読書ノート#5 眠れる美女

<著者> 川端康成 <レーベル>新潮文庫

<心に残ったフレーズ>

老人は娘のからだに音楽が鳴っていると感じた。

女の乳房を美しくして来たことは、人間の歴史のかがやかしい栄光ではないのだろうか。

男を「魔界」にいざないゆくのは女体のようである。

老人は死、若者には恋、死は一度、恋はいくたびか

老人は死の隣人さ。

<感想・考察>

まだ10代の性経験のない男にとっては、非常に重い話だった。短編小説である。全体は5パートに分かれている。

あらすじは67歳の江口老人が会員制の宿に行く。その宿では、まだ若い娘が眠らされており、決して起きることはない。会員となった江口老人は若い娘と眠りにつく。

話のあらすじに大きな変化はほぼない。それぞれ5回の眠りを江口老人のこれまでの性経験を振り返りながら、記してある。

でも、官能小説を違うのは、娘が深ーく眠り続けているということ。ここの設定に物語の深みが出ている。

男性の老人には「死」が2回あると思う。1回目の死は「男」としてその機能を失うこと。2回目の死は「生物学的な」死である。この宿にはちょうどその中間の男が訪れる。しかし、江口老人はまだ1回目の死を迎えていない。だから、アクションを起こそうと思えば起こせるが、それはこの宿の禁制を犯すことと同じだ。あえてアクションを起こさず、じれったい気持ちになっている江口老人の様子が1回目の死どころか、2回目の死までも暗示している。

内容のほかにも妖艶さを感じさせる工夫がいくつかある。

1.文体にひらがなが多い。

 ひらがなは、平安時代に女性が開発した文字だといわれている。ひらがなばかりの小説を書くと、読み手には強烈な色気と妖艶さを感じさせる。しかも、娘がまだ現代でいうと中高生の年代であると示されていることからも、からだの未熟さや人生の経験の浅さを強調しているのかもしれない。

2.宿の外の様子

 外の風の音や波の音が江口老人の心境を表している。読み進めながら、考えると新たな発見がある。

物語全体を通して、示されているのは強烈なほどの「生」と「死」の対比である。老人は死の隣人さ、と言いつつも、娘の体にはメロディーなるものを感じてみたり。

まだ学生の僕には、非常に強い刺激のある話だった。

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