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諦めずにやれば絶対にできる、だからこそ続けられる仕組みを作るーーAutify近澤良が「ゴールから逆算する重要性」を語る【起業家人生グラフ図鑑 vol.3】

起業家たちの人生をグラフで振り返りながら、選択の軌跡を追体験していく連載企画「起業家人生グラフ図鑑」。イノベーションを推進するスタートアップを表彰する、EY Innovative Startupが企画しています。

第3回に登場していただくのは、オーティファイ株式会社のCEO・近澤良氏。近澤氏はソフトウェアエンジニアとして、日本やシンガポール、アメリカで10年以上のキャリアを積み、2016年にアメリカ・サンフランシスコでAutify, Incを創業しました。

「ゴールから逆算すれば、行動指針はひとつくらいしか選択肢がない」と話す近澤氏は、就職やキャリアチェンジのタイミングで明確な答えを導き出し、現在に至るまで着実に足を運んできました。しかし、もちろん成功するまでの道のりの中で、創業から2年間の苦しい日々など数々の失敗も経験しています。そんな近澤氏の歩みを振り返り、組織の作り方やスタートアップが成功するためのアドバイスを訊きました。

ウェブエンジニアとしてキャリアを歩み始める

AIを用いてソフトウェアテストを自動化するプラットフォーム「Autify」を提供しているAutify, Inc.。「技術の力で世界中の人々の創造性を高める」をミッションとして掲げ、ソフトウェア開発プロセスにおける生産性の向上のために製品開発を続ける注目のスタートアップ企業だ。

同社CEOの近澤氏は、2016年にアメリカ・サンフランシスコで創業するまで、ウェブエンジニアとしてソフトウェアの開発に携わり、日本やシンガポール、アメリカで約10年間のキャリアを積んできた。

「エンジニアとしてのキャリアを選んだのは、もともと大学時代にコンピューターサイエンスを専攻していたことがきっかけです。大学に入るまではプログラミングをやったことがなかったのですが、エンジニアとしての勉強がとても楽しく、これを自分のフルタイムの仕事にできたら幸せだろうなと思いました」

同じく在学中に、近澤氏の人生に影響を与える出来事が起こる。それが友人との学生起業だ。プログラミングの技術を学ぶのが好きだったことに加えて、授業以外の場所で実際のシステムやウェブサイトを作り、試行錯誤の場を通じて学べるのが面白そうだと考えて参加した。

「当時はmixi全盛期で、我々はmixiのオタク版のようなサービスを作っていました。ユーザーの方とも実際にお話しして、機能に対する感想やフィードバックをもらって改良を繰り返し、自分たちで作ったもので喜んでもらう体験がすごく楽しかったんです。自分のキャリアの中で、ゼロから何かを作り出して、ソフトウェアを通じてユーザーに届ける体験をもっと大きな規模でやりたいという想いが芽生えたタイミングでした」

その後、起業した会社を続ける選択肢もあったが、 就職の道を選んだ。最初はエンジニアとして、当時隆盛を誇っていたAdobe Flashのコンテンツを作るウェブ制作会社で働いた。しかしiPhoneが登場したことでAdobe Flashの衰退を予測。それまでは受託開発の業務を行っていたことから、今度は自社サービスに携わりたいとDeNAに転職を決めた。

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グローバルで戦う力を得るために渡米

グローバルで働きたい想いがあったこともあり、DeNAでは海外のゲームを開発する部署に異動。順調に仕事に励む毎日ではあったが、知人の中でもスタートアップを立ち上げたり、若い世代でも活躍している人も増えてきた。そんな中、そろそろ自分で起業したいという熱が高まり、DeNAを退職。新たに友人と起業することにした。

「その会社は共同創業者として立ち上げたのですが、なかなか上手くいかず。1年くらい経ってから、僕は抜けることにしました。そこで起業ともうひとつの軸『海外』を伸ばそうと思いました。そしてエンジニアとして働くなら、やっぱりサンフランシスコ・シリコンバレーのベイエリアに行きたかった。会社を抜けてから、サンフランシスコにひとりで就職活動をしに行きました」

渡米後、さまざまな企業を巡って話をしていると、ひとつの会社からオファーが届いた。しかしアメリカで働くにはビザが必要になる上に、取得が難しい。そこで、その会社がシンガポールにも開発拠点を持っていたことから、まずはシンガポールで働くことを選んだ。

