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分割予報

 月が半分に割れたので、映画を見るのはとりやめになった。
 スマートフォンの分割予報には、月、と表示されおり、空を見上げると、たしかに月が割れていた。やすこは「たのしみにしてたのに」と言ったが、ユキは「月、割れちゃったし」と言うばかりでそそくさと大学の正門から消えてしまった。
「割れるなんていつものことじゃん!」
追いかけようとしたけれど、ユキの脚は速くあっという間に見失ってしまったのだった。
「どうせ帰る家はおなじなのに」
結局、やすこはひとりで映画を見てから、帰った。
 帰りの電車のなかから見た月はきれいに均等に割れていて、3歳くらいの男の子とその母親おぼしき女性が、昨日たべたスイカみたいだね、などといっている。あの子の家はスイカをちゃんと一人分ずつに切って食べるのかな。やすこは思う。昨日わたしが食べたスイカはもっとばらばらだった。もともと切り分けてあるスイカを買い、それをさらに小さく一口サイズに切ってユキとふたりで分けて食べたのだ。
 ユキは割れるのをいやがる。月は割れるものの筆頭で、月以外にもあらゆるものが割れてしまうのだが、「その勝手さがいやだ」とユキは言う。「とくに月はよく割れるからいやだ」。
 割れてしまうのがいやなだけではなく、ときおり分けることもいやがっているようにやすこには思える。この世界で分けずにいられるもののほうがすくない。だいたいのものは分けなくてはならないし、食べ物なんかはどうしたって。理由を聞いても、わたしは一個をつつくほうが好きなの、とユキは言う。じゃなかったら自分で分けたい、ていうか分けさせろって思う。
 最寄りの駅に着くころには月も太陽も沈んでいた。やすこは近所のスーパーマーケットで熊本県産のスイカをまるごと買った。抱えるとずっしりと重たい。子ども一人分くらいあるな。やすこは思った。子どものほうが軽いかもよ、とユキだったら言うだろうか。
 家に着くと、ユキはすでにシャワーを浴びて、髪の毛を乾かしているところだった。「手、洗いたい」やすこが洗面所をのぞき込むと、ユキは、ん、と身体を洗面台の横にずらした。
「スイカ買ってきたよ」
 やすこがスイカを指さすとユキは「え、うそ! あ、ほんとだ! 大きい!」とうれしそうな顔をした。
「好きにしていいよ」やすこがそう言うと、ユキはうなずいて、ドライヤーをさっさと片づけ、うきうきとタライに水をはりはじめた。
「明日には冷えてるね」
 そしてその夜、スイカはそのままにふたりは眠ったけれど、夜中に分割予報が小さく鳴った。やすこがうっすら目を開けてスマートフォンの画面を見ると、そこには、スイカ、とあった。
「……スイカ……かあ」
 明日には高い確率で世界中にあるあらゆるスイカが割れるだろう。欠けるだけかもしれないし、真っ二つに割れるかもしれない。
 やすこはのろのろと、隣にねむるユキを抱きしめてみた。月じゃないからだいじょうぶ、とかじゃないよね、いっしょにつつくなら、いいっていうかな、いや、やっぱり……やすこはうつらうつらとしながら思った。ユキは寝息をたてたまま、目を覚まさなかった。

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