Eye Naviの開発が「障害理解」のきっかけに。Eye Navi研究員が実感した視覚障がい者ユーザーの「本当のニーズ」
スマートフォンひとつで、道案内と障害物検出、歩行レコーダー機能を備えた歩行支援アプリ「Eye Navi」。
これまで、Eye Naviは視覚障がい者の方を中心に、「誰もがどこへでも、自由に楽しく移動できる社会の実現」を目指して、サービスを提供してきました。
そんなEye Naviを開発するメンバーに、サービスにかける想いを聞く「Eye Naviインタビュー」!
今回は、Eye Naviを開発する株式会社コンピュータサイエンス研究所(以下、CSI)で研究員を務める槙 基雅さん。
ソフトウェア開発のスペシャリストとしてEye Naviの進化を支える槙さんに、アプリ開発の裏側や、このプロジェクトを通じて得た気づきについてお聞きしました。
ゲーム好きが高じて、人の役に立つソフトウェア開発の道へ
ーーまず、現在やっていることを教えてください!
槙さん:
研究員として、主にソフトウェア開発を担当しています。Eye Naviの性能向上や追加機能の開発など、全般的な開発に携わっています。最近では、「Xamarin」という開発言語から、「Swift」という開発言語への移行作業に携わりました。
これは単純な言語の変更ではなく、アプリの性能向上や将来的な拡張性を考えて、よりスムーズで高性能なアプリ開発が可能になるようにSwiftiへの移行に注力してきました。
移行作業は日本語で書かれた本を英語に翻訳するようなもので、かなり根気のいる作業でしたが、Eye Naviの未来を作る重要な仕事だと考え取り組みました。
最近特に注力していたのは、Eye Navi プレミアムで利用できるマイルート機能の開発です。
マイルートはアプリが自動で作ったルートではなく、自分で自由にルートを作ることができる機能で、より自分にあった道を案内できるようになります。
ーーEye Naviにとって、大切な仕事をされているんですね。そんな槙さんがソフトウェア開発に興味を持ったきっかけは何でしたか?
槙さん:
元々ゲームが好きで、その裏側にあるIT技術に興味がありました。ゲームの仕組みを知りたい、自分でも作ってみたいという思いが、ソフトウェア開発への興味につながったんです。
ただ、大学で学んでいくうちに、ゲーム開発よりも、より広く人の役に立つソフトウェア開発に惹かれていきました。特に、AI技術や画像処理の分野に興味を持ち、そこを深く学んでいきました。
ーーゲームがきっかけだったんですね。そこから、なぜEye Naviに携わるようになったのでしょうか?
槙さん:
大学時代に研究室の先生からの紹介で、CSIでアルバイトをはじめたことがきっかけです。
最初は、北九州市の環境ミュージアムに設置するロボット「Pepper」に、クイズやダンスをさせるプログラムを作らせてもらいました。大学で学んだことを活かせて、とても楽しかったことが良い思い出ですね。
そんなアルバイト経験を通じて、CSIの雰囲気や仕事内容を知っていくうちに、開発者が直接ユーザーと関わる機会の多いCSIがとても魅力的に感じたんです。
その後、Eye Naviの立ち上げを知り、「これだ!」と思いました。大学で学んだ画像処理の知識を活かせるうえに、視覚障害者の方々の生活をより豊かにできる可能性がある。そんな魅力的なプロジェクトに携わりたいと思い、迷わずCSIへの入社を決めました。
安全性を保ちつつ、「楽しく歩ける」機能も充実させていきたい
ーーEye Naviの開発に携わるなかで、特に印象に残っていることはありますか?
槙さん:
やはり、ユーザーの方から直接フィードバックをもらえた経験は、私たち開発者にとって大きな糧になっていますね。
私はこれまで、20回近く展示会に参加する機会があったのですが、その中でも特に印象的だったのは、ユーザーの方々がEye Naviを使って初めて気づいた、周囲の情報についての反応でした。
例えば、ある方が「Eye Navi を使って歩いていたら、普段気づかなかった郵便ポストの存在を知りました」と教えてくださって。また、別の方は「よく通る道にカフェがあることを初めて知りました」と喜んでくださったんですよ。
ーーEye Naviが、視覚障害のある方々の歩行を豊かにしているんですね…!
槙さん:
こういった声を聞くと、私たちが開発している技術が、単に道案内をするだけでなく、ユーザーの方々の世界を広げる可能性があるんだと実感します。そして、そう思えることは私にとって大きなやりがいになっているんです。
ーーEye Naviの目標である「誰もがどこへでも、自由に楽しく移動できる社会の実現」に近づいている証拠のように感じます。
槙さん:
開発者としては、位置情報の精度をさらに向上させることや、AIの画像認識技術を駆使して、「何がどこにあるのか」をさらにわかりやすくすることで、視覚障害があっても歩行に困らない状態を作っていきたいです。
その一方で、ユーザーの方々の声を聞いていると、安全性はもちろん重要ですが、それと同時に「楽しく歩ける」機能へのニーズも高いことがわかりました。
そこで、周辺情報をより豊かに提供し、歩くことを楽しんでもらうための「お散歩モード」にも力を入れています。
ーーユーザーの意見が、どんどんアプリに反映されていっているんですね!
