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高等学校「情報Ⅰ」文科省研修用教材を検討する(1)「はじめに」

令和元年,文科省は

平成30年3月に公示した新高等学校学習指導要領に基づき、内容の大幅な充実が予定されています。高等学校情報科担当教員の指導力を高めることが一層重要となっていることから、文部科学省では、都道府県等の研修でも活用できる新学習指導要領に対応した教員研修用教材の作成を行いました。
本研修用教材を積極的にご活用いただき、教える準備を進めるとともに、実際の授業等においてもご活用ください。

として,高等学校情報科「情報I」 教員研修用教材を発行した。その後,令和2年12月に最新の改訂版が出ている。

これをあらためて読み直してみた。
まずは「はじめに」から。
「各項目の具体的な指導」として,次のことが書かれている。少し長いが引用する。

各項目において想定している学習活動や,今回の学習指導要領改訂における変更点は以下のようになる。
 〜 中略 〜
(2)生活や社会における問題を,ネットワークを利用した双方向性のあるコンテンツのプログラミングによって解決する活動を通して,次の事項を身に付けることができるよう指導する。
ア 情報通信ネットワークの構成と,情報を利用するための基本的な仕組みを理解し,安全・適切なプログラムの制作,動作の確認及びデバッグ等ができること。
イ 問題を見いだして課題を設定し,使用するメディアを複合する方法とその効果的な利用方法等を構想して情報処理の手順を具体化するとともに,制作の過程や結果の評価,改善及び修正について考えること。
ここでは,生活や社会の中から見いだした問題を情報通信ネットワークを利用した双方向性のあるコンテンツ のプログラミングによって解決する活動を通して学ぶことを想定している。 この項目は,従前はソフトウェアを用いて学習することの多かった「ディジタル作品の設計と制作」に関する 内容について,プログラミングを通して学ぶことに変更したものである。 加えて,小学校学習指導要領で例示されている,算数科〔第5学年〕の「B図形」の(1)における正多角形の 作図を行う学習などでのプログラミングとの違いを明確にするために,ここでのコンテンツに関しては,「ネット ワークを利用すること」及び「双方向性を持たせる」ことを規定している。なお,ここでの双方向性とは,使用者の働きかけ(入力)によって,応答(出力)する機能であり,ネットワークの利用とはコンテンツにおける情 報を処理する過程の一部に,インターネットや校内LANなどのコンピュータ間の情報通信が含まれることを意 味している。 また,ここで使用するプログラミング言語は,小学校での学習経験や(3)で使用する言語にも配慮し,「課題 の解決に必要な機能を持っているかどうか」,「プログラムの制作やデバッグが容易か」といった視点で各学校で 検討することとなっており,文字により記述する言語(テキスト型プログラミング言語)とするといった規定はしていない。
(3)生活や社会における問題を,計測・制御のプログラミングによって解決する活動を通して,次の事項を身に付けることができるよう指導する。
ア 計測・制御システムの仕組みを理解し,安全・適切なプログラムの制作,動作の確認及びデバッグ等ができること。
イ 問題を見いだして課題を設定し,入出力されるデータの流れを基に計測・制御システムを構想して情報処理の手順を具体化するとともに,制作の過程や結果の評価,改善及び修正について考えること。
ここでは,生活や社会の中から見いだした問題を計測・制御のプログラミングによって解決する活動を通して 学ぶことを想定している。 この項目は従前からプログラミングを通して学ぶこととなっていたが,小学校学習指導要領で例示されている, 理科〔第6学年〕の「A物質・エネルギー」の(4)における電気の性質や働きを利用した道具があることを捉 える学習などでのプログラミングとの違いを明確にするために「計測・制御システムを構想」することを追加し, 課題を解決するために必要となるセンサやアクチュエータの選択や,センサからの入力データに基づき,どのよ うにアクチュエータにデータを出力するかといったことを構想させることを求めている。

