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かつて地球にいた生き物たち


空中棲息生物クリッターの話をします。

空中棲息生物クリッター。空想特撮ドラマ「ウルトラマンティガ」に登場する、電離層(オゾン層より上。紫外線やX線で大気分子が電離し、プラズマ化している領域)に棲息しているクリオネみたいな小さな生物。
「ティガ」の説明も? 21世紀初頭、人類は戦争をやめ、世界中の核兵器も廃絶され、ようやく平和になってきた時代。人類は地球平和連合・TPCを中心とし、宇宙へ進出しようとしていた。そんな折に怪獣がでてきたり、変な予言カプセルが降ってきたりしてさーたいへん! そこへ超古代の光の巨人が復活! てな話。こんな怪文書読むひまがあるなら本編を見てね。配信はないのでビデオで借りるのだ。

第6話「セカンド・コンタクト」。奇妙な黒雲を調査していた、ミズノ博士の乗った探査機が消息を絶った。黒雲は繭のように姿を変え、日本へ向かってくる。TPCの特捜チーム「GUTS」が出撃する一方、GUTSのメカニック・科学分析担当のホリイ隊員は黒雲の解析に取り掛かる。ホリイ隊員の恩師・ミズノ博士は、あの黒雲を空中棲息生物クリッターの巣だという仮説を立てていたのだ。果たして、黒雲の内部には巨大な生体反応。そしてバラバラになった金属反応。探査機フィンチの破片だった。
繭は市街地に落下し、中からエイのようなペンギンのような怪獣が出現し、暴れはじめた。

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こんな顔。デザイナーの丸山浩氏曰く「カワイイペンギンさん。またはカワイイダンテ(笑)」とのこと。ダンテは永井豪の魔王ダンテ。

クリッターは、人間の出す大量の電波の影響で変異し、変形怪獣ガゾートとなっていたのだ。不気味な赤子の泣き声のようなガゾートの鳴き声を、ホリイ隊員はサウンドトランスレーターにかける。これがまた便利な万能翻訳機で、地球上の言語ならなんでも翻訳してしまうすごい代物なのだ。
地球上の言語ならなんでも。なんかヤな予感。

ガゾートの第一声、「オイシソウ」

ホリイ隊員はサウンドトランスレーターを抱えて現場へ向かう。言葉が通じるのなら、コミュニケーションが可能かもしれない。争いを避けられるかもしれない。人間はクリッターを怪獣に変えてしまい、ガゾートは人間を襲った。最悪のファーストコンタクト、それでも。同じ地球に生きる生命体とのセカンド・コンタクト、ミズノ博士の悲願だったクリッターとの対話の可能性を信じ、ホリイ隊員はガゾートと向かい合う。

ホリイ「僕ら、君の敵やない、友達や!」
ガゾート「トモダチ?」
ホリイ「そうや!僕も君も、この星の同じ仲間や!」

言葉は通じた。クリッターは、人間とのコミュニケーションが可能な知的生命体だった。
しかし、理解し合えるかどうかは、また別の問題。

トモダチハ ゴチソウ
トモダチハ ガゾートノ タベモノ!

電離層という極限環境に棲息するクリッターは、その空域における唯一の生物、つまり同種のクリッターを捕食して生きてきた。恒常的に共食いをする習性がある彼らにとって「トモダチ」とは「捕食し合う相手」を意味する。
彼らは最初から、人類に「友好的」だった。
「トモダチ」と言いながら、大口をあけて向かってくるガゾートに、GUTSは攻撃を開始する。GUTSハイパー(GUTS隊標準装備の、銃)の空薬莢がカランと落ちるシーンを、なぜか今でも鮮明に覚えている。そしてガゾートが光球を吐こうとした瞬間、ウルトラマンティガが間一髪助けに来る。その後はティガが齧られたり(ティガもトモダチ認定された)なんやかんやあって、最後はティガ・スカイタイプの必殺技ランバルト光弾で爆発、したかと思いきや。ガゾートは元のクリッターの姿に戻って、キラキラ光りながら空へ昇っていった。「天使、みたい」と、ぽつりとつぶやくレナ隊員の生気の抜けたような声も、不思議と印象に残っている。

