ただ言葉だけが伝わっている。
形もクジラっぽくない
それは街クジラと呼ばれている。

ごくたまに潮吹けば
街を覆い尽くすように
肺とか土砂とか
撒き散らしたり
飛散はせたり
限りなく街は
ゼロになっていく。
思い出なんて無機質に放棄され
見なかった景色を作る。
落日する茜に染められ
破滅の光線を描く。
希望はイプシロン。
手の中にしか残されていない。

再生していく街。
手の中にあった希望は
羽ばたかず
まだ手のひらにある。
ピィっと小さな鳴き声あげる
小鳥のように。
加水された温泉に温まるクジラのオモチャ。
育った野菜はクジラの下で育った子らに
食べられる。

再生した街でも変わらず
街クジラと呼ばれている。
かつて悲しい流線を放射したのに。
共存していくことを選んだ諦観か。

答えは分からないまま
クジラのふりをする素振りもせず
そう呼ばれている。
灰は灰になる。
いつかは名前も灰塵に散るのだろうか。
街クジラの線をなぞって
翠の絵を描く。
次の潮吹きへの
シグナルの点火を待っている。

#シロクマ文芸部
#詩
#散文詩

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