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新人理学療法士や学生さんは覚えておきたい,組織損傷と治癒課程(Healing Process)について

菅原和侑@理学療法士研究所

3月、国家試験が終わり、理学療法士の卵が旅立ちます.
今回、理学療法士として、臨床で患者さんの治療をするなら覚えておきたい、各組織の構造や治癒過程についてまとめました. 

おかげさまで、こちらのnoteは多くの方にご覧いただきました。このnoteも作成から1年が経過しましたので、500円から300円に減額をし、さらに多くの未来の理学療法士たちに組織の治療の基礎を身につけていただければと思います!

この知識を頭に入れておくことで,

各々の組織が損傷したときに何を意識してどんな刺激を入れながら治療をしたら良いか?
・ 骨折受傷後○○日目.今,骨に対してどんな刺激を入れなければならないのか? 
・肉離れした患者さんはいつ、どのような治療をすればいいのか?

など考えられることができるかと思います.
少々長いnoteなりますが, ご覧になっていただければと思います.

1.はじめに

 理学療法とは,人体の運動学的,解剖学的,組織学的な欠陥を生理学的なアプローチを用いて治療を行なう事である.そして,”治療”には組織の名前や組織の作用だけではなく,組織の機能,構造を理解し,組織に対し効果的な生理学的な知識も必要となる. そこで今回は,理学療法士が治療対象となる組織の構造と損傷後の治癒過程についてまとめた.

2.理学療法士が扱う組織とは


「理学療法士の扱う組織」は4組織に分類される. 

 ①.上皮組織
 ②.支持組織
 ③.筋組織 
 ④.神経組織

上記のような組織を組織名称で細分化すると,

皮膚,皮下組織(脂肪,血管,神経) 筋膜,筋肉,関節包,靭帯,腱,半月板や軟骨,骨,etc..

などが存在しますね.


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写真のように多くの組織が存在する.僕たちは、この様々な組織の損傷や障害に対し、正しい生理学的な刺激を入れることで組織の治癒過程を促すことができます。


2−1.組織の機能と構造

①上皮組織 
上皮には血管はなく,各細胞が集団になって連なっている.上皮細胞の働きは,表面の保護,栄養分の吸収,消化液などの分泌,ろ過、感覚作用などに関わっています。

■各上皮組織の特徴

層構造:単層ー細胞が1層になっているもの
   :重層ー2層以上の重なった構造を持つもの
細胞の形:扁平
    :立方
    :円柱

それぞれの構造と形を組み合わせ、各組織の上皮組織を表現します

□単層扁平上皮
 ろ過や物質交換を行う血管、リンパ、肺胞などにみられます。
 血管を流れる血液中の成分には、血管の外へと移動することがあります。
 物質が移動する際に、細胞が何重にも折り重なっていては移動が困難なため、物質の移動が起こる組織では「単層扁平上皮」がみられます。

□単層立方上皮
 胃や小腸などの消化器官などの粘液にみられます。

□多列線毛円柱上皮
 細胞の表面に線毛を持ち、粘液や微細粒子の運搬や排泄に必要な気管、卵管などにみられます。
 例えば、気管の上皮にある線毛は、空気中に含まれるホコリなどのゴミを、体外へ排泄します。

□重層扁平上皮
 物理的な刺激を受ける皮膚、口腔、食道などにみられる
 もしも、皮膚の全てが単層構造であれば、少しの刺激だけで皮膚細胞が壊れ出血をしてしまいます。しかし、実際は裂けることはありません。

 これは皮膚組織が細胞がいくつもの重なり合い頑丈にできているからです。
 こういった頑丈な組織は「重層扁平上皮」が存在します。

□移行上皮
 機能に応じて、形態の変化が必要な膀胱や尿管などにみられます。
 尿がたくさん入っていれば膀胱は膨らみ、尿がなければ膀胱が萎みます。 
 このように伸び縮みする組織に移行上皮がみられます。


②.支持組織

支持組織は発生学的には中胚葉の間葉組織に由来しています
支持組織は血球や発芽細胞などの細胞と細胞間質としての線維と気質からなり,細かな細胞間の線維と線維以外には気質としてタンパク質や糖が含まれ(軟骨),無機物であるリン酸カルシウム塩を含むものまである(骨・歯).

支持組織は
1結合組織,2軟骨組織,3骨組織,4血管・リンパに分類
される.

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支持組織内の①結合組織では

疎性結合組織,密性結合組織,細網線維,脂肪組織

と4つに分類され,各々の組織は他の組織の構造を支えたり,他の組織の機能の補助を行ったりする.