「こんなの無理だよ」という声が聞こえてきそうだ。
いくつか拾ってみよう。

生活や社会の中から見いだした問題を情報通信ネットワークを利用した双方向性のあるコンテンツのプログラミングによって解決する活動を通して学ぶことを想定している。

「情報通信ネットワークを利用した双方向性のあるコンテンツのプログラミング」ですぐに思いつくのはHTMLだろう。JavaScriptでいくつかの値を入力させ,その合計を求める,といったプログラムなら,現行の教科書にもある。しかし,これに「生活や社会の中から見いだした問題」がつくと,とたんに難しくなる。どんな問題? たとえば,コロナ感染者の増加についての統計的考察? すると,「値を入力させて,合計を求める」などとはまったくレベルの違う内容となる。

「B図形」の(1)における正多角形の作図を行う学習などでのプログラミングとの違いを明確にするために,ここでのコンテンツに関しては,「ネットワークを利用すること」及び「双方向性を持たせる」ことを規定している。

 どうも,ネットワークと双方向性にこだわっているように思える。多角形の作図との違いなら,ネットワークや双方向性にこだわらずともいくらでもある。センター試験「情報関係基礎」の過去問を見れば,生活や社会で使いそうな問題からゲームまで,いろいろあるのだ。ネットワーク・双方向性にこだわったら,かえって対象範囲を狭めてしまう。

ネットワークの利用とはコンテンツにおける情報を処理する過程の一部に,インターネットや校内LANなどのコンピュータ間の情報通信が含まれることを意味している。

インターネットからデータをダウンロードする,なら話はわかるし,筆者も雨量の統計で実際にやっている。しかし,校内LANとは? 今は,パソコン室内のパソコンから校内LANにアクセスすることはできないようになっている。まさか,職員が使っているデータにアクセスするなどということはしないだろう。パソコン室内でも,サーバ内の特定のフォルダにはアクセスできるが,他のクライアントのパソコンにはアクセスできない。いったい何を想定しているのだろうか。 

ここで使用するプログラミング言語は,小学校での学習経験や(3)で使用する言語にも配慮し,「課題の解決に必要な機能を持っているかどうか」,「プログラムの制作やデバッグが容易か」といった視点で各学校で 検討することとなっており,文字により記述する言語(テキスト型プログラミング言語)とするといった規定は していない。

 今まで考えてきたことである。研修教材には,Python,JavaScript,VBA,Swift,ドリトルがあるが,Scratch でもよいわけだ。しかし,ドリトルやScratchを使って,「ネットワークを利用すること」及び「双方向性を持たせる」という条件が満たせるだろうか。まさか,デスクトップの処理系ではなくWebの処理系(Scratch でも両方ある)を使えばいい,とか,ネット上に作品を載せるということではないだろう。「ネットワークを利用した双方向性のあるコンテンツのプログラミング」であって,「コンテンツでプログラミング」ではないのだから。


問題を見いだして課題を設定し,入出力されるデータの流れを基に計測・制御システムを構想して情報処理の手順を具体化するとともに,制作の過程や結果の評価,改善及び修正について考えること。

第3章に,この計測・制御についての例がある。使っているのは microbit 。VBA以外のプログラミング言語で使える。microbit には加速度センサが付いている。
ところが,「研修の目的」に

・センサからデータを入力したりアクチュエータへデータを出力したりする基本的なプログラムについ て,これらのプログラムを作成する活動を通して,生徒に作成させる授業ができるようになる。
・コンピュータによる計測・制御システムを構成するセンサやアクチュエータ,AD コンバータや DA コ ンバータなどの各装置の役割とそれらの構成の仕組みを理解する

となっているにもかかわらず,示されている例題は,加速度センサを使って,「R」「L」の文字を表示するだけだ。

<演習3> には,

加速度センサ以外のセンサからデータを取得し,センサのデータに応じた動きを LED やアクチュエータにさせてみましょう。

と書いてあるが,どんなセンサを使い,どんなアクチュエータを使うかは何もガイドされていない。microbit ではなく,LEGOなら話はわかるが。

結局,看板だけで中身がないのだ。

さて,もう一つ考えておきたいことがある。microbit で実習をするとなると,当然 microbit を買わなくてはならない。1つ2000円として,40個で8万円だ。その予算はどこから出るのだろう。パソコン室のパソコンはしょっちゅう壊れる。その修理にかなりの予算を使っているはずだ。1年目だけとはいえ,この上,microbit を買う予算はあるのだろうか。

いやはや,とんでもないことになっている。
ということを,全国の情報の教員は知っているのだろうか。