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短編小説|海のお仕事

 知り合いにこの仕事を紹介されてよ。荷物を渡されたらボートで海に出て、沖合の指定された座標に落とす。こんなんでいいのか、ってぐらい簡単で金払いもいいのよ。

 以前の俺は飯も食えないぐらい金に困っていた。ろくな仕事は見つからないし、自己破産したばっかりだからキャッシングも使えない。この仕事がなけりゃあ、野垂れ死んでたな。

 大体は保冷ボックスを渡されんだけど、あれって海に落としても沈まないんだよ。発信機みたいのも入ってて、後で誰かが拾いに来てるんだろう。大方、薬物とか拳銃とかその辺りだろうけど、中身は見ないようにしてる。深く関わりたくないし、めんどくさいからさ。

 しかし、こんなに大きい荷物は初めてで驚いたよ。それに動くもんだから、思わずくるんであったビニールシートをめくっちまった。ますます驚いたね。生きた人間を運ぶ日が来るとは、ついにここまで来たかって感じよ。

 すまんすまん、いつもは一人だからさ、つい長話を聞かせちまった。この辺りでもういいだろう。話し相手になってくれてありがとうな。たまにはこういう荷物もいいもんだ。

 あはは、猿ぐつわされてんだから、もごもご言ったって何喋ってるかわかんねぇよ。今回は浮かすんじゃなくて沈めろって言われているから、ちゃんと重石も付けてある。すぐに楽になれるから安心しな。

 あんたも色々苦労したんだろう、よくわかる。たまたま俺が沈める側なだけで、あんたとの違いなんてそう無いのさ。それにこんな仕事に励んでも、自分が生きてるんだか死んでるんだかわかりゃあしない。案外、近いうちにまた会えるかもな。それじゃあな。





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