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読解力:同義文判定ということ

 読解力について,前回は,熟語の意味を理解していることと,論理的な読み方ができるかどうかについて考えてみた。今回は「同義文判定」すなわち,2つの文が同じ意味かどうかを判定する力についてである。
 新しく出てきた熟語の意味を,それを説明する文章から理解できるかどうかという問題を考えてみる。

 まず,次の文章を読んで,設問に答えてみていただきたい。高等学校「社会と情報」の教科書に載っているものである。(第一学習社)

 暗号化と復号で用いる変換の方式を暗号方式,具体的な変換を決めるデータを鍵という。暗号化と復号で同じ鍵を使う共通鍵暗号方式では,送る人と受け取る人のペアごとに鍵を用意する必要がある。また,暗号化の鍵は復号の鍵でもあるので,送り手に渡す鍵は第三者に盗聴されないような手段で渡す必要がある。
 暗号化のための公開鍵と復号のための秘密鍵に別の鍵を使う公開鍵暗号方式では,受け取る人事に鍵を用意するだけでよい。送る人に渡す公開鍵は公開してよいので,鍵を渡すのが簡単である。
【問題】この文について,正しければ○,正しいとは言えないか誤りの場合は×をつけよ。
(1)AさんとBさんに復号のための鍵をあらかじめ送っておき,その後,暗号化したファイルを送った。AさんとBさんには同じ鍵を送った。これを「共通鍵暗号方式」という。
(2)AさんとBさんに暗号化のための鍵をあらかじめ送っておき,その後,暗号化したファイルを送ってもらった。AさんとBさんには同じ鍵を送った。これを「共通鍵暗号方式」という。
(3)AさんとBさんに暗号化のための鍵をあらかじめ送っておき,その後,暗号化したファイルを送ってもらった。AさんとBさんには異なる鍵を送り,復号するときに,送った鍵を使った。これを「共通鍵暗号方式」という。
(4)AさんとBさんに復号化のための鍵をあらかじめ送っておき,その後,暗号化したファイルを送った。AさんとBさんには公開されている鍵を送り,復号するときに使ってもらった。これを「公開鍵暗号方式」という。

 まず説明文であるが,意味がわかりにくくて何度も読み直した方も多いのではないだろうか。
 正しく判断できるためには,次の事柄の理解が必要と思われる。

・暗号を他人に解読(復号)されないためには,解読のための鍵が他人に渡らないことが条件である。

 当たり前と思われるだろうか。では,(1)〜(4)のうちこの条件を満たしているのはどれだろう。

(1)は復号のための同じ鍵をA,Bの二人に渡しているから不可。
(2)は復号の鍵を持っているのは自分なので可。
(3)は復号の鍵をA,Bの二人に渡しているがこれは異なる鍵だから可。
(4)は復号の鍵をA,Bの二人に渡しておりしかも公開されている鍵だから不可。

つまり,暗号のシステムとして成立するのは(2)と(3)である。
次に,(1)〜(3)は共通鍵暗号方式の説明であるが,共通鍵暗号方式ではペアごとに異なる鍵を用意する必要がある。すると(2)では「AさんとBさんに同じ鍵を送った」となっているので誤りである。
したがって,(3)だけが○ということになる。

正答率は (1) × 45% , (2) × 64% , (3) ○ 30% , (4) × 53%

さらに,驚くべきことが起こっている。(1)〜(3)は同じ共通鍵暗号方式についての説明であるが,異なる内容なので,正答があるとすればひとつしかないはずである。3つのうちどれか1つだけに○をつけるべきなのだが,1つだけに○をつけた者は198名中91名で46%にすぎず,しかも,その内訳は,(1) が28名,(2) が61名(3) が2 名。つまり,本当の正答者((3)だけに○をつけた)は2名しかいなかったのである。