「最終目的地はシリコンバレーだから、“シンガポールに2年以上はいない”と最初に決めました。2年以内にアメリカへのパスを探さないといけないと思ったんです」

映像作品のストリーミングサービスを提供するVikiに入社後は、プロダクトマネージャー兼エンジニアとして業務を担当。その後1年半が経ち、Vikiの共同創業者のひとりに誘われてサンフランシスコでスタートアップのエンジニアとして働いた。

「サンフランシスコにいると、やっぱり周りがみんな起業しているし、スタートアップを立ち上げている人が多くて、チャレンジするなら今なんじゃないかと思いました。また、プライベートでも妻が妊娠していて、子どもが生まれるタイミングだったのも理由のひとつです。子どもが生まれると時間的にも金銭的にも起業する余裕がなくなりますし、『これを逃すと、たぶん15年位は起業できない』と思ったので、今だなと。そのときにオーティファイの前身となる会社を創業しました」

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アメリカを知った、高校時代の原体験

近澤氏は日本生まれ、日本育ち。帰国子女でもないので、特別に英語が話せたわけでもない彼が、なぜグローバルで事業をすることを目指したのか。その原体験は高校時代に遡る。

「高校2年生のときに、夏休みを利用してアメリカに2週間くらい短期の語学留学に行きました。当時の自分にとって、アメリカはすごく崇高な存在でした。ただ実際に行ってみると、日本人の自分たちと別に変わらないと気がついた。アメリカ人が特別に優れているのではなく、なんならサービスのクオリティは日本のほうが優れていた。自分たち日本人と同じようなレベルでも、グローバルの中心であることに気がついたんです。英語さえ話せて、グローバルを志向すれば、自分でも頑張れば手が届くんじゃないかと、なんとなく思いました」

この経験をきっかけに、それまではとくに意欲的に勉強していなかった英語に力を入れるようになった。英語ができるようにならないと、このレベルの商売はできないと真剣になったのだ。

「その後、起業するならグローバルスケールでやりたい、やるなら世界に届けないといけないと思っていました。何をやるにしても、日本だけではなく世界を相手にやると意識していましたね」

もちろん英語ができるからといって、事業がうまくいくわけではない。アメリカで起業した当初は、現在のオーティファイの事業とは違い、Vikiでの経験から翻訳に関する事業を行っていた。しかしユーザーも増えず、売上も上がらず、なかなか上手くいかなかったそうだ。2年ほど苦しい時期が続き、8回くらいピボットもしたり、別の領域を模索したり、いろいろ試したりしたが、鳴かず飛ばずの状況だった。

しかし転機になったのが、アメリカ・サンフランシスコを拠点とするBtoBスタートアップのアクセラレータ「Alchemist Accelerator」に選出されたことだ。そこで新たな視点と経験を得たことで、オーティファイとして躍進するきっかけを掴んだ。

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組織作りを後回しにしない理由


オーティファイでは「Be selfless」、つまり自分の利益ではなく会社にとって一番良いことを考えることがバリューとして掲げられている。その中でも大事にされているのが透明性を高く保つことだ。コンテキストをできる限り同じレベルで共有するーー例えばトップである近澤氏の考えを、全員が深いレベルで理解していたら、会社としての判断に誰も違和感を覚えない。むしろ、その意思決定をトップ以外のメンバーでもできるようになるというわけである。

「透明性の高い、自律的な組織を作ることを意識しています。トップダウンが浸透している会社だと、ヒエラルキーが深い会社になってしまい、それはリスクがあります。本当に強い組織は、みんなが同じ文脈を理解していて、正しい意思決定がそれぞれでできる。そういう組織が理想だと考えています」

また、評価システムの明確化やOKR の導入など、具体的な仕組みも整えている。この先の成長、事業拡大を見据えた組織作りを早い段階から行っているのだ。

「評価システムなどの仕組みについては、いずれ必要だと分かっていることだから早くから設計しました。それが遅ければ遅いほど組織が混沌としてしまう。また、『ある』と『ない』って大きな違いがあって、『雑でもいいからある』と『まったくない』は全然違います。

例えば、評価システムがないと評価が属人的になってしまうし、それは元エンジニアとしても気持ち悪い。誰が見ても、この人はこの評価が正しいという指針がきちんと言語化されていないと社内に政治が生まれてしまいます。

また、英語を公用語としているのも、グローバルというゴールから逆算しているからです。日本人だけが日本語で話している組織がグローバルで活躍できるのかって普通に考えたら無理じゃないですか。グローバルの公用語は英語、だったら社内の公用語も英語になるのは当たり前だと考えています」