こうしてクリッターは空へ帰っていったのでした。

人間を食う怪獣は数多い。ただ、クリッターの場合は、人間を捕食するのは敵意からではない。単なる食欲や善悪の問題ですらない。彼らにとってはそれが親愛の証であり、生物としての生態なのだ。
会話は可能だが話が通じない。全く異なるロジックをもつこの生物種の存在は、私に強烈な印象を与えた。異文化交流の難しさとか、相互理解の困難さとか、(そもそも他者どうしが本当の意味で理解し合う事なんて有り得るのか?とかとか)それはそれとして。
地球上に、人間とは全く異なる常識、価値観のもとに生きている生命が存在すること自体に、ものすごい魅力を感じたのだ。全く異なる在り方をする未知の生物が、地球のどこかに生きている。そう想像できるだけで心惹かれた。思えばそれが私の異類への関心の原体験だったのかも。異類。……本来的に他者は別の生き物で、それぞれがそれぞれの生き方をしていて、そして他者とかかわりあうというのは、お互いの在り方に対して取り返しのつかない侵食をしていく行為……。?

何の話でしたっけ。親愛感情の結果としての行為が「捕食」になる論理構造が非常にエロいって話?

それはさておき、これ以後もクリッターやガゾートによる航空機被害は続く。クリッターは相変わらず空にいるし、人間は相変わらず電波を空に流しているから。GUTSのシンジョウ隊員の妹・マユミの婚約者も犠牲になった(第15話「幻の疾走」これも名エピソードだから見るのだ)。そしてTPCは、ついにクリッター殲滅作戦を発動する。
クリッターを怪獣に変えたのは、人間の出す電磁波だ。何か対策できないか考えて考えて、考えぬいた結果、考えるのをやめた。人間の文明にとって、電磁波はもはや止められるものではない。そう語るのは、ほかならぬ、ホリイ隊員だ。
そして、根本的にロジックが異なる以上、対話での解決も不可能だ。現実に起きている被害と、犠牲は、直視すべき問題だった。人間を食う怪物と、共存はできない。
折しも地上には、全く無関係の甲獣ジョバリエ(カミキリムシみたい。地味に強い)が出現し、TPCは総力を挙げての決戦に臨んだ。怪獣を一撃で粉砕する兵器を装備する、GUTSの巨大戦艦や戦闘機の部隊がクリッターの巣へと出撃し、地上ではジョバリエとTPC地上部隊の交戦が始まった。住宅街の真ん中で、戦車の砲塔が火を噴く。自動地雷がさく裂する。機銃掃射の音が響く。キャタピラが草花を踏みつぶしながら進んでいく。曳光弾の弾幕が夜空を焦がす。怪獣の放つ電撃が戦車を吹き飛ばす。負傷者を搬送する救護機が木っ端微塵に砕け散る。無線越しに悲鳴が、断末魔が聞こえてくる。

TPC、地球平和連合。

この世界の人類は、一度は地球上からすべての戦争兵器を廃絶し、防衛軍すらも解体し、平和な世界を実現させているのだ。その結果……第一話、怪獣の侵攻に対し、非武装のGUTSは無力だった。信号弾しか撃つものがなかったGUTSとTPCは、再武装を決断した。怪獣や侵略者から人々を、地球を守るため、GUTSはさらなる力を求めた。答えのない問いと、終わりのない自己矛盾を抱えながら、それでも――。

ウルトラマンティガ第28話。本編で唯一、ティガの名前を叫びながらの変身が見られるこのエピソードのタイトルは、「うたかたの・・・」という。
ジョバリエを倒し、朝焼けの空を見上げるティガ。その空の向こうでは人間が、共存できない異質な者たちに銃口を向けていた。そして。


結果として、クリッター殲滅作戦は失敗に終わった。
世界中のクリッターの巣が上昇し、そのまま大気圏を離脱していったのだ。

レナ「戻ってはこないわ、二度と。クリッターのほうが地球に……、ううん、私たちに愛想つかして出ていくんですもの」

こうして空中棲息生物クリッターは、地球から姿を消した。


ああドラマの中の話ですよもちろん。
分かり合う、という行為の前提として存在する、「ここまでは分かり合っても良い」という線引き。その線なくしては人間は生き残れないし。
その先に行きつくのがどこなのか、というのはまた別の話。難儀ですね。


なんの話でしたっけ。自らが在り続けるために、その在り方を自らの手で汚していかなければならないTPCの理念構造がエロいって話?

まあいいや。
クリッター、私を


なんでもない。

さよならクリッター。




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