見出し画像

フィールドワーク

野呂亮は夏季休暇中の集中講義を2つとっていた。
1つは喜田さんと羊くんの3人で受講するらしい。もう1つは1人で受講するとのこと。
興奮社会学とか訳が分からない名前の講義だった。
単位を取得するためにフィールドワークをレポートとして提出するらしい。フィールドワークのテーマは自分が興奮することなら何でも可……という、やっぱり訳が分からないテーマだった。
そんな自由研究じみた理由で野呂亮と街に来ているのだけど……。

「こんにちは!」
野呂亮が普段出さない快活な声。振り向く女性。
「ここら辺でペンギン見ませんでしたか?」
野呂亮からそそくさと逃げる女性。
「何してんの?野呂亮君」
いや、理由は聞いたし、一部始終は見ていたけど、やっぱり訳が分からない。
「チャーミー……もう3度目だぞ。『ペンギン見ませんでしたか?』のナンパは有効かどうか?を検討しているんじゃないか」
ダメだ。やっぱり訳わからない。
「ペンギン見ましたか?って何??」
「昔、流行ったらしいナンパのテクニックだよ。令和女子にいけそうじゃん⭐︎」
「なんか、フィールドワークをレポート提出うんぬん言ってなかった?」
「だから、やっているじゃないか?」
「何を?」
「このナンパ方法が有効か検討する。その結果をレポート提出する。女の子をお持ち帰り出来たら、それでよし。完璧なプラン」
ね?訳わからないでしょ?
「それで単位もらえるの?」
「僕が興奮することを街中で調査している。なにがおかしい?」
「全部?」
「何が『全部』だよ!?」
あー、面倒くさくなってきた。
「面倒くさいから帰っていい?」
「帰れ、帰れ。僕は明日の朝まで帰らないかもだけど。グフフ」
月あたりに送られないかなー。竹取物語を思い出しながら、空に浮かぶ白い月を見る。
無理か。月の方をもいらないだろ。
「あ、そうですか。じゃあ、頑張ってください」
もう心底どうでもいいので、野呂亮を置いて帰ってきた。

最近まで喜多さんと神経ギリギリ削られてきたけど……喜多さんと野呂亮は本当に友達同士なんだろうか?そこから疑問になってきたぞ?

宣言通り、野呂亮が朝帰りしてきた。衣類をボロボロに汚しながら。
あんまり上手くいかなくって、酒飲んで、酔い潰れて、野宿したらしい……本当なんなの?こいつ。
レポートは夏の一晩を野宿した体験を薄く薄く引き伸ばして規定枚数に達したものを提出して単位をもらったらしい。

2024 文披31題 day21 自由研究

後書き
最後のオチは松本も学生の頃はうっすく引き伸ばした文章を得意としていました。
西洋哲学における中世の特徴を述べよ。という問題にあたった際には、
時代区分の視点をどこに置くか?そこの定義をまず定めたい。うんたらかんたら。うんたらかんたら。定めたところで、その範囲も諸説あるのが一般的だろう。うんたらかんたら。うんたらかんたら。みたいな屁理屈を捏ね回して、A4用紙一枚をびっちり埋めた際は「俺、すげーな」と当時は思いましたが、先生が優しかったのでしょう。
インドカレー屋でナンを頼まれてドーサ(パンとクレープくらいの違いね)を出すようなもん……どーでもよくなったのもしれません。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?