✍結合組織組織について
 結合組織に含まれる組織は,下記の二つの組織が結合組織機能としての働きを担う.結合組織は組織の損傷が起こることでこれら結合組織の元となる血球などの細胞などが主に炎症期の反応や発芽を促す.また,組織を育て増殖し細胞の治癒を担っている.

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1結合組織,2軟骨組織,3骨組織,4血管・リンパに分類されている支持組織は,主に下記の3種類の線維が各組織ごとに比率を変化させ存在している.

 組織自体の構造や組織の修復に関わる支持組織内の線維は以下の3つに分かれそれぞれの機能に分かれる.画像6


上記の組織のなかでも特にコラーゲン線維は組織に強度と形態を与える機能を有している.
 組織治癒にもコラーゲン線維は重要な要素にもなっているが,逆に怪我などによる、機能制限の原因も担っている.


■ 膠原線維(コラーゲン線維)
 コラーゲン線維は身体の部位によりその性質が変化する.しかし,人間のほぼすべての部分を形成してしているのがコラーゲン線維である.
以下に,その種類と機能について簡単にまとめている.

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■ コラーゲンの形態変化
弾性:力を取り除くと組織は元に戻る特性がある 高強度短時間の伸張
可塑性:弾性制限を超えると組織は元の状態に戻らない(可塑性変形)
Stffness:変形に対する組織抵抗力
粘性:組織は組成の違いにより加わる負荷や負荷時間に対し異なる反応を示す。
   高負荷:弾性反応
   低負荷:可塑性反応

 臨床の治療場面では,コラーゲン線維の改善には伸張力が感じない範囲の弱い伸張力までゆっくりとしたスピードで伸ばし保持する事で,コラーゲンの可塑性変化を引き起こし,組織が構造的に伸張していく.


■ コラーゲン線維の詳細

Ⅰ型コラーゲン(線維性コラーゲン)
 最も普遍的な膠原線維を形成するコラーゲン線維.最も人体に多く存在するコラーゲン線維であり,腱・筋膜・皮膚・骨などに多く見られる.骨に大量に含まれ,骨に弾性力を持たせる働きがある.皮膚や真皮にも多く存在し,皮膚の強度を生み出す働きもある.おもなコラーゲン線維の主成分である.

Ⅱ型コラーゲン(線維性コラーゲン)
 軟骨や眼球の硝子体,脊索に存在するコラーゲン線維で原線維として存在するため,線維を形成しているわけではない.

Ⅲ型コラーゲン(線維性コラーゲン)
 リンパ組織、脾臓、肝臓、平滑筋(内臓の筋肉)などに見られる細網線維や胎生期そして創傷治癒の初期段階に出現するコラーゲン線維.大量の糖分を含み,Ⅰ型コラーゲンとⅢ型コラーゲンが共存しお互いの働きを助ける。

 創傷治癒課程の初期段階で増殖し,傷口の閉鎖に役立つ,正常な治癒過程にのるとⅠ型コラーゲンにリモデリング(変化)し,元の皮膚組織や腱組織(Ⅰ型コラーゲン)に戻るが、Ⅲ型コラーゲンの時期に繰り返し外力を加え続けると、慢性炎症化し、Ⅰ型コラーゲンに変化せず、瘢痕組織(Ⅲ型コラーゲン)のまま治癒する.

Ⅳ型コラーゲン(非線維性コラーゲン)
 基底板を作るコラーゲン線維、トロポコラーゲンが重合せず糖蛋白結合して膜組織を形成する。平面的な網状のネットワークを形成し、基底膜の構造を支えている.上皮組織の裏打ち構造であり、足場となっている.

Ⅴ型コラーゲン(線維性コラーゲン)
 Ⅰ型コラーゲンとⅢ型コラーゲンの中に含まれる組織の中に少量含まれる極めて細かい組織

Ⅵ型コラーゲン(非線維性コラーゲン)
 細線維の成分である.コラーゲン細線維とは別の繊維状構造を成し,細胞外基質(細胞外マトリックス)に存在する.

Ⅶ型コラーゲン(非線維性コラーゲン)
 Ⅰ型コラーゲンとⅢ型コラーゲンの線維を結びつける線維.Ⅳ型コラーゲンと同様に基底膜の構成要素の成分である.

Ⅷ型コラーゲン(非線維性コラーゲン)
 血管内皮細胞が作っている.形状変化を起こしやすいコラーゲン線維である.


■  コラーゲンの変化って?
 不動や過用により,体内の環境の変化が起こる.特に変化を起こす組織は筋組織・膜組織であるが,体内のコラーゲン線維はどのように変化を起こすのか下記にまとめた.