槙さん:
これほど直接的にユーザーの声を開発に活かせる環境は珍しいんです。だからこそ、どんなフィードバックも真摯に受け止めていきたいですね。
Eye Naviの開発経験が、さまざまな障害や生きづらさについて考えるきっかけに
ーー Eye Naviの開発に携わることで、ご自身に何か変化はありましたか?
槙さん:
視覚障がい者の方について考えるようになったのはもちろんのこと、これまで目に入ってこなかった、さまざまな障害や生きづらさを感じる方々について考えるようになったのは、大きな変化だったと感じています。
Eye Navi の開発に携わる前は、正直なところ視覚障がい者の方々のことをあまり深く考えたことがなかったんです。
街中で白杖を持った方を見かけることはあっても、その方の日常生活や直面している課題について、具体的に想像したことはありませんでした。
ーー実際に視覚障害について向き合う機会がないと、想像するきっかけがないという方もたくさんいらっしゃいますよね。
槙さん:
そうなんです。僕もそのうちの一人だった。でも、Eye Naviを通じて、視覚障がい者の方々の日常生活の実態を知ることができ、まっすぐ歩くことの難しさや、信号を渡る際の不安、周囲の状況を把握することの重要性などを、ユーザーの方々との対話を通じて学ぶ機会をもらえたんです。
それから、街を歩いていても白杖を持った人がよく目に入るようになったし、プライベートでも自分にできることがないか考えるようになったんですよね。
ーー実際にユーザーの方々を関わるようになったからこそ、槙さんにも変化が起きたんですね。
槙さん:
また、視覚障害だけでなく、さまざまな障害や生きづらさを感じる方々のことを考えるようにもなりました。
生活するなかで以前は気づかなかった段差や障害物に目が行くようになり、「この場所は車椅子の方にとって通りにくいかもしれない」とか、「この案内表示は色覚異常の方にとって見づらいかもしれない」などと考えるようになったんです。
このように、実際に障害による困難さを目の当たりにすることで、以前はなかった「想像力」が養われたのは、自分の中でも大きな成長になったと思います。
この成長を自分の中だけで留めるのではなく、技術者として、どのように貢献できるかをもっと考えていきたいですね。
Eye Naviをユーザーの方々にとって「なくてはならないもの」にするために
ーーそんな槙さんの今後の展望について教えてください!
槙さん:
僕の目標は、Eye Naviを視覚障害者の方々にとって「なくてはならないもの」にすることです。
そのために、まずは歩行者信号認識の精度向上と、横断歩道を安全に渡るためのガイダンス機能の改善に力を入れています。これによって、視覚障がい者の方々がより安心して外出できるようになると考えています。
また、ユーザーからのニーズを反映するために、単なる歩行支援だけでなく、「より楽しく歩ける」アプリを目指したい。
「視覚障害は情報障害」と言われることがあるように、目が不自由だと、取り込むことが難しい情報が多いんです。
そこで、周辺の景色や天気の情報を提供したり、ユーザーが気づかなかった周辺の施設を紹介したりすることで、外出がより楽しいものにしたいと考えています。
さらに、将来的にはAIによる自然言語処理技術を導入したいですね。より自然に会話をしているような、ユーザーフレンドリーな対話型インターフェースの実現を目指しています。
ーーありがとうございます!最後に、Eye Naviを使っている方々へメッセージをお願いします。
槙さん:
Eye Naviをリリースして、ようやく約1年が経過しました。日々ユーザーの皆さまからさまざまな意見が届いていますが、Eye Naviは皆さまとともに育て、進化させていくアプリだと考えています。
みなさまの意見を吸収し、さらに移動が楽しくなるようなアプリにするために、開発者として頑張りますので、今後ともよろしくお願いします!
(取材・執筆・撮影 目次ほたる (@kosyo0821))
視覚障がい者歩行支援アプリ「Eye Navi」について
Eye Naviは、スマートフォンひとつで、道案内と障害物検出、歩行レコーダー機能を備えた歩行支援アプリです。
2023年4月にリリースされ、リリース開始から4ヶ月ほどで1万ダウンロードを突破しました。
Eye Naviの特徴は、AIを活用した「障害物・目標物検出」と、視覚障がい者に寄り添った「道案内」が組み合わさっていること。
この2つを実現することで、目的地までの方向や経路、周辺施設、進路上の障害物、歩行者信号の色、点字ブロック等を音声でお知らせできるアプリになっています。
Eye Navi公式ページ
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