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オーティファイが実現したい未来とは


オーティファイのミッションとして、技術の力、AIの力で人間の創造性を高めることと定めている。社会全体の生産性を高めることで、人が人にしかできない仕事、よりクリエイティブな仕事に集中するための社会の創出を目指しているのだ。

「ソフトウェアのテストは人がものすごい時間と労力をかけていた領域ですが、人がやらなくていい領域でもあります。そこをオーティファイが代わりに担当すれば、エンジニアにしか出来ない製品開発に注力できるし、QAの人だったらテストをやることではなく、どういうテストをやるのか考えるような戦略や計画作りにフォーカスできる。そういう後押しをオーティファイを通じて行いたいです」

一方、プロダクトのミッションとしては、テストフェーズをなくす未来を目指している。現在の開発現場では、ソフトウェアやシステムが完成した後にテストをしているが、仮に開発と同時進行で自動的にテストや検証が完了していれば、完成後すぐにリリースできる。テストをなくすことはできないが、テストフェーズをなくすことはできるというわけである。

「GoogleやNetflixなどは大量にテスト自動化のエンジニアを採用して作りながらテストコードを書いているのですが、これは誰もができる方法ではありません。オーティファイが実現したいのは、ソフトウェアなどを開発するとなったら、オーティファイのAIをチームに招くような未来です。AIと一緒に働くことで、クオリティの高い製品を高い頻度でリリースできる 。これがソリューションとして実現したい目標です」

そしてオーティファイの展望について、近澤氏は「いけるところまでいきたい」と話す。中長期の目標として、1兆円規模、二桁ビリオンの企業価値に成長させてIPOを目指している。具体的には、2027年にNASDAQで二桁ビリオンのIPOを成功させるのが現状の大きなマイルストーンである。

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起業家たちよ、まずは寝ろ。そして諦めるな。


起業家にとって、事業が軌道に乗るまでは心身ともに苦しい時期である。そうした時期のマインドは不安定で、休む暇もないほど忙しい、もしくは休むのが怖いという人もいるだろう。近澤氏が、苦しい時期も、そして現在でも大事にしているのが睡眠時間の確保だ。

「まずは寝ることが大事です。心を健康に保つには身体を健康にしなくてはいけないし、働きすぎないようにしたほうがいい。僕も一時期はジリ貧で働きすぎていましたが、そうすると長続きしないんですよね。自分のリズムでやらないと、全部壊れちゃいます。結局、スタートアップが成功するには打席に立ち続けるしかないので時間がかかるのは意識したほうがいいと思います。

僕も2年かかったし、周りを見ていても2、3年かかってる。数ヶ月でできるものではないし、下手すりゃ5年、10年かかるかも知れない。それでも諦めない。諦めずにやれば絶対にできるはずです。みんな諦めてしまうけれど、諦めずに続けられる環境を作ることを大切にしてください」

まずは自分は睡眠時間がどれくらい必要かを把握する。近澤氏の場合、7時間睡眠がパフォーマンスを1番引き出せる生活のリズムだという。また、やってはいけない行為として「長く働けばいいやと思ってダラダラ働くこと」を挙げる。例えば平日5日間で働くとして、その制約の中でいかにパフォーマンスを出すのか。制約があるからこそ、パフォーマンスを上げられることもある。まずは時間単位あたりの生産性を上げるために、睡眠時間をしっかりコントロールして、集中力を確保するのが重要なのだ。

最後に、これからの起業家に向けて近澤氏からアドバイスをいただいた。起業家というのは、あらゆるフェーズにおいて数々の困難な問題解決、選択、意思決定を迫られるだろう。そんなとき、近澤氏の問題に対する考え方を参考にしてみてほしい。

「僕の場合は、あんまり判断に迷うことがないんですよね。なぜかというと、問題って目に見える前から顕在化する 段階があると思っています。どこかのラインを超えると早急に解決しなければならない問題になるのですが、それまでの段階では似たような問題があちこちから上がってきていて、いくつかの問題を深掘りしてみると根本原因があるはずです。そこを解決するために動けば、大きな問題に直面せずに済みます。

やるって決めたときには、やらなきゃいけないことが分かっている感じです。でもこれって僕だけじゃなくて、みんなそうなんじゃないですかね。なにかあったときに迷っていても、自分の中では答えが出ていて、2択があっても心の中ではどっちが正解か分かっているんだと思います。

しかしこれは、きちんとゴールを定義できていればの話です。ゴールが明確になっていないと迷子になってしまいます。こういうゴールを達成したいと決まっている場合は、選択肢が限られてくる。行動指針ってゴールから逆算すればひとつくらいしか選択肢がないはずですから」

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(取材日:2022年1月)

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