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 不動や過用による変化は,体内の水分・グルコサミノグリカン,ヒアルロン酸,コンドロイチン硫酸などの基質に変化が起こる.しかしながら,コラーゲンの総量に変化はない.
 よって,不動や過用によって,コラーゲン組織に変化は起こらないが周囲の基質に機能障害(水分現象や架橋形成)が起こることにより,コラーゲン組織の機能の変化が起こる事が理解できる.


✍結合組織の問題に考えなければならないヒアルロン酸の存在

 結合組織として考えられる,疎性結合組織,密性結合組織,細網線維,脂肪組織にはヒアルロン酸が豊富に含有している.結合組織とヒアルロン酸との間には密接な関係があり,その結果ヒアルロン酸の状態変化により,結合組織に影響を及ぼす.

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✍弾性線維
 
弾性線維とコラーゲン線維の含有比率により,その組織の構造の変化が起こる.
筋膜組織のような硬いシート状の素材ではコラーゲン線維が豊富に含有している.しかし,筋線維のような柔軟性がある組織はより,弾性線維が豊富に含まれている.

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3.運動器系の器官における各組織の構造と治癒過程

 第3章は,各構造体(骨,筋,軟骨,半月板,靭帯,筋膜)の損傷修復について説明していきます.

3−1.骨

 骨の損傷(骨折,骨挫傷)における筋の修復では,下記の3期を経て骨の再生が起こる.その中で修復期に至る時期では,仮骨が形成され負荷に対する強度が増してくる.その際には骨に対し生理学的な刺激が必要となる.
 下記にも示すとおり,骨の強度に必要な刺激は骨に対して,張力と圧縮力が必要とされる.そのため,骨折後のリハビリテーションにおいて,早期のストレスを掛ける必要がある.これらの外部刺激により,骨梁などが形成され骨の強度がましていく.

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 骨折の治癒過程について,様々な筆者が病期の分類を行っているが,概ね記載されいる事項は変わらない.概ね仮骨形成は1週〜3週にかけて行われ,徐々に外部刺激により,骨の再生が促される.よって,少なとも,術後1週頃からは徐々にストレスを掛けていく必要がある.また,荷重制限などを有する患者に関しても,プロトコルで許されている荷重量までに関しては,「歩行をするため」というよりも「骨の再生を促す」ためにも複数回の荷重訓練は必要となってくる.

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3−2.軟骨・半月板

 軟骨と半月板について以下に記載した.軟骨コラーゲンは2型コラーゲンであり,圧縮力に対応するために存在するコラーゲンを有している.軟骨の栄養は関節内の滑液より得るため,軟骨の再生を促すために,関節内循環を高めるような手技が必要となる(ie.バイブレーション,トラクション,Rom-Exなど).また繰り返しとなるが,2型コラーゲンは圧縮力に適応するコラーゲンのため,コラーゲンの再生を促していくために,圧縮力を加えていく必要がある.大抵の場合,軟骨損傷による術後の患者は荷重制限(非荷重)時期があるために,Bedsideでの関節に対するコンプレッション(トラクションの逆)を他動的に繰り返し加えていくような手技を用いることで軟骨の再生を促すことができる.

 また,半月板は1型コラーゲンであり,牽引と張力に対応するための構造を有している.自然治癒を促すためには,半月板組織の血行が存在する必要があるため,半月場板の損傷部位についての理解も必要である.半月板の治癒を促す治療としては,下記にも示すとおり,伸張刺激が必要となる(ROM-exやTraction).また,単関節筋のエクササイズを行うことで関節の安定化を向上させる必要もある.

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3−3.靭帯

 靭帯に関しては,1型コラーゲンが90%を有する…そのため張力に対応するために存在するコラーゲン組織である.靭帯はコラーゲンの許容伸張範囲を超えた場合に損傷を起こす.
 1型コラーゲンである靭帯は,損傷して間もない時期は3型コラーゲンが創傷治癒として靭帯組織を修復する.そのため,靭帯組織の場合早期に張力刺激を与え続けると,靭帯が慢性炎症化し瘢痕形成を促してしまう恐れがあるため,靭帯損傷の場合は修復期に過度なストレスを与えないように注意しなければならない.

 また,修復後は周囲の組織とともに治癒していくことが度々見られるため,改変期に至った時期に於いて,靭帯の走行に対し垂直方向にフリクションマッサージなどをおこない,靭帯の配列や,他の組織との分離を促す徒手治療を行う必要がある.

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